こんてむつすむんぢ抄

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こんてむつすむんぢ おんあるじぜすきりしとをまなたてまつきやう 抄
どくじゆの人に對して草す

このこんてむつすむんぢ◦じちいきにをひて◦ぜすゝ のこんぱにやのすぺりおうれすほつに依て◦らちんのせうほんより確かに翻譯し◦けうがうどどに及んで◦じんを和げて以てにちりばむ。これ でうす の道をき◦しやうを扶かりたく思ふ人を◦躓かず導くこと最も大切なる義なれば◦たうもんこんぱにやの使徒◦並びに世俗の輩をして◦讀易からしめんが爲なり。しかるにこの書のうちにをひて◦徳深き事多しといへども◦わきて徳を求めんとの志願を以て◦之を讀誦せん人◦いづれのところをなりとも開き見ば◦今わがために肝要のことわりを記されたりとわきまへざる事あるべからず。しよせん◦でうす の計りなき善の源にて在ますおん上より◦このたまものを與へ給へば◦くわんやくの心を以て◦このしよくわんを常にもてあそび◦讀みては讀み◦いくたびも讀返して◦善の道の師範とあふぐべきもの也

○世界のの無き事をいやしめおんあるじ ぜすきりしと を學び奉ること

おんあるじのたまはく Qui sequitur me, non ambulat in tenebris, sed habebit lumen vitae. Ioan. 8. 我を慕ふ者はやみを行かず◦たゞ壽命の光を持つべしと也。心のやみを逃れ◦まことの光を受けんと思ふにをひては◦きりしと のかうせきおんかたを學び奉れと◦このことを以て勧め給ふ也。しかる時んば◦きりしと の御行跡のかんなんを◦我等が第一の學問とすべし。きりしと のおんをしへは諸々の善人の教にすぐれ給へり。善の道に立入りたらん人は◦をしへにこもる不可思議のかんを覚ゆべし。しかるに多くの人◦きりしと ののりを繁くちやうもんすれども◦ほつ少きことは◦きりしと のないせうぐうし奉らぬ故也。きりしと の言葉を味ひ深く◦達して分別し奉らんと思ふにをひては◦我身のぎやうを◦ことく きりしと に等しくし奉らんと歎くべし。へりくだる心なきによつて◦ちりんだあでのないせうを背き奉るにをひては◦そのちりんだあでの高きおんことわりを論じても何の益ぞ。まことに媚びたる言葉は◦人を善人にも正しき人にも爲さず◦たゞ善のぎやうこそ◦人を でうす に親しませ奉るものなれ。こんちりさんといふ後悔のことわりを知るよりも◦このこんちりさんを心に覚ゆる事は◦なほ好ましき事也。びぶりやといふたつときやうもんもんをことそらんじ◦諸々のがくしやうを皆知りても◦でうす のたいせつとそのかふりよくなくんば◦これ皆何の益かあらん。でうす 一體を大切に思ひ◦仕へ奉るよりほかは◦皆もなき事の中のもなき事也。この世を厭ひて◦天のおんくにに志すこと◦最上の智惠なり。かくの如くある時んば◦すぎる福徳をたづね求め◦それに頼みをかくる事は◦實もなき事也。位◦譽れを望み歎き◦身をたかぶる事も又◦實もなき事也。骨肉の欲するに任せ◦以後甚だ迷惑すべき事を望むは◦實もなき事也。行儀の正しからん事をば歎かずして◦長命を望むは◦實もなき事也。現在の事をのみもっぱらとして◦未來を覚悟せざること實もなき事也。さしも早く過去る事にあいぢやくして◦長き楽みのあるところへ急がざる事◦實もなき事也。 Oculus non vidit, nec auris audiuit, nec in cor hominis ascendit, quae praeparauit Deus ijs qui diligunt illum. ⅰ. Cor. 2. まなこは見る事にかず◦耳は聴くことを以て達せずといへる貴き經文の語を◦常に思出すべし。しかる時んば◦目前の事より心を離し◦目に見へざるところに心を移すやうに◦歎くべし。その故はしきしんのみだりに望む事を慕ふ者は◦その身のこんしゑんしやをけがし◦でうす の御加護なるがらさを失ひ奉る也

