共産黨宣言/第一章

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共產黨宣言

堺 利彥 共譯
幸德秋水

 一個の怪物がヨーロッパを徘徊してゐる。すなはち共產主義の怪物である。古いヨーロッパのあらゆる權力は、この怪物を退󠄃治するために、神󠄃聖󠄃同盟を結んでゐる。ローマ法皇もツァールも、メッテルニヒもギゾウも、フランスの急󠄃進󠄃黨もドイツの探偵も。

〔譯者󠄃註〕メッテルニヒはオーストリーの宰相、ギゾウはフランスの首相。

 見よ。在野の政黨で、在朝󠄃の政敵󠄂から、共產主義的だといつて誹毀されないものがあるか。また見よ、在野の政黨で、他の一そう急󠄃進󠄃的な反對諸󠄃黨派󠄄に對して、ならびにその保守的な政敵󠄂に對して、共產主義の燒印をつけた詰責を投げ返󠄄さないものがあるか。

 この事實から二つのことがわかる。

 共產主義はあらゆるヨーロッパの權力者󠄃から、旣󠄁に一個の勢力として認󠄃識󠄂されてゐること。

 共產主義者󠄃が全󠄃世界の面前󠄃にその見解、その目的、その傾向を公󠄃然と表示し、黨自身の宣言をもつて、共產主義の怪物のお伽噺と對抗すべき時機が熟してゐること。

 この目的のために、諸󠄃國の共產主義者󠄃がロンドンに集まつて、次󠄄の宣言を起󠄃草した。そしてそれをイギリス語、フランス語、ドイツ語、イタリー語、フレミッシュ語、およびデンマーク語で公󠄃表することにした。

第一章 ブルジョアとプロレタリヤ (1)[1 1]

 在來一切の社󠄃會の歷史は、階級鬪爭の歷史である (2)[1 2]

 自由民と奴隷、貴族と平󠄃民、領主と農奴、ギルド(同業組合)の親方 (3) [1 3]と徒弟職󠄃人、一言にすれば壓伏者󠄃と被壓伏者󠄃とが、古來常に相對立して、或ひは公然の、或ひは隱然の鬪爭を繼續してゐた。そしてその鬪爭はいつでも、社󠄃會全󠄃體の革命的改造󠄃に終󠄃るか、或ひは交戰せる兩階級の共仆れに終󠄃るのであつた。


  1. (1) ブルジョアとは、近󠄃世資󠄄本家の階級、社󠄃會的生產の諸󠄃機關(あるひは諸󠄃手段)の所󠄃有者󠄃、および賃銀勞働の雇用者󠄃を意味する。プロレタリヤとは、自分で生產機關(あるひは生產手段)をもつてゐないので、生活のためには自分の勞働力を賣るほかはない近󠄃世賃銀勞働者󠄃を意味する。
    〔譯者󠄃註〕ブルジョアは初め我々によつて『紳士』と譯され、ブルジョアジーは『紳士閥』と譯された。そして、プロレタリヤは初め『平󠄃民』あるひは『平󠄃民勞働者󠄃』と譯された。
  2. (2) 精󠄃密にいへば、記錄された歷史である。一八四七年には、有史以前に存在した社󠄃會組織は殆んど全く知られてゐなかつた。その後、ハクスタウゼンはロシヤにおける土地共有制を發見し、マウレルはすべてのチュートン人種が歷史に入るまへ、土地共有を社󠄃會の基礎としてゐたことを論證し、それから次第に、村落共產制がインドからアイルランドまで到る處において、社󠄃會の原始的形態であること、もしくはあつたことが分つて來た。そしてこの原始的共產社󠄃會の內部組織は、氏の眞性質、および氏と種族との關係についての、モルガンの完成的大發見によつて、初めて標本的の形態で明示された。この原始的共產制の解體とともに、社󠄃會はべつべつの、そして遂󠄅には相反目する諸󠄃階級に分れはじめたのである。
    〔譯者󠄃註〕モルガン著󠄃『古代社󠄃會』およびエンゲルス著󠄃『家族・私有財產および國家の起󠄃源』を見よ。
  3. (3) ギルドの親方とは、正式の組合員たる職人のことで、組合の頭ではない。

 上古の諸󠄃時代にあつては、殆んど到る處に、社󠄃會を種々な等級に分けた複雜な排列法、社󠄃會的地位の種々雜多な區分が行はれてゐるのを見る。すなはちローマの古代には、貴族、騎士、平󠄃民、奴隷があり、中世には、領主、家來、親方、徒弟、農奴がある。そしてなほその諸󠄃階級の殆んどすべてに、またそれぞれの小區分󠄃がある。

