ハリー・S・トルーマンの第2回一般教書演説

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演説[編集]

上院議長[1]下院議長[2]、並びに合衆国議会の議員諸君よ。

私が前回ここへ来て以来、諸君の多くが改革を支持してくれた[3]ことは喜ばしい。

本日私が諸君の許に来たのは、憲法の言を用いれば、連邦の現況について報告するためであり、また必要かつ適切と考える施策を勧告するためである[4]

もっと言えば、諸君が己の職務を遂行するのを歓迎するためであり、また今後2年間米国民に対する我々の義務を履行すべき方法について諸君と議論するためである。

この国の将来を決する力は、我々の手――諸君及び私の手――の内にある。それは、憲法によって規定されているのである。

もしも本年及び明年のうちに、生ずる問題の各々に対して取るべき正しい道を見付けられるならば、そして万難を排してその道を進む勇気と決意とを持つならば、我々は国民のために、未曾有の幸福を獲得できよう。そして、もしも世界の他の諸国と真摯に、粘り強く、賢明に協力を続けるならば、我々は――平和を求める隣人の意志を聞き入れ――世界のために恒久平和をもたらし得るであろう。

だが、これらの目標を実現するにば、議会及び大統領は今後2年間協力せねばならない。議会の多数派が大統領の反対党によって占められた[5]ことは、我が国の歴史においては珍しくはない。私は、任期中にその所属政党が一院または両院で少数派となった、20番目の合衆国大統領である。1番目はジョージ・ワシントンであった。ウィルソンは18番目、そしてフーヴァーは19番目であった。

若干の問題について、議会と大統領が実際に見解を異にしているらしいことは判っている。しかし、党派の違いが戦争の扱いに関して具体的対立を惹起したことはなかった。のみならず、我が国の国際関係の扱いに際しても、戦時中も戦後も、党派の違いは具体的なものとはならなかったのである。

若干の国内問題について、我々はきっと、そして恐らくは必ずや、対立するであろう。そのこと自体は恐れるべきものではない。それは我が国の政治組織には初めから内在しているのである。問題は対立のあり方である。見解を異にする者同士といえども、共通の利益のために誠実に協力することは可能である。この精神の下、党利に囚われずに対立を解決しなければ、我々は国家の安全を危険に晒し、進歩の機会を破壊してしまうであろう。

全般的国内経済[編集]

1947年の年頭に当たり、我が国の経済は大いなる機会を皆に提供している。我々は事実上の完全雇用を獲得している。我が国のサーヴィスの生産高は、戦前よりも50%増加した。1946年国民所得は、平時の如何なる年よりも高かった。我が国の食料生産はかつてなく高い。過去5年間に、我が国の生産施設はほぼ全分野において拡張された。今や米国の生活水準はこれまでになく高く、住宅不足が解消されればさらに高まるであろう。

我々は過去数ヶ月間に、連邦政府が戦時中に実施を強いられた数々の緊急統制を速やかに撤廃した。残りの統制は大衆を保護するに必要とされる限りにおいてのみ残されるであろう。民間企業は国内経済の拡張を継続するために、最大限の自由が与えられねばならない。

1946年12月31日の声明にて、私は交戦状態の終結を宣言した。これにより、若干の時限立法と若干の大統領権限とは終了した。

2組の暫定的法律がなおも残っている。1組目は、「緊急事態」にある間は議会の委任によって継続されるべきものである。2組目は、「戦争終焉」まで継続されるべきものである。

私は、「緊急事態」にある間は継続すると規定している一部の法令について、廃止するよう議会へ勧告する所存である。同時に、この部類に属する他の法令については、条約または立法行為によって戦争状態が終焉するまで延長するよう勧告する。戦争状態が終結するまで継続するこれらの法令に関しては、議会が迅速に各法令を個別に検討し、必要とあらばこれらの緊急法律を撤廃するよう勧告する。

ほぼ全ての戦時統制が撤廃された今、我が国の産業構造の運営は経営者、農家、そして労働者の判断に大いに懸かっている。これらの決定は公共の福祉のため、心からの関心によって賢明に為されねばならない。経営者、農家、そして労働者の福祉は、彼らの生産物を購入する人々の経済的幸福に懸かっているのである。

我が国の経済に対する現在の重要な危機の源は、1947年中に生産されるであろう膨大な量の財とサーヴィスを消費者が購入できないほどにまで、物価が上昇する可能性である。

