でうすの御性体と御善徳を顕す事
去 ( され ) ば人の心を善に導く勧 ( すゝ ) めの中に◦取分 ( とりわけ ) 二ツあり。一ツにはおねすと申て◦善の善なる道理に依て勤めずして叶はざる事◦二ツにはうちれとて其徳深き事是也。是に依て諸の学者の云く◦此二ツは万行 ( まんぎやう ) に付て人の心を起す策也と。中にも徳を得る方をば◦人ごとに好むといへども◦善の善なる道理は猶以て強し。故に*ありすとうてれすの云く◦賢き人ならば科 ( とが ) に落んよりは◦何たる損をも受んにはしかじと思ふべしと。所以を如何といふに◦善の勝れたるにたくらべては◦何たる現 ( げん ) 世 ( せ ) の利 ( り ) 養 ( やう ) か是にしかんや。去ば此巻の極めといふは◦人を善のみやびかなるに引なびけ◦専ら一向に心を善に起さしめんが為なれば◦勝れたる事より是を初むる者也。其といふは◦則善 ( ぜん ) の体 ( たい ) にて在 ( まし ) ます でうす 現在にをひて善の外 ( ほか ) に望み給はず◦別に授け給ふ事もなく◦御用ひなさるゝ事もなければ◦我等仕へ奉らずして叶はざる道理莫大 ( ばくたい ) なるが故に◦善の勤めも又せずんばあるべからず。然るに御 ( おん ) 主 ( あるじ ) ◦何たる故にか◦善を納むる事をうけ給ふぞといふ道理をも爰 ( ここ ) に論ずべし。是皆我身を少も残さず◦でうす に捧げ奉るべき道理なりと知るべし
第一には でうす 則 ( すなはち ) でうす にて在 ( まし ) ます事。是 ( これ ) 最上にして思ひ量るべからず。此内に量りなき御智恵◦限りなき御威光◦御自由自在◦御柔和◦忍辱 ( にんにく ) ◦御慈悲◦御憲法 ( けんばう ) ◦御美麗◦清浄◦御福徳◦楽み◦御心のまゝの御満足以下 ( いげ ) の諸善諸徳◦無 ( む ) 辺 ( へん ) にして思 ( おもひ ) 量 ( はか ) られざる儀 ( ぎ ) 籠る者也。或学者の云く◦此御徳儀の広大に在ます事を述 ( のべ ) んとせば◦四海を墨筆にし森羅万像を紙にし◦大海はひがたとなり◦筆者は虚 ( むな ) しく劫 ( こう ) をふるといふとも◦御一善をも書尽 ( かきつく ) すべからずと。又云く◦でうす もし人を斯く造らせられ◦昔今にたぐひなき智恵を御与へありて◦御身の徳の只一ツを弁 ( わきま ) へさせ給はん時◦縦 ( たと ) ひ普 ( あまね ) き世界の人の心を一ツにして与へ給ふといふとも◦御 ( ご ) 合 ( かう ) 力 ( りよく ) なきにをひては◦甘露を含む喜びに堪へずして◦心破れて危きに及ぶべしと也。是御主を御大切に存じ◦随 ( したが ) ひ仕へ奉るべき道理の一ツ也。然れば別の仔細に拘 ( かかは ) らず◦只御一体のみ尊く在ます一理を以ても◦深く敬ひ奉らずして叶 ( かな ) はざる事と知るべし。喩 ( たと ) へば帝王国を出 ( いで ) 給ひ◦如何なる所へも御 ( み ) 幸 ( ゆき ) なるべきに◦御恩に預からぬ者也とて◦帝を欽 ( あが ) め申さぬ人や有べき。況 ( いはん ) や是は天の帝にて在ますをや。*さんじよあんのあほかりぴせに◦彼 ( かの ) 御 ( お ) 衣 ( ころも ) の裳 ( もす ) そに Rex regum, & Dominus dominantium. Apoc. 19. 帝王の上の帝王◦主 ( あるじ ) の上の御 ( おん ) 主 ( あるじ ) 也と縫出し給ふと見へたり。