 封建社󠄃會の滅亡から發生した近󠄃世のブルジョア社󠄃會も、階級對立を除去してはゐない。ただ新しい階級をつくり、新しい壓伏條件をつくり、新しい鬪爭形式をつくつて、昔のに代へただけである。

 けれども、我々の時代、すなはちブルジョアの時代は、この階級對立を單純化󠄃したといふ特徵をもつてゐる。全󠄃社󠄃會は次󠄄第々々に、相敵󠄂視する二大陣營、直接相互に對立する二大階級に分󠄃裂しつつある。すなはちブルジョアとプロレタリヤである。

 そもそも中世の農奴の中から、最初の都󠄃市における特許市民(あるひは廓外市民)が出て來てゐる。そしてその特許市民の中から、ブルジョアジーの最初の要󠄃素が發達󠄃してゐる。

 アメリカの發見、喜望󠄅峰の廻航は、この新興のブルジョアのために新しい地盤をつくり出した。東インドおよび支那󠄃の市場、アメリカの植民、植民地との貿易、交換手段および商品の增加は、商業に、航海󠄃に、工業に、空󠄃前󠄃の刺戟を與へ、それによつて、旣󠄂に崩壞しかけてゐた封建社󠄃會內の革命要󠄃素に急󠄃激な發達󠄃を起󠄃させた。

 そこで從來の、封建的もしくはギルド的の工業經營法は、もはや新市場とともに增大するところの需要󠄃に應ずることが出來なくなつた。工場的手工業がそれに代つて起󠄃つて來た。ギルドの親方は工場手工業的中產階級のために押しのけられた。種々なる組合と組合との間の分󠄃業は、單一なる工場內の分󠄃業の前󠄃に消󠄃滅した。

 しかるに市場はいよいよ擴大し、需要󠄃はいよいよ增加した。工場的手工業ももはやそれに應ずることが出來なくなつた。そこで蒸氣と大機械が工業生產を革命した。工場的手工業の代りに近󠄃代的大產業が起󠄃り、工場手工業的中產階級の代りに產業的大富豪、全󠄃產業軍の首長、すなはち近󠄃代的ブルジョアが起󠄃つた。

 この近󠄃代產業が世界市場を建設した。アメリカの發見は旣にその準備をしてゐたのである。この世界市場は商業に、航海󠄃に、陸上の交通󠄃に、絕大の發達󠄃をなさしめ、その發達󠄃がまた、產業の擴大に逆󠄃影響を及󠄃ぼし、つまり工業、商業、航海󠄃、鐵道の擴大するその同じ度合ひにおいて、ブルジョアジーが發達󠄃し、その資󠄄本が增加し、中世から殘存してゐるすべての階級を後ろの方に押しやつてしまつた。

 かくて我々は、近󠄃代的ブルジョアジーが、長い發達󠄃行程󠄃の產物であり、また、生產および交換方法におけるいくた連󠄃續せる諸󠄃變革の產物であることを知る。

 このブルジョアジー發達󠄃の各段階は、またそれに相應する政治的進󠄃步を伴󠄃つてゐた。すなはち初めは封建的領主の支配下に抑壓された一階級であり、また武裝した自治團體のコンミュン(4)[1-4 1]であり、あるところでは(イタリーおよびドイツにおけるごとく)獨立の都󠄃市共和制となり、あるところでは(フランスにおけるごとく)王政治下の第三階級(租稅負擔階級)となり、次󠄄に工場的手工業の時代にあつては、半󠄃封建的もしくは專制的王國內における貴族との均衡物となり、また一般大王國の主要󠄃なる地盤となり、最後には、大產業および世界市場の發現以後、近󠄃世的代議制國家において、全󠄃くその掌中に政權を把握した。近󠄃世國家の政府なるものは、ブルジョア階級全󠄃體のためにその共同事務を處理する委員會に過󠄃ぎない。

  1. (4) イタリーおよびフランスの都󠄃市の住民は、その都󠄃市的共同組織をコンミュンと呼んでゐた。そしてそれによつて、封建領主から最初の自治權を買ひ取り、もしくは捩󠄃ぢ取つた。
     コンミュンとは、フランスの都󠄃市がその發生時代からもつてゐる名稱で、彼らが第三階級として封建領主から、地方自治制と參政權とを獲得したその以前󠄃、旣にこの名稱があつた。大體上ここでは、ブルジョアの經濟的發達󠄃にはイギリスを標本國とし、その政治的發達󠄃にはフランスを標本國としてゐる。