○内證の閑談の事

おんあるじ言葉に◦ Regnum Dei intra vos est. Luc. 17. でうす の御國はなんだちうちにありと宣ふ也。心より でうす に立歸り奉り◦このはかなき世界を厭ふべし。然らば汝のあにまくつろぎを得べし。ほかなる事を捨て◦うちの事を専らとする道を習ふにをひては◦でうす のくに來り給ふをべし。その故は◦でうす のくには無事とすぴりつ◦さんとよりの喜びなり。是を罪人には與へられず。汝のうちに相應の御きよしよをととのゆるにをひては◦きりしと 汝に來り給ひ◦御身の喜びを覚えさせ給ふべし。御主の御威光とおんいつくしさは内證にあり◦また◦そこにをひて御感應をなし給ふ也。内證を専らとするともがらを常にいんしんし給ひ◦むつましくともに語り給ひ◦感にたへたる喜びをいだかせ給ひ◦じんじんなる無事と有難き御懇切を彼に盡し給ふ也。さても二心なきあにま◦この御主汝に來り給ひてともに居住し給ふ様に◦心中をととのへよ。その御言葉に Si quis diligit me, sermonem meum servabit ; et Pater meus diliget eum, et ad eum veniemus, et mansionem apud eum faciemus. Ioan. 4. 我を思ふ者は我言葉を保つべし。又わが御親もその人を思ひ給ひ◦又御親と共に彼に至り◦居住すべしと也。