最近の物価上昇によって、労働者の多くが最近の賃金上昇をほとんど無意味なものにされてしまったことは、我々全てが知っている。農家はその増収の大部分が物価上昇によって吸収されてしまったことを知った。国民の一部は、物価上昇を超える増収を得たが、大多数はそうではない。僅かな定収入で生活する人々――例えば、退職して年金生活をしている人々――、収入が比較的変動しない人々――教員その他の公務員のような――は、苦境に喘いでいる。

健全かつ公正な物価構造をもたらすに当たっては、国民の各集団に各自の責任がある。

経営者には、現在の物価水準を維持するのみならず、利益が出た時はいつでも[6]値下げを行う義務がある。

労働者には、物価水準の上昇を強いるような不当な賃上げ圧力を自粛する義務がある。

そして政府には、高賃金、低物価、及び適正利潤を可能にするような生産拡張を促すべく、全力を尽くす義務がある。

数日中に、大統領経済報告書と予算教書とを議会に提出する予定である。これらの書類は多くの勧告を含んでいる。本日私は、1947年に政府が行うべきであると考える5つの主要経済政策について概説する所存である。これらの諸政策は、我が国の目下の必要に応えるために、そして同時に、自由企業体制の長期的繁栄を提供するために立案されたものである。

第1に、労使間の協調の促進。

第2に、独占と不当な商行為の制限、中小企業への支援、民間企業の自由競争体制の促進。

第3に、積極的な住宅建設計画の継続。

第4に、次会計年度における予算の均衡と、公債償還のために充当する相当額の剰余金の捻出。

第5に、戦後農業における、農家に対する適正水準の利益の保護。

労働者と経営者[編集]

昨年は――第一次世界大戦終結の翌年と同様に――、労使闘争によって損なわれた。

1946年におけるこうした経済戦争の勃発にも拘らず、我々は今日、記録的な量の商品や便益を生産している。とは言え、労使協調の手段を改善し、ストライキや工場閉鎖の件数を減らすことが不可欠である。

しかし我々は、懲罰的立法を採択してはならない。少数の労働指導者を罰せんがために、一般労働者の正当な権利を制限するような報復的法律を通過させてはならない。感情に任せて、予期せぬ結果や望まぬ結果を導く無思慮な行動によって、米国の自由を危機に晒してはならない。

我々は1946年の争議を回顧するに当たり、衝突を回避する協定の締結に失敗した責任は経営者にも労働者にもあるということを忘れてはならない。故に我々は、単に労働組合を狙い撃つ法律によっては産業の平和など達成され得ないということを理解せねばならない。

過去15年間に、我々は賃金と労働条件とを決定する手続きとして、自由な団体交渉に基づく国家的労働政策をこの国に確立した。

これは、今なお国家政策である。

そして今後も国家政策であり続けるべきなのである!

だが未だに、自由かつ公正に交渉することの意義を我々全てが学んだ訳ではない。しかも、交渉権に伴う相互責任を履行することを我々全てが学んだ訳ではない。我が国の団体交渉制度の有効性を制限する、権利濫用や有害行為があった。その上、我々は労使対立を解決する上で助けとなるべき、充分な政府機関を欠いていた。

一部の労使問題は即時の配慮を要する。他にも、その複雑性の故に徹底的な調査研究を要する問題がある。

我々は、一部の濫用を是正し、交渉における追加的政府援助を規定する法律を制定すべきである。だが、同時に我々は、労使問題の根本原因にも関心を向けるべきである。

こうした考慮に照らし、私は産業界の闘争を減ずるべく、以下の4点を諸君に提示すると共に、これを実施するに際して諸君の協力を要請する。

1点目は、一部の不当行為を防止する法律の早期制定である。

この項目における第1は、管轄権争議である。こうしたストライキにおける公衆と雇用者は、相対立する労働組合同士の衝突によって損害を蒙る無実の傍観者である。この種の争議は、生産者、産業界、公衆――そして労働者自身――を害する。私は、管轄権争議を擁護する気にはなれない。

国家労働関係法は、どの組合が特定の雇用者の従業員を代表するかを決定する手続きを規定している。しかし、一部の管轄権争いにおいては、少数派の組合がストライキを行い、多数派の組合と交渉する法的義務を負っているはずの雇用者をして、少数派の組合と交渉せざるを得なくなるよう仕向ける例がある。雇用者に法を侵すよう強いるストライキを許す訳にはゆかない。これを阻止するための立法が明らかに必要である。