 ブルジョアジーは歷史上において、最も革命的な任務を果たしたものである。

 ブルジョアジーが政權を握つたところでは、すべての封建的、主從的、牧歌的なる諸󠄃關係が破壞された。(從來)人を、その生れながらの目上と結びつけてゐた封建的の色絲は、無殘に引きちぎられて、人と人とを結びつけるものは、ただ赤裸々の利益󠄃、冷酷󠄃な現金勘定よりほかには何ものもないことになつた。宗敎的の熱情󠄃や、武士的の感激や、町家的の人情󠄃などいふ神󠄃聖󠄃な渴仰心は、氷のやうに冷たい主我的な打算の中に溺らされてしまつた。個々の人物の値打ちは交換價値の中に消󠄃え去り、永く確保された無數の特許的自由の代りに、ただ一つの無茶な商業的自由が設定された。これを一言にすれば、ブルジョアジーは、宗敎的および政治的の幻影をもつて覆はれた搾取の代りに、公然たる、恥知らずの、直接な露骨な搾取を設定したのである。

 ブルジョアジーは、從來名譽と尊󠄄敬とを博󠄃してゐたすべての職󠄃業から、その後光を剥ぎ去つてしまつた。醫師も、法律家も、僧󠄅侶も、詩人も、學者󠄃も、みな彼らに雇はれる賃銀勞働者󠄃に變化󠄃されてしまつた。

 ブルジョアジーは、家族關係からそのしほらしいセンチメンタルなヴェールを破り取つて、純然たる一個の金錢關係に引き戾してしまつた。

 ブルジョアジーは、保守主義者󠄃がいたく感嘆󠄃してゐる、あの中世時代の蠻勇的行動が、懶惰を極めた安逸󠄄生活といかに似合ひの相棒であるかを明示した。それは實に初めて、人間の活動がどこまでのことをなしとげうるかを示したものである。すなはち實にエジプトのピラミットや、ローマの水道󠄃や、ゴチックの堂塔にも優る大工事を起󠄃し、また昔の民族移住や十字軍を凌駕する大遠󠄄征を決行したものである。

 ブルジョアジーは、生產機關を、從つて生產關係を、從つてまた一般の社󠄃會關係を、絕えず革命することなしには存在することが出來ない。これに反し、古い生產方法を何らの變化󠄃なく保存することが、前󠄃代におけるすべての工業階級󠄃の第一の生存條件である。故に、生產の絕えざる革命、あらゆる社󠄃會狀態の不斷の動搖、永久の不安と擾亂、それがすなはちブルジョア時代がすべての前󠄃代と異なる特徵である。すべての確立し凝固した諸󠄃關係は、それに伴󠄃ふ大切な舊說古傳とともに一掃󠄃せられ、すべての新式の事物も、それがまだ固定せぬ前󠄃に廢物となつてしまふ。堅牢なものは悉く氣化󠄃し、神󠄃聖󠄃なものは悉く褻瀆され、そして人間は遂󠄅に自分󠄃の生活狀態と、自分󠄃と同類󠄃との關係を、冷靜な目で見つめるよりほかはないことになる。

 ブルジョアジーは、その生產物のために絕えず市場を擴大する必要󠄃があるので、地球表面の全󠄃部に追󠄃ひやられる。それは到る處に巢をつくり、到る處に住みつき、到る處に因緣を結ばねばならぬ。

 ブルジョアジーは、世界市場の搾取によつて、各國各地の生產および消󠄃費にコスモポリタン的性質を附與した。產業の足のしたから國家的地盤を引き拔いて、保守主義者󠄃の大なる悲嘆󠄃を招いた。古來の國家的產業は旣に破壞され、なほ日々破壞されつつある。そしてそれに代る新產業を輸󠄃入することは、すべての文明國にとつて生死の問題であり、またその新產業は、もはや內國の原料でなく、最も遠󠄄隔した諸󠄃地方からの原料に加工し、またその生產物は內國ばかりでなく、世界のあらゆる方面で消󠄃費される。昔の、內國產によつて充足された需要󠄃の代りに、今は最遠󠄄隔の國土の產物でなければ充足されない、新しい需要󠄃が生じてゐる。昔の、地方的國家的の自足と閉居との代りに、今は諸󠄃國民相互の間における、各方面の交通󠄃、各方面の依賴が生じてゐる。そして精󠄃神󠄃的生產もやはりこの物資󠄄生產と同じである。個々の國民の精󠄃神󠄃的作物は、世界共通󠄃の所󠄃有となる。國民的の偏執と僻見とは、次󠄄第々々に不可能となる。そして多數の國民的、地方的の文學の間から、一個の世界的文學が起󠄃る。