是即◦御智恵と御力と治め計ひ給ふ所の三ツを以て◦世界を掲げ給ひ◦有情非常をあらせ給ひ◦天の廻りあし◦月日星の光り◦四季の移り変る政と雲水の行 ( ゆく ) 衛 ( え ) までも◦思 ( おぼし ) 召 ( めす ) まゝに計ひ給ふ御 ( おん ) 主 ( あるじ ) にて在 ( まし ) ますが故に◦万像 ( まんざう ) 森羅に御恵みを施し給ひ◦御身は余所より聊 ( いさゝか ) も受給ふ事なく◦初め終り在まさず◦只御一体にて在ます也。喩へば人は生得蟻 ( あり ) はいよりも大きなる如く◦でうす は天地にも万の物にも限りなく越へ給ふ御体にて在ませば◦天地万のものも御前にをひては蟻はい一つの譬 ( たとへ ) にも及ばず◦然 ( しから ) ば でうす を敬ひ奉らずして叶はざる道理量りなしといへども◦此儀に越へたるはなし。故にもし人◦数限りなき身と心とを持 ( もつ ) といふとも◦悉く捧げ奉らずして叶はざる道理なりと心得よ
去 ( され ) ば古 ( いにし ) への善人達も此謂 ( このいは ) れを知 ( しろ ) しめして◦でうす の御 ( ご ) 大切 ( たいせつ ) に対して◦聊 ( いさゝか ) も私の依怙 ( えこ ) を交へ給はず◦潔 ( いさぎよ ) く偏 ( ひとへ ) に御大切のみに燃立給ふ者なり。是に付て*さんべるなるど真実達したる大切といふは◦頼敷 ( たのもしき ) 心を持ても力を得ず◦頼敷 ( たのもしき ) 心のなきを以ても力を落す事なしといへり。此心は◦御返報を頼みて御奉公に励むにもあらず◦又御返報のあるまじきとて心を弱らす事もなし。只身の依怙 ( えこ ) に引 ( ひか ) れずして◦彼 ( かの ) 量 ( はか ) り在 ( まし ) まさぬ御哀憐◦深き御善徳を◦偏 ( ひとへ ) に思ひ奉る御 ( ご ) 大切 ( たいせつ ) ゆへぞといふ儀也。此道理尤 ( もつとも ) 強しといへども◦善徳未だ達せざる人の為には猶弱し。それを如何といふに◦第一わが身の大切強きを以て◦身の依怙 ( えこ ) を本とすればなり。二ツには愚鈍蒙昧なるが故に◦彼 ( かの ) 最上の御哀憐を◦未だ弁 ( わきま ) へざればなり。其智恵にたけのぼりたるにをひては◦只此第一儀を貪り見て◦少しも他事を尋ぬ可らず。爰 ( こゝ ) を以て◦でうす の広大に尊く在ます御所を知 ( しら ) しめんが為に*さん◦ぢよにじよの筆の跡を尋 ( たづね ) 探 ( さぐ ) りて◦茲 ( ここ ) に顕 ( あらは ) す也。彼 ( かの ) 学匠◦みすちか◦てよろじやといふ書籍を作り給ふ志といふは◦萬 ( よろづ ) の人に でうす の御体 ( おんたい ) の限り在さぬ事と◦萬 ( よろづ ) の物の差別を知 ( しら ) しめ給はんが為也。然 ( しかる ) に でうす の御体を窺ひ奉らんとせば◦先 ( まづ ) 萬の物より眼 ( め ) を放 ( はな ) てと教へ給ふ者也。故に御 ( ご ) 作 ( さく ) の物より心を離れ◦萬の物の性体の上に尊き御 ( おん ) 体◦美しく潔 ( いさぎ ) よき光の上の御 ( おん ) 光を見立奉るべし。此御光の御前には◦萬の光は暗闇 ( くらやみ ) なり。此潔よく美しきの御前には◦萬の美しさは汚れなり。昔*もいぜす でうす へ物を申上奉らんとて◦雲を分入 ( わけいり ) 給ふに◦其 ( その ) 眼 ( め ) 黒雲に包まれ◦でうす の在 ( ましま ) さぬ外をば◦何をも見給はざりしとあるは是也。