大塚徹・あき詩集/献詩

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献詩[編集]

―姫路護国神社大祭に―[編集]

古巣
つばめのごとく
戦災の街をはろけく
さまよい抜けて
呆と 仰ぎし
ふるさとの古城
夢にあらじか
そをめぐる一帯の緑地
麓なる護国の宮居も焼けず

おもわざりき 今日をして
天都詔戸の布刀詔戸
薫風は朗々として言祷ぎ祭る
国難の鬼か荒御霊よ

祖国くに敗れては
玉しき宮居
詣ずる人もまばらまばら
こは まこと憤ろしけれ
喪服なる若きおみなひとり
春惜しむくさぐさの花を献げて
涙 滂沱と踞るをみれば
いまははや くれぐれも鎮り給え
永遠とわに 国護る神が和御霊よ

われも またひとり
古巣なき
つばめのごとく
飢え 疲れては
ふと啄みし すみれ一花
廻廊わたりどのの一隅に そを置きて
蒼ざめし 戦災の街に
黄昏を さまよい帰らむ

〈昭和二一年、新涛〉