 ブルジョアジーは、すべての生產機關を急󠄃速󠄃に改善することによつて、また交通󠄃機關を絕えず進󠄃步させることによつて、すべての國民を(野蠻國民をすらも)文明に引き入れる。彼らはその商品の廉󠄃價を重砲󠄃として、あらゆる支那󠄃の城壁をも擊破した。彼らはまたそれによつて、頑固に外人を憎󠄃惡する野蠻人をも降伏させた。すべての國民は、もし滅亡を欲しないならば、ブルジョアジーの生產方法を採󠄃用することを餘儀なくされる。いはゆる文明を自國に輸󠄃入すること、すなはち自らブルジョアとなることを餘儀なくされる。これを一言にすれば、ブルジョアジーは自分󠄃の影像に從つて世界をつくるものである。

 ブルジョアジーは、地方を都󠄃會の支配下に屈せしめた。彼らは都󠄃會の人口を、農村に比べて著󠄃るしく增加させた。そして全󠄃人口の多大な部分󠄃を、農村生活の愚昧から奪ひ去つた。彼らは農村を都󠄃會に屈せしめたと同じく、野蠻國および半󠄃野蠻國を文明國に、農業國民をブルジョア國民に、東洋を西洋に從屬させた。

 ブルジョアジーは、いよいよますます、生產機關(生產手段)の、財產の、および人口の散在を抑止した。人口は集團され、生產機關は集中され、そして財產は少數者󠄃の手に集積された。それの必然な結果は、政治上の中央集權であつた。べつべつの利害󠄆、法律、政府、稅制をもつてゐた獨立の諸󠄃地方、殆んど單なる聯合に過󠄃ぎなかつた諸󠄃地方が、一個の國民、一個の政府、一個の法律、一個の全󠄃國的階級󠄃利益󠄃、一個の關稅區域に押し堅められてしまつた。

 ブルジョアジーは、僅かに百年ばかりの階級󠄃的支配の中に、過󠄃去一切の諸󠄃時代を合したよりも、一そう多量な、一そう巨󠄃大な生產力をつくり出した。自然力の征服、大機械、工業および農業における化󠄃學の應用、汽船、鐵道󠄃、電信、全󠄃世界各地の開墾、河川航路の開鑿、呪文をもつて地下から呼び起󠄃したやうな全󠄃人口の增殖、――およそこれほどの生產力が社󠄃會的勞働の胎內に眠つてゐたとは、いかなる前󠄃時代にもかつてその徵候がなかつたではないか。

 かくて我々は知る。ブルジョアジーの成長の基礎であつたところの、生產および交換機關は、旣に封建社󠄃會のうちにつくられてゐたのである。この生產および交換機關の發達󠄃のある段階において、封建社󠄃會が生產し交換したその諸󠄃關係、すなはち農業および工業の封建的組織󠄂、これを一言にすれば、封建的財產關係が、旣に發達󠄃した生產力と、もはや適󠄃合しないことになつたのである。彼らは生產を促進󠄃しないで、それを妨害󠄆することになつた。彼らはまさにいくたの邪󠄄󠄅魔物になつた。彼らは爆破されねばならないのであつた。そして爆破された。

 彼らの代りに現はれたものは自由競爭であつた。それと同時に、それに適󠄃合する社󠄃會的および政治的の組織󠄂も起󠄃つて來た。ブルジョア階級󠄃の經濟的および政治的支配も起󠄃つて來た。