組合間対立の形態としては他に、どの組合が特定の任務を行う資格を有するのかという問題に関する管轄権争議がある。対立する組合同士が自ら紛争を解決できない時は、問題を平和的かつ拘束力ある形で解決する規定が為されねばならない。

第2の不当行為は、さらなる管轄権争いのために、あるいは国家労働関係法違反を雇用者に強いるために用いられる、第2次ボイコットである。

第2次ボイコットの全てが不当だという訳ではない。我々はこれらを目的ごとに判断せねばならない。例えば、賃金率や労働条件を防衛するためのボイコットは、管轄権争いを助長するボイコットとは区別されるべきである。時として企業組織は労働組合に対し、自己保存のために特定の雇用者を超えて紛争を拡大するよう求める。ボイコットの全面禁止はすべきでない。適切な目標は、不当な目的を追求する第2次ボイコットを禁止する法律なのであって、組合の存立維持の権利と、誠実な団体交渉によって得られた利益とを侵害する法律ではない。

是正されるべき第3の行為は、現行の契約の解除によって生ずる諸問題を解決するために、労使のいずれかが経済力を行使することである。

団体交渉協定は、他の契約と同様に、当事者双方によって忠実に遵守されるべきである。最も分別ある労使関係においては、契約解除に関する紛争は交渉や調停によって平和的に解決される。現行協定の解釈に関する未解決の紛争がいずれか一方の当事者によって最終的かつ拘束力ある調停に委ねられるような機関を設置するための法律が制定されるべきである。

2点目は、団体交渉を支援するために、労働省内の諸機関を拡大することである。

労働争議の回避に係る困難の1つは、団体交渉の過程における秩序の欠如から生じている。当事者らは往々にして、彼ら自身の交渉を通じた紛争解決の責任を負っていることを余り理解していない。労働者あるいは雇用者が、交渉手続きを通じた協定の可能性を尽くすことなく経済力に訴える場合も、我々は絶えず見ている。当事者も政府も、いつ、如何にして政府支援が発動されるべきかを決定するための、明確な尺度を持っていない。調停、自発的仲裁、そして――適当な場合、究極的には――紛争の事実確認及び国民への報告という段階的手続きを規定するための、統合的政府機関が必要である。こうした機関は紛争解決を促進するであろう。

3点目は、労働者の不安定の原因を緩和するために、社会立法計画を拡大することである。

1946年6月11日、私はケース法案 (Case Bill) 拒否声明の中で、労使関係に関する私の見解に関する詳細な説明を行った。その時述べたことの繰り返しになるが、労働関係を直接に扱う法律の中のみならず、産業界における多数の労働者が感じている不安の原因を除去すべく立案された計画の中にこそ、労使関係の解決は見出されねばならない。これに関連して、例えば社会保障制度の拡充、住宅改善、大規模な国家保健計画、及び公正な最低賃金に関する規定を、議会は考慮すべきである。

4点目は、労使関係の全領域について調査するための臨時合同委員会を設置することである。

私は議会に対し、この広汎な調査を行う臨時合同委員会の設置について規定するよう勧告する。

大統領、議会、そして雇用者と労働者は、これらの問題の解決方法を探求・発見するために協力するという継続的義務を有する。故に私は、同委員会を以下のように構成するよう勧告する。即ち、12名は両院の議員の中から議会が選定し、国民と労働者と雇用者とを代表する8名は大統領が任命する。

同委員会は一部の主要課題について調査し、勧告する義務を負うべきである。

第1に、公共の利益に影響を及ぼす重要産業における全国的ストライキの特殊な問題である。殊に同委員会は、我が国の一般的・民主的自由を危機に晒すことなく、こうしたストライキを如何にして解決もしくは阻止するのかという問題を検討すべきである。

恐らく合衆国の産業全体の未来は、この問題の適切な解決に懸かっている。運輸石炭石油鉄鋼、あるいは通信といった産業における全国的ストライキの麻痺的影響は、全国規模の惨事を惹起しかねない。我々は近年、緊急の戦時権限の行使によって初めて、こうした惨事を回避できたのである。これらの権限は全て、早晩終了するであろう。代わって、これらの重要分野における適切な組織と効果的な機関とが創設されねばならない。この問題は入念な検討と大胆な取り組み、それでいて国民の権利の保持と両立する取り組みを要する。必要性は切迫している。委員会は直ちに対処すべきである[7]

