実業補習学校規程ニ関スル件

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文部省訓令第一号

北海道庁 府県

曩ニ実業教育費国庫補助法実業学校令ノ施行セラレシヨリ以来各種実業学校漸ク起リ就中実業補習学校ノ設置セラルヽモノ多キヲ加フルノ状アルハ洵ニ喜フヘキノ現象トス然レトモ実業補習学校ノ性質未タ十分ニ理会セラレサルカ為之カ施設ノ順序方法等ニ関シ或ハ適切ヲ欠クモノナシトセス今日実業補習学校ト称スルモノニシテ往々高等小学校ノ教科ニ幾分ノ変更ヲ施シタルニ過キサルカ如キモノアルハ頗ル遺憾トスル所ナリ今回文部省令第一号ヲ以テ実業補習学校規程ヲ発布シ旧規程ヲ改正シタルハ其ノ本質ヲ明ニシ以テ時勢ノ進歩ト土地ノ情況トニ応シ適当ノ施設ヲ為サシメムコトヲ期シタルニ外ナラス

実業補習学校ハ各種ノ実業ニ従事シ又ハ従事セントスル者ニ簡易ナル方法ニ依リ其ノ職業ニ要スル智識技能ヲ授クルト同時ニ普通教育ノ補習ヲ為スヲ以テ目的トス即チ実業ノ教科ヲ主脳トシ併セテ普通教育ノ補習ヲ為シ両者共ニ其ノ目的ヲ達スルヲ以テ実業補習学校ノ本旨トナスヘキコト専ラ普通教育又ハ実業教育ヲ施スカ為ニ設ケラルヽモノト夐ニ其ノ趣旨ヲ異ニスル所ナリ

教授時間及季節ノ選定ハ実業補習学校ニ於テ深ク意ヲ用フヘキ所ニシテ或ハ夜間或ハ日曜日或ハ職業上ノ休業日或ハ冬期農隙等土地ノ情況、生徒職業ノ種類、繁閑等ニ依リ其ノ修学ニ最モ便宜ナル時期ヲ択ヒ簡易切実ニ教授セシメムコトヲ要ス

実業補習学校ニ於テハ其ノ性質上多数ノ時間ヲ一定シテ教授ヲ為サムコト固ヨリ望ムヘキモノニアラス然ルニ徒ニ教授時数ノ多キヲ貪ルハ今日ノ通弊ニシテ彼ノ従来小学校ニ附設スルモノヽ如キハ概ネ同時ニ教授スルヲ以テ設備及教授共ニ不完全ニ陥リ両者孰レモ其ノ本旨ヲ達スルヲ得サルハ宜シク戒ムヘキコトナリトス特ニ今回附設ノ範囲ヲ拡張シテ啻ニ小学校ノミナラス実業学校及中学校等ニモ及ホシタルヲ以テ此等ノ学校ニ附設スル場合ニアリテハ当該学校教授時間ノ前後又ハ休業日等ニ於テ其ノ教授ヲ為スコトヽセハ互ニ相妨クル所ナキノミナラス教員設備ノ如キモ相兼ヌルノ便宜ヲ得テ各々其ノ効果ヲ完ウスルコトヲ得ヘシ

此ノ如ク実業補習学校ニ於ケル教授ノ時間及季節ハ多種多様ニ且長短不同ニ選定シ得ルヲ常トスルカ故ニ必シモ修業年限ヲ定ムルノ必要ナク寧ロ各教科目ニ就キ之カ修業期間ヲ定ムルノ適当ナルヘキヲ認メ今回之ニ関スル規定ヲ改メタリ而シテ修業期間ハ土地ノ情況ト教科目ノ種類トニ依リ或ハ之ヲ数週数月ノ短期トシ或ハ之ヲ数年ニ亙ルノ長期トスルコト固ヨリ其ノ任意タリ又同一学校ニ於テ修業期間ノ相異ナル教科目ヲ置キ生徒ノ志望ニ応シテ之ヲ選択セシメ或ハ某期間ニ於テ某科目若ハ其[1]事項ヲ修メ他ノ期間ニ於テ他ノ科目若ハ他ノ事項ヲ修メ数期間ニシテ始メテ全教科若ハ某科目ノ全部ヲ修了スルコトヲ得シムルカ如キ最モ実業補習学校ノ妙用ノ存スル所ナルヲ見ルヘシ

普通ノ教科目中読書、習字、算術ハ従来之ヲ必須科目ト為シタリト雖モ補習教育ハモト応用ヲ主トスヘキモノナレハ必シモ是等ヲ独立ノ教科目トシテ設クルヲ須ヒス実業ニ関スル科目ニ依リテモ亦能ク普通教科目補習ノ目的ヲ達スルコトヲ得ヘキカ故ニ今回国語及算術ハ之ヲ欠クコトヲ得シメタリ故ニ普通ノ教科目ハ総テ之ヲ設クルモ悉ク之ヲ欠クモ又ハ単ニ其ノ一科目ヲ設クルモ皆地方ノ便宜タルヘシト雖年少ノ生徒ニシテ普通教育ノ素養十分ナラサルモノニハ成ルヘク之ヲ課シ以テ補習ノ目的ヲ完ウセシムルヲ可トス又土地ノ情況ニ依リテハ日本歴史、理科、唱歌等ノ如キ教科目ヲ加ヘテ補習ヲ為サシムルノ必要ナシトセス故ニ改正ノ規程ニ於テハ此等ノ教科目ヲモ斟酌シ適宜之ヲ加フルノ自由ヲ与ヘタリ然レトモ之カ為ニ限リアル教授時間ニ於テ徒ニ教科目ヲ繁多ナラシムルハ宜シク避クヘキコトナリトス而シテ以上ノ諸教科目ハ之ヲ設ケタル場合ニ於テモ亦皆之ヲ随意科目ト為スコトヲ得シメタルハ生徒各自ノ志望ト学力トニ応シ適切ノ教育ヲ受ケシムルノ要アルニ依ル

