シリヤの聖イサアク全書/第五十説教

提供:Wikisource

第50説教[編集]

<< 遁世とんせいえき >>

生活上せいかつじょうことおいわれらが眼前がんぜんのぞたたかいは、じつ頑固がんこかつ困難こんなんにして、容易よういにはあらざるなり。ひといくばく堅固けんごにしてたれざるものとなりるとも、格闘かくとう苦行くぎょう源因げんいんとなるべきものがひとちかづくならば恐怖きょうふひとらずして、魔鬼まき顕然けんぜんなるたたかいときよりも滅亡めつぼうさらすみやかならん。ゆえひとがそのおそるるところのものよりとほざからざるあいだは、てきにはつねひとおそふの便べんあり。もしわずかに坐睡ざすいはじむるならば、てき容易よういひとほろぼさん。けだし霊魂れいこん有害ゆうがい交際こうさいして、これつながるときは、此交際このこうさいてきため鋭鋒えいほう利刃りじんとなるべし、さればもしこれむかふるならば、自然じぜんみづから勝利しょうりゆづるものといふべし。ゆえ古来こらいこのみち経過けいかせるわれらがしょ神父しんぷも、われらのいづれのときにも一所いっしょかたとどまりて警衛けいえい看守かんしゅするあたはず、またそのちからあるにもあらずして、或時あるときにはこれがいせんとするものをかんするさへあたはざるをり、睿智えいちもっこれおもんばかりて、よくること武器ぶきごとくし、しるしてへるごとおほくの格闘かくとうよりまぬかれて、〈かくのごとくなればその欠乏けつぼうもっひとおほくの陥罪かんざいよりすくはるるをん〉よく源因げんいんとなるべき生活せいかつじょう憧擾どうじょうまぬかるるけたり、かれらがよわるとき滅亡めつぼういんたる忿怒ふんど慾望よくぼう怨恨えんこん名誉めいよむかへざらんがためにして、すべてを容易よういならしむるによる〈けだしかれらはもっおのれかたかつまもることたれざる城楼じょうろうごとくせり〉。そのときかれらはおのおの黙想もくそうによりその苦行くぎょうすをたりき。けだし彼処かしこおいては五感ごかんみづから有害ゆうがいなるものをむかへてわれらのてき加勢かせいするためたすけるあらざればなり。われ堕落だらくきんよりはむし苦行くぎょうおいむかへん。