 これと同樣な運󠄃動がいま我々の眼前󠄃にも行はれてゐる。この偉大な生產および交換機關を呼び出したところの、ブルジョア的の生產および交換關係、すなはちブルジョア的の財產關係、すなはち近󠄃代のブルジョア社󠄃會は、恰かもあの魔術󠄃師が、呪文を唱へて地の底からさまざまの魔物を呼び出しながら、今は旣にそれを制御する力を失つたのに似てゐる。この數十年來の工業および商業の歷史は、近󠄃代の生產力が、近󠄃代の生產關係に對し、ブルジョアジーとその支配との生存條件たる財產關係に對し、叛逆󠄃した歷史に過󠄃ぎない。その證據としては、かの商業恐慌が、一定の期間を隔ててその襲󠄂來を繰返󠄄し、その一回ごとにますます甚だしくブルジョア社󠄃會の全󠄃體の存在を脅威してゐる事實を擧げれば足りる。この商業恐󠄃慌の際には、現存の生產物の大部分󠄃が定期的に破壞されるばかりでなく、その以前󠄃につくられた生產力の大部分󠄃もまた同じである。またこの恐󠄃慌に際しては、過󠄃去のあらゆる時代ならばいかにも不道󠄃理と思はれるはずの、一種の社󠄃會的流行病、すなはち生產過󠄃剩といふ流行病が發生する。そのとき、社󠄃會は突󠄃如として、一時的の野蠻狀態に返󠄄つたやうに見える。饑饉が起󠄃り、大破壞が起󠄃つて、社󠄃會一切の生活資󠄄料を杜絕したかのやうに見える。工業も商業も悉く破壞されたやうに見える。それは何故か。ほかでもない、社󠄃會があまり多くの文明、あまり多くの生活資󠄄料、あまり多くの工業、あまり多くの商業をもつたからである。社󠄃會の用を務むべき生產力は、もはやブルジョアの財產關係を促進󠄃させる役には立たない。否、かへつてその財產關係に對してあまりに有力となり、その財產關係のために妨害󠄆を蒙ることになる。そこで生產力がその妨害󠄆を突󠄃破するたびごとに、ブルジョア社󠄃會の全󠄃部を無秩序に陷れ、ブルジョア財產の存在を危くするのである。ブルジョアの諸󠄃關係は、自分のつくり出した富を包󠄃容するのに、あまり狹隘になつて來たのである。しからばブルジョアジーは何によつてこの恐󠄃慌を切り拔けるか。一面には生產力の大額を强壓的に破壞し、一面には新市場を征服し、および舊市場の搾取を一そう根本的にやる。さうしてどうなるか。それはすなはち、一そう廣大な、一そう猛烈な恐󠄃慌を準備し、恐󠄃慌を防遏する手段方法を極度に減少することになる。

 ブルジョアジーが封建制度を顚覆󠄄󠄃󠄄󠄃したその武器󠄃が、今はブルジョアジー自身に向けられてゐる。

 ただしブルジョアジーは、自分を殺󠄃すべき武器󠄃を鑄造󠄄したばかりでなく、またその武器󠄃を使用すべき人物をつくりだした。すなはち近󠄃代の勞働者、プロレタリヤがそれである。

 かくてブルジョアジー(すなはち資󠄄本)が發達󠄃すればするほど、その同じ比例をもつて、近󠄃代勞働者󠄃の階級(すなはちプロレタリヤ階級)が發達󠄃した。このプロレタリヤは、仕事を見つけた間だけ生活することが出來、またその勞働が資󠄄本を增大する間だけ仕事をもつことが出來る。彼らは自分󠄃の身を切賣りにするよりほかないもので、他のあらゆる商品と同じく一個の商品である。從つて競爭上の諸󠄃變化と、市場內の諸󠄃變動とに曝されるものである。

 プロレタリヤの勞働は、機械使用の增大と分󠄃業とのために、全󠄃くその個人的性質を失ひ、從つてまた勞働者󠄃の興味を失つた。すなはちプロレタリヤは單なる機械の附屬物となり、その機械に對して彼の要󠄃求されるところは、ただ最も單純な、最も單調な、最も容易に習󠄃得される手業である。從つてその勞働者󠄃を產出する費用は、ただ僅かにその一身を維持し、およびその種を蕃殖させるに必要󠄃なだけの生活資󠄄料に制限される。しかるに商品の價格は、從つて勞働の價格も、その生產費と等しいものである。そこで勞働の沒趣味が增加すればするほど、それと同じ程󠄃度において賃銀は減少する。それにまた、機械の使用と分󠄃業とが增大すればするほど、或ひは勞働時間の延長により、或ひは一定の時間內に要󠄃求される勞働の增加により、或ひはまた、機械の運󠄃轉力の增加等により、その同じ程󠄃度において勞働の總量が增大する。

 近󠄃世產業は、族長的な親方の下にあつた小さな職󠄃場を、工業資󠄄本家の大工場に變更したものである。その工場に詰めこまれる勞働者󠄃の群は、軍隊󠄄的に編󠄃成されてゐる。彼らは產業軍の兵卒として、多數の士官、下士官などを有する完全󠄃な統御組織󠄂の下におかれてゐる。彼らはブルジョア階級󠄃、ブルジョア國家の奴隷であるばかりでなく、機械のために、監督者󠄃のために、殊にはその製造󠄄󠄃󠄄󠄃家たるブルジョア個人のために、日々刻󠄂々、奴隷として使役されてゐる。そしてその專制政治の目的が單に營利であることが明示されればされるほど、その賤しむべく、厭ふべく、憎󠄃むべきことが甚だしさを加へて來る。