第2に、団体交渉手続きを行うための、最善の方法と手順である。これは、労働者と雇用者とが相互に自由かつ公正に交渉し、交渉の可能性が全て尽きるまではストライキあるいは工場閉鎖を自粛するという義務を含めるべきである。

第3に、労使紛争の根本原因である。

ここに提示された題目の一部は長期的検討を含めた調査を要する。残りは委員会によって直ちに考慮され得るものであり、その勧告は近い将来に議会へ提出できよう。

私は議会に対し、特別な立法勧告を含めた最初の報告を1947年3月15日までに作成するよう勧告する。

独占の規制と民間企業の保護[編集]

諸君に提示したい第2の主要施策は、進展しつつある経済力集中と民間企業の自由競争に対する脅威とに関するものである。1941年、臨時国家経済委員会は国家経済の機能に関する包括的調査を終えた。同委員会の調査が示すところによれば、我々の福祉に対する最も深刻な脅威の1つは、半世紀に及ぶ反トラスト法の実施にも拘らず、一握りの巨大企業の手に権力が集中していることにある。

戦時中、長年に亙る経済的集中の傾向は加速した。結果として、産業全体が1つもしくは少数の大企業によって支配されており、その度合いはかつてなく増している。これらの企業は、より高い利益を挙げるために生産を制限し、雇用と購買力を減少させかねない。

完全な機会と自由競争とを企業に保証するため、我々は反トラスト法を強力に実施する。この問題に協力・支援するために議会にできることは多くある。

企業活動を規制する諸法を強化するだけでは充分とはいえない。強化は、新たな企業を支援する積極的手段によって補完されねばならない。政府援助、調査計画、及び貸付がなされ、新たな企業や新たな産業の成長を促進するために用いられねばならない。未来の企業や産業の指導者たる幾千もの復員兵が業務を始めている時期にあっては、中小企業向け援助は特に重要である。

同時に我々は、産業の集中排除、及び目下のところ産業化が遅れている地域の開発に、特別な注意を払わねばならない。

住宅政策[編集]

第3の主要施策、即ち住宅建築促進計画も、国家経済にとって大いに重要である。復員兵の住宅不足を軽減するための最初の連邦計画は、1946年2月に発表された。1946年、100万世帯分の住宅建築が着工し、66万5,000世帯分が既に竣功した。増築率はあらゆる記録を更新した。

今年の住宅建築数は、過去最高であった1926年を超えないにせよ、これに近い数となろう。復員兵にも払えるような廉価で住宅を提供する義務は、専ら民間産業と労働者とにある。政府は継続的に、主要建材の流通を促し、非居住用建築を制限し、大いに役立つのであれば財政援助を供与する。賃貸住宅建築の刺激策と新型住宅建築は特に重視されるであろう。

全国民に充分な住宅をという長期目標を達するには、昨年上院を通過した超党派的法案のような包括的住宅立法が緊急に必要である。少なくともこうした法律は、国内各都市の荒廃地域再建の道を開き、大規模賃貸住宅建築計画に対して数十億ドルの民間資本投資が為されるような、積極的刺激策を確立するものであるべきである。同法は、農村地域における住宅の改善と、4ヶ年で50万戸の公営低家賃住宅の建築とを規定すべきでる。国内資源を大規模な住宅建築の分野に有効利用させる権限を、単一の平時の連邦住宅機関に付与すべきである。

財務の問題[編集]

第4の主要施策は、予算の均衡に関するものである。現在のような繁栄の時代にあっては、連邦政府の予算には均衡が保たれているべきである。国家財政の健全運営のためには、債務縮減の取り組みを開始する必要がある。今週諸君に提出する予定の予算では、若干の黒字が出る。私は予算教書の中で勧告を行うが、これが承認されれば、相当額の剰余金を捻出して負債の償還に充当することができよう。こうした勧告の1つは、現行法の下では1947年6月30日に失効する予定となっている、戦時消費税の税率を次の会計年度も維持するための迅速な行動を議会が取ることである。