猶 ( なほ ) 明かに弁 ( わきま ) へ奉らんとせば◦御 ( ご ) 作 ( さく ) の物と御作者は◦天地よりもはるかに隔り給ふと心得よ。御 ( ご ) 作 ( さく ) の物は其初めあれば終る事叶ふ者也。御作者は始め終りと申す事在まさず。萬の物には上あり◦又他力をかる者也。でうす は限 ( かぎ ) り辺 ( ほと ) りもましまさぬが故に◦少も他力を借り給はず。萬の物は移り替れども でうす は少も移り替り給はず。萬の物は因 ( ちな ) みを以て合せたる者也。でうす はぷうろ◦すぴりつと申して◦因縁和合といふ事なき清浄の霊体 ( れいたい ) にてまします也。若 ( もし ) でうす の尊体に合せ奉るといふ事あらば◦其合手 ( あはせて ) あるべし。是又曽 ( かつ ) て叶はざる御事也。萬の物は其体次第〳 〵 に重 ( かさな ) り◦智恵も又ます事叶ふ者也。でうす は萬の物の元にて在ませば◦更に次第に御徳を重ね給ふと申 ( まうす ) 事なし。本より自ら御前には三世の隔もなく◦万事備りて在ます也。萬の物は不足なる物なるが故に◦達すべき道を尋ねて◦常に自ら移り替る者也。ぜすゝ は御心のまゝに達し給ひて在ますが故に◦曽 ( かつ ) て移り替り給ふ事なし。畢竟萬の物の体は限り有 ( ある ) が故に◦徳にも用にも限りあり◦住する所にも又限りあり◦其姓名も限りあり。然るに でうす はいんひにとと申して◦広大無辺の御体にて在ませば◦諸 ( もろもろ ) の御善も徳も量りも辺 ( ほと ) りも在まさずと雖 ( いへど ) も◦諸 ( もろもろ ) の御名 ( みな ) あり。其故は◦夫々に籠る諸徳円かに備り給へば也。爰 ( こゝ ) を以て弁 ( わきま ) へよ。萬の物は限りが有 ( ある ) が故に知尽 ( しりつく ) す事も安し。でうす の尊体は量り在さぬが故に◦凡慮不思議の一事也。昔 ( むか ) し*いざいやすの見給ふ二体のせらひんは◦でうす の御脇立として高き台の左右に座し◦何れも六ツの翅 ( つばさ ) を対し◦二ツの翅 ( つばさ ) を以ては御顔をおほひ◦又二ツの翅 ( つばさ ) にては御足を隠し申されしと也。此上を注して云く◦惣じて顔と足といふは始め終りを顕 ( あらは ) す儀 ( ぎ ) 也。然にせらひん でうす の御顔と御足をおほひ申されしと云 ( いふ ) は◦天にをひて諸 ( もろもろ ) のあんじよ◦べやとと尊体を直に拝み申さるゝ中にも◦せらひんは其位最上なれば◦余に越てま近く でうす を拝み申さるゝといへ共◦始め終り在まさぬ御所は◦全く知り尽し給ふ事なしと。既にけるびんは◦でうす の御智恵の御宝を納め給ふ司なりといへども◦其を弁 ( わきま ) へ給はざれば◦でうす はけるびんの上に在ますと申奉る者也。*さるみすたの云く Et posuit tenebras latibulum suum. Psal. 18 御 ( み ) 台 ( だい ) は闇 ( やみ ) を以て囲み給ふと。さんぱうろ是を注し給ひて◦Lucem inhabitat inaccessibilem. 1. Tim. 9 誰も近付き奉る事叶はぬ光の中にましますといふ心也と。此御光に眼盲 ( くら ) みて見奉る事叶はざる処を◦闇 ( やみ ) とは注し給ふ者也。或学者の云く◦日輪にまさりて明なるはなしといへども◦其光り甚しくて眼の力弱るが故に尤 ( もつとも ) 見がたき者也。