 手の勞働が熟練󠄃と力とを要󠄃することが少くなるに從つて、すなはち近󠄃󠄃世產業がいよいよ發達󠄃するに從つて、男子の勞働が女子と小兒の勞働にとつて代られる。性の差異と年齡の差異とは、勞働階級󠄃にとつては、もはや何らの社󠄃會的價値をもつてゐない。彼らはみな等しく勞働器󠄃具であつて、ただその年齡と性とにより、使用上に費用の多少を生ずるだけである。

 勞働者󠄃が、旣に製造󠄄󠄃家から搾取されて、その勞働賃銀を受取ると、今度はブルジョアジーの他の部分、すなはち家主、小賣商人、質屋などが彼に襲󠄂ひかかる。

 從來の中產階級󠄃の下層󠄃、すなはち小さい工業者󠄃、小商人、および小金持、職󠄃人と農夫、すべてこれらの諸󠄃階級󠄃は漸次󠄄プロレタリヤに陷る。その原因の一半󠄃は、彼らの小資󠄄本が大產業の經營に引き足りないで、より大なる資󠄄本家との競爭に負けるからであり、また他の一半󠄃は、彼らの專門技術󠄃が新しい生產方法に對して無效になるからである。かくてプロレタリヤは國民のあらゆる方面から徵募されてゐる。

 プロレタリアートは種々な發達󠄃の段階を經過󠄃する。彼らのブルジョアジーに對する戰ひは、その存在とともに始まる。最初は個々の勞働者󠄃が、次󠄄には一工場內の勞働者󠄃が、次󠄄には一地方における一勞働部門の勞働者󠄃が、直接に彼らを搾取する個々のブルジョアに對して戰ふ。彼らはまだブルジョアの生產關係に對して攻擊を向けるのでなく、生產器󠄃具そのものに對して攻擊を向ける。すなはち彼らは外國の競爭品を破壞し、機械を叩きこはし、工場を燒き拂ふ。彼らは旣に亡びた中世勞働者󠄃の地位を取り戾さうとする。

 この段階にあつては、勞働者󠄃はまだ全󠄃國に散在して、競爭のために分󠄃裂してゐるところの集團である。當時、勞働者󠄃が多數團結の實を示した場合があるのは、それはまだ彼ら自身が結合したのではなく、ブルジョアジーの結合した結果である。ブルジョアジーとしては、自分󠄃の政治上の目的を達󠄃するために、全󠄃プロレタリアートを動かす必要󠄃があり、そして、一時はそれをなしうるのである。故にこの段階にあつては、プロレタリヤは自分󠄃の敵󠄂と戰はないで、自分󠄃の敵󠄂の敵󠄂と戰ふ。すなはち專制王國の遺󠄃物、大地主、非工業的のブルジョア、小ブルジョアなどと戰ふ。かくて歷史的運󠄃動の全󠄃部はブルジョアの手に集中され、それによつて獲得されるすべての勝󠄃利は、ブルジョアの勝󠄃利である。

 しかるに產業の發達󠄃とともに、プロレタリヤはその數を增加したばかりでなく、ますます大なる集團に押し堅められ、從つてその力が增大し、また彼らがその力を感知する。機械が次󠄄第々々に勞働の差異を消󠄃し、殆んど到る處において、賃銀を同一の低い水準に引下げると同時に、プロレタリヤの利害󠄆、プロレタリヤの內部における生活狀態が次󠄄第々々に平󠄃均して來る。ブルジョア同志の間におけるますます激烈な競爭、およびそれから生ずる商業恐󠄃慌が、いよいよ勞働者󠄃の賃銀を動搖させる。不可避󠄃の勢ひをもつてますます急󠄃激に發達󠄃する機械の改善が、いよいよ勞働者󠄃の全󠄃生活を不安にする。個々の勞働者󠄃と個々の資󠄄本家との衝突󠄃が、次󠄄第々々に兩階級の衝突󠄃たる性質を餘計に帶びて來る。そこで勞働者󠄃は資󠄄本家に對して組合をつくりはじめる。彼らは勞働賃銀を維持するために結合する。彼らは臨機の反抗運󠄃動のために、かねてその資󠄄力を養ふべく、永續的の團體を組織󠄂する。それがをりをりは破裂して一揆となる。