戦争関連の支出は今なお高額である。世界の飢餓と苦悩を緩和するには、かなりの額を要する。復員兵への援助は、引き続き最高水準となるであろう。世界は斯様な状況にあるため、巨額の軍事支出が必要である。公債の利払いなど、一部の費用は削れない。こうした理由により、私は予算編成に際して厳しい節約を実施せねばならなかった。私は、議会がこの緊縮計画に協力するよう願っている。

農業[編集]

第5の主要政策は、農家の福祉に関するものである。

食料生産高は1946年に記録的な量に達した。莫大な穀物の多くは容易に海外へ売却できるので、国内市場に対する脅威とはなるまい。だが、今後数年間のうちに、米国の農業は第一次世界大戦後と同様の危機に直面する惧れがある。1920年代初頭の米国は、国内農産物の新たな生産能力の捌け口を維持できなかった。農家は作付面積を平時の需要へと調整していたというのに、米国は農家を保護する手段を講じるのを怠った。

その結果は知っての通りである[8]。高価格が保たれ生産が減少した工業分野とは対照的に、農業生産は高水準のまま推移し、需要も価格も落ち込み、余剰農産物が堆積し、続いて大惨事[9]が発生した。

我々は、第一次世界大戦後に対処し損ねた諸問題に対処するよう注意せねばならない。現行法は1947年及び1948年の作物価格に対して、相当程度の安定を与えている。この2年間のうちに、我が国の大いなる生産力のための市場を維持・開拓させねばならない。

これら諸法の目的は、戦時から平時への秩序ある移行を可能にするためのものであった。政府の価格支持計画は、高度に生産力ある農業の無制限な余剰を、巨費を投じて吸収するためのものではない。

恒久的農業福祉の整備を待っている間に政府保証が終了してしまうなどという事態があってはならない[10]

農家には適正な収入を得る権利がある。

農家の新たな技能と改善された技術を活用する道。農家の国内外市場を拡大する道。そして、農家が不当な犠牲を払うこともなく、政府が不当な出費をすることもない、均衡の取れた平時生産様式という目標を達成する道。これらの道を見出すことは可能である。

保健及び全般的福祉[編集]

我が国の資源全てのうち、国民の健康ほど基本的価値があるものはない。1年余り前、私は議会に対して国家保健計画に関する見解を示した。議会は、同計画中のいくつかの勧告――精神衛生、母子の健康、病院建設――について審議した。私は議会に対し、昨年に開始した取り組みを完遂し、同計画における最も重要な勧告――医療を必要とする者全てに対し、同計画の受益者による支出を原資として充分な医療を提供すること――を立法化するよう要請する。

行政改革を行えば、健康、教育、福祉といった分野における国家計画を大いに推進できよう。私は、充分に統合された厚生省の設置を改めて勧告する。

復員兵[編集]

第二次世界大戦にて従軍した1,400万の軍人が市民生活に戻った。大多数は、地域や国家における市民としての地位に復した。こうした調整がかくも迅速かつ成功裡に為されたのは、米国軍人の資質と米国経済の柔軟性との賜物である。

こうした復員兵のうち200万人以上が学校に通い、あるいは連邦政府の財政援助を通じて職業技術を修得している。幾千人もの傷痍軍人が、最善の医療を日々受けている。50万人は、住宅や農地を購入するために、あるいは新たな事業を興すために、政府の保証によって融資を獲得した。200万人弱の死傷者に対して補償金が支払われた。300万人以上が低負担の国家奉仕生命保険[11]証書を持ち続けている。700万人弱の復員兵が、失業手当及び自活手当による援助を受けた。

全ての戦争における復員兵に対する計画に掛かる費用は、一括支援金及び退役金を除いて、年間70億ドル――連邦予算総額の5分の1――となっている。これは他の国では考えられない、最も大規模かつ完全な復員兵計画である。

我々の復員兵手当計画は、若干の微調整を除いては、今や完全であると私は信ずる。長い目で見れば、この計画の成功は、財政援助を受ける復員兵の数や、我々が支出するドルの額によって測られる訳ではない。歴史は我々の支出する資金でなく、復員兵が国家に貢献できる環境を我々がどの程度整えたかによって、我々を裁くであろう。追加立法を考慮するに際しては、このことが我々の基準とならねばならない。

公民権[編集]

最近我々は国内において、人種的・宗教的偏見の結果として生ずる、憲法が認めた個々人の権利に対する夥しい攻撃を目の当たりにしてきた。国民の大部分は、地方選挙及び国政選挙に参加する全幅の権利の公使を妨げられてきた。合法的職業に従事する自由は否定され続けた。