其如く でうす は明かなる分別智の境界にて在ませども◦萬 ( よろづ ) の物の中に第一弁 ( わきま ) へがたき御上は是なりと。此故に尊体を弁 ( わきま ) へ 奉らんと思はゞ◦智分の及ぶ程御善徳を見奉り◦さて其後に弥 ( いよいよ ) 弁 ( わきま ) へざる事限なしと分別せよ。是程凡慮に及び給はぬ御 ( おん ) 主 ( あるじ ) 也と深く心得奉る程◦其智恵にたけたりと知れ。*じよぶの云 ( いは ) く◦Qui facit magna et inscrutabilia, & mirabilia absque numero. Iob. 5 広大にして悟りがたき無量の御ことを為し給ふと。*さん◦げれごうりよ是を注し給ひて◦万事叶ひ給ふ でうす の御所作は◦忙然として辞 ( ことば ) なき時◦弁舌利口に讃談し。譬 ( たとへ ) も辞 ( ことば ) も及ばぬ儀 ( ぎ ) は◦黙然 ( もくねん ) として案ずる時顕 ( あら ) はるゝ者也と。*さんと◦あぐすちの◦でうす の御体は◦見ゆる物と見へぬ物の諸 ( もろもろ ) の体 ( たい ) に勝 ( すぐ ) れ給ふ所を指 ( さし ) て◦わが尋 ( たづね ) 奉る でうす は全く色相にあらず◦眼 ( め ) に遮る光に非ず◦糸 ( し ) 竹 ( ちく ) の声 ( こゑ ) に非ず◦名花の薫ずる匂ひにあらず舌に覚ゆる味に非ず◦只光の上の御光◦耳に聞 ( きこ ) へぬ声 ( こゑ ) ◦鼻も及ばぬ異なるかほり◦萬の味の上の味にて在ますなり。此御光は所なき所を照 ( てら ) し給ひ◦此御声は声なき所に聞え給ひ◦此御匂ひは風の伝へぬ御かほり◦甘味は口を離れたる所に試み奉る者也と言へり
右広大の御所を窺 ( うかゞ ) ひ奉らんと思はゞ◦大海の一滴を汲んで水上を知らんが為に◦御作の物を見よ。*さん◦ぢよにじよの宣ふ如く万の物に体と精と態と三ツの事備りたり。此三ツともに相応の体に等き精あり◦又其精に等きわざある者也と。是を踏 ( ふま ) へとして◦森羅 ( しんら ) 万像 ( まんざう ) 広大にしておびたゞしきに◦﨟 ( らつ ) 次 ( し ) を乱さず治まるを見よ。茲 ( こゝ ) に或学者の云 ( いは ) く数限りなき星の中に◦大海と世界にも越て九十相倍大なる星ありと。猶又野山の千種◦萬 ( よろづ ) の木◦河の雲水を栖 ( すみか ) とする生類◦いくそばくの数を知らず◦是皆余る事もなく関 ( かかは ) る事もなく◦それ〴 〵 に応じて不足といふ事なし。*さんと◦あぐすちの宣ふごとく◦かほど不思議なる世界の森羅万像◦一ツとして道具造作も入給はず◦時節を経ずして◦あれと思召 ( おぼしめす ) 御内証一ツもなきやうにし給はんも◦輙 ( たやす ) く御自由に在ますと心得よ。右の*さん◦ぢよにじよの註し給ふ旨を踏 ( ふま ) へとして◦御作者の御力◦其御体の広大に在 ( まし ) ます事如何 ( いか ) 計 ( ばかり ) ぞといふ事を観ぜば◦誠に万事に超 ( こえ ) 給 ( たま ) ふ微妙不思議の御主也と◦知奉るべし。かほど量りましまさぬ御力と尊体を観じ奉らば◦誰か驚く事のなかるべき。直に拝し奉らずといふとも◦是程の道理を以て◦微妙不思議の御主と誰かは弁 ( わきま ) へ奉らざるべき。是に付て*さん◦とます譬 ( たとへ ) を引 ( ひき ) て云 ( いは ) く◦四 ( し ) 大 ( だい ) 皆勝れたる程大き也。土よりも水は大きに◦水よりも風は大きに◦風よりも又火は猶大き也。