 勞働者󠄃はをりをり勝󠄃利を得るが、それはただ一時的に過󠄃ぎない。彼らの鬪爭の󠄃󠄃眞󠄃の效力は、その直接の結果にあるのではなく、ただ勞働者󠄃の團結が絕えず擴大するところにある。勞働者󠄃の團結は、大產業がつくり出した交通󠄃機關の發達󠄃によつて助長される。交通󠄃機關の發達󠄃は、諸󠄃地方の勞働者󠄃をして互ひに聯絡をとらしめる。ただこの聯絡のおかげで、到る處に同性質を有する無數の地方的鬪爭が、一個の全󠄃國的鬪爭、一個の階級鬪爭に集中される。そして階級鬪爭は必ず政治的鬪爭である。もしこれが、あの道󠄃路の不便な中世の町人であつたなら、かういふ團結のためには數百年を要󠄃したであらうに、鐵道󠄃のある近󠄃代のプロレタリヤは、僅々數年の間にそれを成就したのである。

 プロレタリアートのかういふ階級的組織󠄂、從つてまたその政黨組織󠄂は、また絕えず勞働者󠄃自身の間の競爭のために破壞される。けれども、それは必ずまた勃興して、一そう强く、一そう堅く、一そう有力となる。彼らはブルジョアジーの間における黨爭を利用して、勞働者󠄃の特殊の利益󠄃に對する立法的認識󠄂を强要󠄃する。イギリスにおける十時間勞働法のごときがすなはちそれである。

 舊社󠄃會における一般の諸󠄃衝突󠄃は、また種々の點においてプロレタリヤの發達󠄃を促す。ブルジョアジーは不斷の鬪爭の中に立つてゐる。初めは貴族と戰ひ、後には產業の進󠄃步と利害󠄆を異にする、ブルジョアジー自身の他の部分󠄃と戰ひ、また常にあらゆる外國のブルジョアジーと戰ふ。かういふいろいろの鬪爭において、ブルジョアジーはプロレタリヤに訴へ、その助力を借る必要󠄃があるので、從つてプロレタリヤを政治運󠄃動に引きいれねばならぬことになる。故にブルジョアは自分󠄃の敎育的要󠄃素、すなはち自分󠄃と戰ふべき武器をプロレタリヤに供給することになる。

 また、前󠄃にいつたとほり、支配階級の一部分󠄃が、產業發達󠄃のために、擧つてプロレタリヤに落ち込󠄃む。或ひは少くとも、その生活條件を脅威される。彼らがまた多量の敎育的要󠄃素をプロレタリヤに附與する。

 最後に、この階級鬪爭がいよいよ決戰の時期に近󠄃づく時には、支配階級の內部(すなはち舊社󠄃會全󠄃體の內部)における分󠄃解の過󠄃程が、すこぶる激烈大膽な性質を帶び、支配階級の一小部分󠄃は自らその所󠄃屬を脱して、革命階級(すなはち將來をその手の中に握つてゐる階級)に投ずる。故に、むかし貴族の一部分󠄃がブルジョアに投じたと同じやうに、今はブルジョアの一部、殊にこの歷史的運󠄃動の全󠄃體を學理的に理解しうるに至つたところの、思想家的ブルジョアの一部が、プロレタリヤに投ずる。

 今日、ブルジョアと對立してゐるすべての階級の中で、ただプロレタリヤのみが眞󠄃實の革命階級である。他の諸󠄃階級は大產業のために衰頽し、滅亡󠄃するものであるが、プロレタリヤはすなはち大產業に特有な產物である。

 中產階級の下層󠄃たる、小製造󠄄家、小商人、職󠄃人、農夫等もまたみなブルジョアジーと戰ふ。けれどもそれは、中產階級としての滅亡󠄃を免󠄄れんがために戰ふのである。故に彼らは革命的でなく、保守的である。いなむしろ彼らは反動的である。彼らは歷史の車輪を後ろにまはさうとするものである。もし彼らが革命的であるとすれば、それは彼らがプロレタリヤに落ちこみかけてゐることを悟つたからである。彼らは現在の地位を防衞するのではなく、將來の利益󠄃を防衞するのである。すなはち彼らはプロレタリヤの地位に立つために、自分の特殊な地位を棄てるのである。

 ルンペンプロレタリヤ、すなはち舊社會の最下層にある、腐敗墮落した貧󠄃民もまた、場合によつてプロレタリヤの革命運󠄃動に誘ひ込󠄃まれるだらう。けれども彼らの生活狀態から見ると、彼らはむしろ喜んで反動的陰謀のために買收されるだらう。