我々は皆、これらの罪悪と戦う意志を胸中に持つべきである。

連邦政府に関して言えば、現在司法省がこうした戦いを全力で続けている。若干のにおいては、憲法は平和維持という重要任務を連邦政府に任せていない。私は、連邦政府が現行法の下で公民権を擁護するのには限界があるとは思わない[12]

故に私は、議会に勧告を行うべく、大統領令によって大統領公民権委員会を設置し、連邦が保障する公民権の問題全体について調査報告させることにした。

天然資源[編集]

国民全体の福祉を推進するという責任において、我々は常に自国の天然資源について考えねばならない。これらは我々の生活の基盤である。米国の巨大な河川体系の発展は我々の世代にとって、国富の増加に貢献する大きな機会である。この計画は既に進行しているが、全力で推進せねばならない。

私は議会に対し、我が国が急速に飲料水の多くを「持たざる」国となりつつあることを忠告せねばならない。我が国の経済発展と安全は、飲料水発見の利益拡張と回収手段の改善とに懸かっている。連邦政府は、これらの要求に応じなければならない。

外交問題[編集]

国内目標の達成に向けた前進は、我が国の外交政策と密接に関連している。健全かつ豊かな経済の維持と国民の福祉の改善とに関して私が述べてきた全てのことは、合衆国が世界を主導していることを考えると、一層大きな意義を有する。我々が国内で為すこと、あるいは為さぬことは、我々自身だけでなく全世界の何百万もの民に影響を及ぼす。己のため、他の人民のための責任を果たさんとするならば、我々は合衆国の経済的・社会的・政治的健全性を確かなものにせねばならない。その時初めて、我々は平和の要素――政治的安定、経済的発展、社会的進歩――を他の諸国にもたらす手助けができるのである。

イタリアブルガリアルーマニア、及びハンガリーとの講和条約は、遂に準備が整った。これらの条約は、来月パリで調印された後、批准のため上院に提出される予定である。米国政府は、これらの条約に完全に満足している訳ではない。しかし、私は確信している。如何なる欠陥があろうとも、これらは戦時中の主要連合国間の合意によって得ることを望み得る、最上の条約なのだと。これ以上の論争と遅延は、長年懸念されてきた諸国の政治的安定を大いに危うくするであろう。

これらの条約に関する何ヶ月間もの長きに亙る討議の間、我々は各国に対して明らかにしてきた。公正かつ恒久的な平和のために重要視している諸原則を犠牲にするような解決方法には、合衆国は同意しないということを。これと同時に、決して孤立主義に戻らぬことも明らかにした。我々の政策は、今度モスクワで行われる対講和条約に関する折衝[13]においても、また今後の対講和会議においても、全く同様である。

最初の平和的調停の達成が遅延した理由としては、調停の条件についてソヴィエト連邦と合意に至るのが難しかったことが一部にある。しかし、米ソ間に如何なる不一致があったにせよ、これだけは明確にしておかねばならない。両国の根本的関心は、速やかに平和を築き、各国の民に再び自由な民として生産・復興という重要任務に復帰させることにあるということを。両国の主な関心事は、個別的安全保障の助長ではなく、集団的安全保障の促進たるべきなのである。

我が国のソ連に対する政策は、我が国の全ての国家に対する政策を決定するのと同じ原則によって導かれる。我々は、国際連合憲章に盛り込まれた国際正義の諸原則を、ひたすら擁護しようとしているのである。

我々は和平調停を推進せねばならない。占領諸国はオーストリアの独立を承認し、部隊を撤収すべきである。ドイツと日本は、自国の将来に疑念と危惧を抱いたまま放置されるべきではない。両国は自国の国境、資産、及び支払うべき賠償額を知らねばならない。我々は両国の内政管理を図らずとも、両国は再軍備しないと保証できる。

国際救済と難民[編集]

合衆国は、戦災によって窮乏した民を気遣い、国家経済を回復すべく各国を支援する上で果たした役割を誇ってよい。我々は終戦以来、他の全国家の総計よりも多くの物資を、世界の飢える民に輸送してきたのである!