天の重なりも上程猶々大きなれば◦諸 ( もろもろ ) の天の上なるいんぴりよといふ天の広大ならん事◦更に辞 ( ことば ) に述べ難し。爰 ( こゝ ) を以て◦目に見へざる処と見ゆる処の諸 ( もろもろ ) の体の上にて在ます御作者の御体◦広大無辺に在ますべき事歴然なれば◦御善徳も又◦其に等しく在まさずして叶ふ可らずと聊 ( いさゝか ) 分別せよ。ゑけれじやすちこといふ経の二ヶ條に◦Secundum enim magnitudinem ipsius, sic & misericordia illius cum ipso est. Eccli. 20. でうす の尊体の広大に在 ( まし ) ます如く御慈悲も又広大なりと云へり。爰 ( こゝ ) を以て量りなき御善◦量りなき御憲法 ( けんばう ) ◦量りなき甘味◦量りなき御大切の備り給ふ尊体なれば◦我等よりも量りなく敬 ( うやま ) ひ随 ( したが ) ひ奉るべき事本意也。喩 ( たと ) へば人も高く尊き程◦其敬ひも深きごとく◦御上ましまさぬ尊き でうす へ◦限りなき御敬ひ◦限りなき恐れ◦相当 ( あひあた ) り奉る儀なりと心得よ。もし人の心に限りなき随 ( したが ) ひ敬 ( うやま ) ひ恐 ( おそ ) れといふ事あらば◦残さず其を捧げ奉らずして叶 ( かな ) はざる事と知るべし。
右の道理を以て◦御主を御大切に敬 ( うやま ) ひ随 ( したが ) ひ仕 ( つか ) へ奉らずして叶はずと弁 ( わきま ) へよ。此御哀憐深き御善徳を◦御大切に存知奉らずして◦何事をか思ひ◦此御威光を恐れ奉らずして何をか恐るべきぞ。此君に仕へ奉らずして誰人にかつかふるべき。去 ( され ) ば人のおんたあでの境界といふは◦万事に付て好事なれば◦是程諸善諸徳の充々 ( みちみち ) て備 ( そなは ) り給ふ御主を◦争 ( いかで ) か存知奉らざるべきや。如此 ( かくのごとく ) 万事に越 ( こへ ) て御大切に敬ひ尊み奉らざる事さへ◦傍若無人の科 ( とが ) となるに◦人に越へ世に越へて遠ざかり背き奉るべきは◦如何に。一且 ( いつたん ) の邪 ( よこし ) まなる楽み◦僅 ( わづか ) なる名聞◦一紙半銭の利益にひかれて でうす を違背し奉る事◦誠に人に越へ世に越へて背き奉るにあらずや。加程まで人間の悪逆盛んになりぬとは◦誰か心得べきや。此等の族 ( やから ) は如何なる天罸 ( てんばつ ) を招くとか思ふや。終りなきいんへるのゝ苦 ( く ) 患 ( げん ) をまふくるより外 ( ほか ) 有べからず。是猶未 ( いまだ ) むくふるに足らず。爰 ( こゝ ) を以て◦でうす を敬ひ◦随ひ◦御大切に恐れ仕へ奉らずして叶はざる道理◦皆是に籠ると知るべし。去ば此道理の強き事をいふに◦現在にて如何なる威徳の大なる人に仕ふる道理なりとも でうす に仕へ奉る道理に比べ奉りては◦同き日にもいふべからず。其故は御作の物に備はる善の位を◦でうす の御威光◦御善徳になぞらへては◦威光とも善徳ともいふべき事に非ず。同く科 ( とが ) の上をいふに◦御作の物に対する科を◦御作者に対し奉る科にならべていふべき事にも非ず。故に*だびつ帝王は◦臣下なる*うりやすが妻に密懐して◦剰 ( あまつさ ) へ其夫を殺し給ふ時◦其人に当る罪といひ◦女の為の恥といひ◦国士の万民の嘲 ( あざけ ) りといひ◦一方ならぬ重罪也といへども◦ぺにてんしやの時に臨んでは◦Tibi soli peccavi. Psal.50 只 でうす に対し奉りてのみ科 ( とが ) を仕 ( つかまつ ) りぬと宣ふ者也。