 舊社會の生活條件は、今は旣󠄁にプロレタリヤの生活條件の中に滅却されてゐる。プロレタリヤは無財產である。彼らがその妻子に對する關係は、もはやブルジョアの家族關係と少しの共通󠄃點をももつてゐない。近󠄃世的工業勞働、資󠄄本の下における近󠄃世的屈從は、イギリスはフランスに同じく、アメリカはドイツに同じく、すべてプロレタリヤからその國民的特徵を剝ぎ去つてゐる。法律、道󠄃德、宗敎、彼らにとつてはみな悉くブルジョア的偏見であつて、その背後には必ず、それだけのブルジョア的利益󠄃が隱されてゐるのである。

 從來、政權を握つたすべての階級は、全󠄃社󠄃會を自分󠄃󠄃らの收益󠄃條件に屈從させて、そして自分󠄃󠄃らの旣󠄁得の地位を確保しようとした。しかるにプロレタリヤは、從來の自分󠄃󠄃の所󠄃得方法(從つてまた、從來一般の所󠄃得方法)を廢止して、初めて社󠄃會的生產力を握ることが出來る。プロレタリヤは自分󠄃󠄃のものとして保護すべきものが一つもない。彼らはただ、あらゆる從來の、私有的保證、私有的保護を破壞すれば足りるのである。

 從來のすべての運󠄃動は、みな少數者󠄃の運󠄃動、もしくは少數者󠄃の利益󠄃のためにする運󠄃動であつた。プロレタリヤの運󠄃動は、大多數の利益󠄃のためにする、その大多數の獨立の運󠄃動である。しかるに、現社󠄃會の最下層󠄃たるこのプロレタリヤは、外面の正式社󠄃會を構󠄃成してゐるところの、上層󠄃全󠄃部を空󠄃中に吹き飛ばさなくては、自立し自營することが出來ないのである。

 プロレタリアートのブルジョアジーに對するこの鬪爭は、形式上(實質上はさうでないが)、最初は一國的である。各國のプロレタリアートは、必ずまづ、自國のブルジョアジーを處分せねばならぬのである。

 我々は今、プロレタリアートの發達󠄃について、その最も一般的なる諸󠄃段階を叙述󠄃し、現社󠄃會の內部における、大なり小なり覆面された內亂から、遂󠄅にそれが爆破して公󠄃然の革命となり、ブルジョアジーを顚覆してプロレタリアートの支配を樹立するところまで到達󠄃した。

 從來のすべての社󠄃會は、前󠄃に述󠄃べたとほり、壓伏階級と被壓伏階級との敵󠄂對の上に立つてゐた。けれども一階級を壓伏するためには、その階級が少くとも奴隷的存在を續けうるだけの、ある生活條件が保證されてあらねばならぬ。農奴は農奴制の下において、その村邑の公󠄃民に立身することが出來たし、小町人はまた、封建的專制政治の抑壓のもとにあつて、ブルジョアになることが出來た。しかるに近󠄃世の勞働者󠄃は、產業の進步とともに向上するのではなく、却つて自分󠄃の階級の生活條件より以下にだんだん深く沈んで行くのである。すなはち勞働者󠄃は貧󠄃民となり、貧󠄃民は人口と富との增加に比し、一そう急󠄃速󠄃に發達する。そこでブルジョアジーがなほ永く社󠄃會の支配階級となること、そしてその階級の生活條件を定法として社󠄃會に强ひることの不適󠄃當が明瞭となる。彼らが支配者󠄃たるに不適󠄃當な所󠄃以は、すなはちその奴隷制の內部において、奴隷に生存そのものをすら確保することが出來ないといふ點にある。また彼らが奴隷から養はれるのでなく、却つて奴隷を養はねばならぬほどの境󠄂遇󠄄に、奴隷を沈ませるのやむなきに至つた點にある。社󠄃會はもはやブルジョアジーの下に生活することが出來ない。換言すれば、ブルジョアジーの生活はもはや社󠄃會と兩立しえないのである。

 ブルジョア階級の存在、およびその支配權の根本條件は、私人の手の中に富を集積することである、資󠄄本の形成および增大である。そして資󠄄本の條件は賃銀勞働である。そして賃銀勞働は全󠄃く勞働者󠄃間の競爭の上に立つてゐる。しかるにブルジョアジーが無意識󠄂に、そして無抵抗に促進󠄃した產業の進󠄃步は、競爭による勞働者󠄃の孤立を改めて、協力による彼らの革命的結合をつくる。だから大產業の發達󠄃は、ブルジョアジーが生產をなし、產出物を領有するその基礎自體を、ブルジョアジーの足の下から引き拔くものである。故にブルジョアジーが產出するものは、第一に自分󠄃の墓堀り人である。ブルジョアの沒落と、プロレタリヤの勝󠄃利とは、共に不可避󠄃である。