しかし、こと難民に関する限り、私は合衆国がその役割を果たしたとは思わない。1946年5月以来この国に入国した難民は、約5,000人に過ぎない。実際には実施機関は、現行法と規定された権限という制約の下で合理的に可能な全てのことを行っている。新たな法律の制定に際し、議会の支援が必要である。私は議会に対し、世界の問題に目を向け、住み家を失い苦しんでいるこれら数千人の難民に対する責任を果たす道を見出す努力を尽くすよう求める。

国際貿易[編集]

世界の政治的協力のためには、世界の経済的協力が不可欠である。我々は国際銀行国際通貨基金、及び輸出入銀行を通じて、経済協力を良好に開始した。今こそ我々は、世界貿易再建のために新たな措置を講じなければならず、また国際貿易体制のために可能な限りの努力を継続すべきである。

原子力[編集]

合衆国は、原子力を実効的な国際管理の下に置く取り組みを主導してきた。我々は、自国のためにも如何なる国家群のためにも独占を追求していない。我々は、如何なる国もこの力を軍事目的で使用できないとの保証をするに充分な予防措置が取られるよう要請しているに過ぎない。各国政府が原子力の国際管理の手段について合意しない限り、恐怖という影がこの強大な力の平和利用に関する輝かしき前途を覆い隠してしまうであろう。

1946年原子力法に基づき設置された委員会は、国内の原子力企業に対する包括的管轄権を有している。当然ながら同委員会の計画は、議会の要望に従い、軍部との緊密な協力の下で実施されるであろう。だが、原子力の軍事的重要性が徐々に低下することが、私の切なる願いである。我々は同委員会が、産業利用及び科学的・医学的研究のための原子力を発展を推進するよう期待する。原子力の平和利用を活発かつ効果的に発展できるか否か。この新たな力が究極的には全国家の幸福に変わるという我々の希望は、この点に懸かっているのである。

軍事政策[編集]

1946年、海軍は戦時兵力の動員解除を完了した。これらは今、国防と国際的義務の遂行とのために必要なだけの兵力を維持している。

我々は、平和を愛好する諸国民側の力が今なお侵略に対する最大の抑止力であり続けている世界に住んでいる。大きな義務を負う諸国が、これらの義務を遂行する手段の維持を怠るようなことがあれば、世界の安定は崩壊しかねない。

現代は、予期せぬ攻撃が未曾有の速さで来る時代である。我々は、こうした攻撃を打倒し挫けるほどに充分強くあらねばならない。我々がより理性的な世界秩序を目指して着実に前進するにつれて、大規模な軍隊の必要性は漸減しつつある。だが、我々の希望が完全に実現するまでは、米国の軍事力を安定させる力が弱められてはならない。国際連合の下に集団的安全保障機構が確立した暁には、我々は喜んで集団的軍縮を主導しよう。だが、こうした機構が現実のものとなるまでは、我々は弱体化して攻撃を招くような事態を再び許してはならない。

これらの理由により、我々は装備と訓練の行き届いた軍隊を必要としており、必要が生じた場合には、人的・物的資源を国防のため迅速に動員できねばならない。

陸軍は、1947年7月1日までに将兵合わせて107万人にまで削減される予定である。陸軍の半数は海外における占領任務に充当され、残りの大半はこれら在外部隊を内地で支援する予定である。

海軍は、欧州極東に駐留する占領部隊を支援している。その基本的任務――必要とあらばどこであろうと、米国の国益を擁護すること――は変わらない。海兵隊を含む海軍は、1948会計年度中に将兵合わせて平均57万1000人となるであろう。

だが我々には、この程度の兵力すら維持するのは困難なのである[14]。占領部隊は、我が国の外交政策が要求する義務を辛うじて遂行するに足る程度である。国内軍隊は、これ以上の削減が不可能な段階にある。我々は、長期志願兵のみから成る陸海軍が望ましいと考えているが、好条件で勧誘しているにも拘らず[15]、陸軍の基礎的需要は志願兵のみでは満たせていない。

陸軍省が私に進言したところによれば、志願兵のみに依存して陸軍の力を維持できるか否かを正確に予測することは、現状では困難である。数週間もすれば、志願兵募集の結果が出るので、状況は遥かに明確になるであろう。陸軍省は選抜徴兵の延期の必要性に関し、現行法[16]が失効する3月31日より前に議会が行動を起こせるよう充分な時間を置いて、勧告を為すであろう。議会には、我が国の安全のために必要な兵力によって軍隊を維持する義務がある。