是皆科を以て人に対する狼藉数々也といへども でうす の御掟を背く誤りに比べてはなきが如し。是をさし給ひて*だびつは只 でうす に対して科 ( とが ) を仕 ( つかまつ ) ると悔 ( くひ ) 悲み給ふ者也。其故は でうす は万物に超へ給ふ事広大無為に在ますが故に◦我等仕 ( つか ) へ奉らずして叶 ( かな ) はざる道理量りなく◦でうす に背 ( そむ ) き奉る処の科 ( とが ) も又◦限りなく深き者也
巻末附録「第三 欧語抄」より
○あぐすちいによ〔さんと〕 Agostinho 人名
○あぽかりぴせ Apocalypsis 「御告げ」 黙示録
○ありすとうてれす Aristoteles 人名
○あんじよ Anjo 「天人」 天神
○いざいやす Isaias 人名
○いんひにと Infinito 「終りなきこと」
○いんぴいりよ Empyreo 「ヽヽヽヽヽといふ天」一三八ノ一
○いんへるの Inferno 「地獄」
○うちれ Utile 「得になるもの」
○うりやす Urias 人名
○ゑけれじやすちこ Eclesiástico 集会書
○おねす Onus 重荷(義務)
○おんたあで Vontade 「憎み愛するに傾く(あにまの)精」
○けるびん Cherubim 智天使
○さるみすた Salmista 聖詩作者
○げれごうりよ ぱつぱ〔さん〕 Gregorio Papa S. 人名
○すすたんしや Substancia 実体
○じよあん ゑわんぜりした〔さん〕 Joan Evangelista, S. 人名 約翰福音者
○じよぶ〔さん〕 Job, S. 人名
○ぜすゝ きりしと Jesu Christo
○せらひん Seraphim 熾 ( し ) 天 ( てん ) 使 ( し )
○だびつ David 人名
○でうす Deus 「真の主」「天主」「天帝」
○とます〔さん〕 Thomas, S. 人名
○ぢよにじよ〔さん〕 Dionisio, S. 人名
○ぱうろ〔さん〕 Paolo, S. 人名
○ぷうろ すぴりつ Puro spiritu 純霊
○ぺにてんしや Penitenncia 悔悛
○べやと Beato 福者
○べるなるど〔さん〕 Bernardo, S. 人名
○みすちか・てよろじや Mystica Theologia 書名
○もいぜす Moises 人名
巻末附録「第四 聖書引用文句索引」より
129頁 9行以下 黙 19章16節
134頁 7行以下 詩 17章12節(18章11節)
134頁 9行以下 提前 6章16節
135頁 5行以下 百 5章9節
138頁 5行以下 集 2章23節
140頁 10行以下 詩 50章6節(51章4節)
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原文:
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメイン の状態にあります。
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翻訳文:
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメイン の状態にあります。
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