徳育ハ教育ノ基礎ニシテ特ニ実業ニ従事スル子弟ニ対シテハ専ラ私利ニ馳スルノ弊ヲ避ケ信用ヲ重ンシ公益ヲ尚フノ気風ヲ養成スルノ要最モ切ナリ宜シク生徒各自ノ性情ニ応シ総テノ教科目ニ通シテ徳性ヲ涵養シ実践躬行ヲ奨励セムコトヲ期セシムヘシ特ニ修身ヲ随意科目ト為シタル場合ニ於テハ最モ茲ニ留意シテ教養指導ノ途ヲ誤ラサラシメムコトヲ要ス

実業ニ関スル科目ハ土地ノ情況ニ応シ選択最モ其ノ宜シキヲ得サルヘカラス省令ニ掲クル所ノモノハ僅ニ其ノ数箇ヲ例示シタルニ過キス故ニ図画、図案ノ如キ物理、化学ノ如キ之ヲ合シテ各々一科目ト為シ又博物ヲ動物、植物、鉱物ニ養蚕ヲ養蚕法、蚕病、採種等ニ商事要項ヲ銀行、保険、倉庫等ニ分科スルカ如ク便宜分合取捨スルコトヲ得ヘキハ勿論ナリトス此ノ他特種ノ職業ノ為ニハ又其ノ教科目ヲ定ムルコトヲ得シメタルカ故ニ必要ニ応シテ機織、刺繍、染色、髹漆、蒔絵、指物、木型、鍛冶、鍍金、陶画、製版、印刷、製本、醸造、製紙、鞣革、製糖、蹄鉄、養禽、養蜂、庭園、製糸、酪農、缶詰、鰹節、海苔、養蠣等ノ事項ニ就キ選定スル等土地ノ情況ニ応シ其ノ職業ニ適切ナラシメムコトヲ要ス而シテ学校ニ於テハ其ノ教授スル所ノ実業ノ教科目ニ依リテ生徒ヲシテ家庭、工場若ハ商店ニ於テ学習シ能ハサル智識技能ヲ修得セシメ以テ生徒カ学校外ニ在リテ実地ニ操作スル所ノ事物ト密接ノ関繋アラシメ内外相応シテ実業ノ発達ニ資セシメムコトヲ期スヘシ

入学ノ資格ニ関シテハ年齢十年以上学力尋常小学校卒業以上ニ於テ之ヲ定ムルコトヲ得シメタルカ故ニ地方ノ情況ト学校ノ種類トニ応シ適宜之ヲ定メ必シモ一律ニ拘泥セシメサラムコトヲ要ス

実業補習学校ハ能ク少額ノ経費ヲ以テ容易ニ設置シ得ヘキカ故ニ主トシテ市町村ノ如キ団体ニ於テ施設スルヲ適当ト為スト雖モ道庁府県立実業学校ニ附設スル場合ニアリテハ道、府県ニ於テ之ヲ設置スルコトヲ得ヘキハ実業学校令第三条ニ規定セラルヽ所ナリ然ルニ是等附設学校ノ設置セラルヽモノ殆ント之レナキノ現状ニ就テハ遺憾ナキ能ハス自今各地方ニ於テ事情ノ許ス限リ其ノ道庁府県立実業学校ニ実業補習学校ヲ附設シ以テ其ノ地方ニ於ケル模範学校ト為シ他ノ学校ヲシテ此ニ則ラシムルアラハ庶幾ハ実業補習教育ノ標的ヲ誤ラサルコトヲ得ン

実業学校ニシテ国庫ノ補助ヲ申請スルモノ比年逓加スルニ拘ラス補助ノ金額ハ自ラ限リアルヲ以テ洽ク其ノ申請ヲ納ルヽコトヲ得ス地方長官ハ宜シク地方経済ノ情況ヲ計リ実業補習学校ノ如キ必シモ多額ノ費用ヲ要セサルモノニ対シテハ地方費ヲ以テ適宜補助スルノ方法ヲ講シ以テ国庫補助ノ及ハサル所ヲ補ヒ且従来補助ヲ受クル所ノ学校ニ対シテハ漸次国庫ノ補助ニ依頼セス独立維持ノ途ヲ立テシメムコトヲ努ムヘシ

今ヤ実業補習学校規程ヲ改正シタルニ依リ地方長官ハ克ク上述ノ主旨ヲ体シ彼ノ名ハ実業補習学校ト称スト雖モ其ノ実小学校ノ変形ニ過キサルカ如キモノニ対シテハ努メテ之ヲ実業補習学校ノ本旨ニ適セシメ以テ名実相副ハシムルノ途ヲ講シ又将来設置セラルヽ所ノ学校ニ対シテハ能ク之カ本旨ヲ誤ルコトナク地方ノ情況ニ適応スルノ施設ヲ為シ以テ十分ノ効果ヲ収メシムヘシ

明治三十五年一月十五日文部大臣 理学博士菊池大麓


正誤

昨十五日文部省訓令第一号中一三八頁上段二十七行其(﹅)事項ハ某(○)事項ノ誤植


  1. 正誤の箇所。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 法律命令及官公文書
  2. 新聞紙又ハ雑誌ニ掲載シタル雑報及時事ヲ報道スル記事
  3. 公開セル裁判所、議会並政談集会ニ於テ為シタル演述

この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。