訓練された市民予備軍の発展も、我が国の安全保障にとって重要である。これは一般訓練を通じて最もよく達成され得る。私は訓練規定に関する種々の計画を調査すべく、一般訓練諮問委員会を設置した。同委員会の勧告は、この問題を解決する上で議会及び私の利益に適うものと期待している。

軍事組織にかかる費用はかなりのものである。経費を削減しつつ国家安全保障を強化する方法はただ1つ、単一の国防総省の設置である。私は近いうちに、単一の国防総省の設置に関して議会と意見を交換する所存である。

国家安全保障は陸海空軍によってのみ成り立っている訳ではない。遥かに巨大な基礎の上に立っているのである。健全な物価経済や賃金経済、豊かな農業、満ち足りて生産性のある労働者、独占の抑圧から解放されて競争力を持った民間企業、産業の継続的な協調・生産、市民の自由、人類の自由――即ち、強靭な道徳心と精神力を国民の中に生む力の全てに懸かっているのである。

だが我々は、自国の安全保障の達成以上に、高い義務と大きな責任とを有している。我々の目標は、全人類の集団的安全保障である。

理解と相互尊重の精神の下で行動すれば、我々は己に課せられたこの神聖なる義務を果たし得るのである。

米国民の精神は、世界史の進路を定め得る。もしも我々が己の奉ずる理想を維持し、強化するならば、そして戦で傷付いた全世界の民に慈愛を与えるならば、自由と民主主義とに対する我々の信念は地球全体に拡がり、これらの理想に対する我々の献身を各地の自由民が共有するであろう。

共にこの任務を果たすため、意志と忍耐力とを持とうではないか。

主よ。我らの信念を強からしめ給え。

神よ。我に叡智を授け、もって世界の民を平和の大道へと導かしめ給え。

訳註[編集]

  1. アーサー・H・ヴァンデンバーグ(任1947年 - 1949年)。
  2. ジョーゼフ・W・マーティン(任1947年 - 1949年)。
  3. 原文は「many of you have moved over to the left」。逐語訳をするならば、「諸君の多くが左派に転じた」。
  4. アメリカ合衆国憲法第2条第3節を引用。
  5. トルーマンは民主党に所属していたが、連邦議会は前年11月の中間選挙の結果、上下両院とも共和党の手に落ちていた。これにより、民主党政権と共和党議会との対立の構図が現出し、トルーマンは厳しい政権運営を迫られることとなった。
  6. 原文は「whenever profits justify such action」。逐語訳をするならば、「利益がそうした行動(=値下げ)を正当化する時はいつでも」。
  7. 原文は「The Commission should give this its earliest attention」。逐語訳をするならば、「委員会は、その最も早い配慮をこれ(=必要性)に対して与えるべきである」。
  8. 原文は「The result we all remember too well」。逐語訳をするならば、「我々は皆、その結果を余りにもよく覚えている」。
  9. 世界恐慌を指す。
  10. 原文は、「We must not wait until the guarantees expire to set the stage for permanent farm welfare」。逐語訳をするならば、「我々は保証が期限切れになるまで、恒久的農業福祉の整備を待ってはならない」。
  11. 国家奉仕生命保険 (National Service Life Insurance) は、第二次世界大戦の従軍者を対象として、1940年10月8日に米国政府が創設した生命保険である。1951年4月25日をもって終了した。アメリカ合衆国退役軍人省ホームページ
  12. 原文は「I am not convinced that the present legislation reached the limit of federal power to protect the civil rights of its citizens」。逐語訳をするならば、「私は現行法が、市民の公民権を守るための連邦の権限の限界に達しているとは確信していない」。
  13. モスクワ外相会談は、1947年3月10日から同年4月24日まで開催された。参加国はソの4ヶ国。本会談では各国の利害が衝突し、主要議題である対独墺講和問題はほとんど進展することなく終わった。
  14. 原文は、「We are encountering serious difficulties in maintaining our forces at even these reduced levels」。逐語訳をするならば、「我々は、これらの縮小した水準においてすら、我々の軍隊を維持するに際して深刻な困難に遭遇している」。
  15. 原文は、「in spite of liberal inducements」。逐語訳をするならば、「気前の良い誘因にも拘らず」。
  16. 1940年選抜徴兵法 (Selective Training and Service Act of 1940)、通称バーク=ウォズワース法 (Burke-Wadsworth Act) を指す。1940年9月14日成立。

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