かるが故に◦きりしと の御ためには心中に道をあけ◦にはことく門を閉ぢよ。きりしと を持ち奉るにをひては◦裕富の身となり◦足んぬすべし。萬事について汝をみつぎ給ひ◦おんたのしく御才覚を加へ給ふべきに依て◦人のかうりよくを待つに及ぶべからず。その故は◦人は早く變り◦困窮する事易しといへども◦きりしと は長く届き給ひ◦末まで變動し給ふ事なし。たとひとくありても又は親しくても◦弱くあだなる人に頼みをかくべき事に非ず。又時としてむかすとなり◦敵といふとも◦深く悼むべき事にあらず。けふは味方たるものゝあすは敵となり◦又敵と思ひしものゝ味方となる事もあれば◦風の變るに異らず。かるが故に◦汝の頼みを悉く でうす にかけ奉り◦即ち汝の恐れ奉るべきも◦大切に思ひ奉るべきも◦この君なるべし。御主汝が代りとして答へ給ひ◦汝が爲によきやうにとゝのへ給ふべし。こゝにはすみつべき住所なし。いづくへ行きても旅人也。そつこんより きりしと に合體し奉らんまでは◦くつろぎといふ事あるべからず。こゝは汝の寛ぐべき所にあらざるに◦何に心をとどむるぞ。汝の住所は天なれば◦世界の事をば◦たゞ通り行くろしの如くに見るべき事也。萬事は過去り◦汝も亦◦共に過行く也。これらにばくせられ亡ぼさるまじき爲に◦彼に執着する事勿れ。汝の念慮をば高く上げ◦汝のおらしよをばたえず きりしと へ捧げ奉るべし。天上の幽玄なる事を工夫するやうを知らずんば◦ぜすきりしと のぱしよんに心をとどめ◦たつとおんきづに安住して◦そこを心のすみとせよ。その故はかの價高き奇妙なる御傷に◦信心を以て近付き奉るにをひては◦難儀の時節◦大きなる力を◦人のいやしむ事をも何とも思はず◦悪口する者の言葉をもたやすく堪忍すべし。ぜすきりしと も世界にをひて賤しめられ給ひ◦御難儀を凌がせられ◦人よりいやしめられ給ふに◦汝は何をしゆつくわいするぞ。きりしと は御身をあざけてきふ者を持給ひしに◦汝は萬民を味方となし◦諸人よりほめあがめられたく思ふや。てきふ事いさゝかもなくば◦何を以てか堪忍のかむりを與へらるべきぞ。きりしと に對し奉りててきふ事を凌がずんば◦何を以てか きりしと のいんとはなり奉るべき◦きりしと ともにみよを保たんと思ふにをひては◦きりしと に對し奉りて◦諸共に難儀を忍ぶべし。たゞ一度なりとも◦ぜすきりしと の御内證に◦達してじつきんにし奉り◦その燃立ち給ふ御大切をいささかも味ひ奉るにをひては◦汝の損徳に拘はる事なく◦却て人より恥辱をしかけらるゝなほ喜ぶべし。その故は◦ぜすゝ の御大切は、我と身をいやしめさせ給ふもの也。ぜすきりしと を眞實に思ひ奉り◦妄執を離れて自由解脱に至りたる者は◦妨げなく でうす にぢやくし奉り◦善の催しによつて我と身を忘れ◦念慮を天に通じ◦甘味にとんじて でうす に寛ぎ奉る事叶ふべし。萬事を人の思ひさたする如くにはあらずして◦たゞありのまゝに知覚するともがらは◦まことの智者也。これ人の指南にあらず◦でうす よりぢきに教へられ奉る人也。心中にとぢこもり◦外なる事をないがしろにする道を知る者は◦信心の所作を勉むる爲に◦所がらをも又時節をも選ばぬ也。内證に立入りたる人は◦外の事に全く心を散らす事なきが故に◦たやすく心中に引こもるもの也。肝要なる時は◦外の辛労も故障も妨げとならず◦たゞ物に應じ時に従つてへんする也。内心を丈夫にをさめ◦すはりたる者は◦變り易くかんきよくなるにんげんにはかかはらぬ也。外の事は身によせつくる程心を散らし◦身の妨げとなる也。心正直にすぐならば◦萬事はきちとなり◦とくと變ずべし。さりながら種々の氣ざかひなる事◦心を亂す事の多きは。未だ汝の身に達して死せず◦世界の事に離れざる故也。さくの物にみだりしゆうぢやくする程◦心をけがばくせらるゝ事なし。色身のはかなき慰みを嫌ふにをひては◦さい天の御事を思案し奉り◦あにまの喜びに楽しむべき事◦叶ふべき者也

しやうじやうなる心とひとえなるこゝろあての事

人は二ツの翼を以て◦世界の事よりとびあがるものなり。それといふは◦正直なることといさぎよきこと也。正直なる事はこゝろあてにあり◦いさぎよきことは好む所にあるべき也。正直なる心は でうす にまなこをつけ奉りいさぎよこゝろあてを以ていだきき味ひ奉る也。しんぢゆうにをひて◦萬づのまうしゆうを全く切断したるにをひては◦何たるぜんも妨げとなることあるべからず。でうす のないせうかなひ奉ること◦人の徳になる事より外を◦歎かず尋ねざるにをひては◦心中自由にあるべき也。汝の心すぐならば◦あるしきの御作のものは◦皆行儀の鏡◦尊きおんをしへの經文となるべし。いかに小さく下賤なる御作のもの也とも◦でうす の御善徳を現し奉らぬはなし。汝の心善にしてしやうじやうならば◦なんの障りもなく萬事よきかたに思ひとるべし。いさぎよき心は◦天をもいんへるのをも抜け通る也。面々のないせうの善徳に従つて◦世のものゝ上をも察する也。世界のをひてたのしといふ事あらば◦心の清き人之を持つ也。もし又汝◦こころぐるしき事みちたる所ありと言はゞ◦心の悪しき人之を覚ゆる也。くろがねは火中にてその錆を落しかがやく如く◦でうす に全く立歸り奉る人は◦ぬるき心はなれ◦新しき人に成變る也。人ぬるくなり始むる時は◦わづかの辛労を恐れ◦世界の喜びにうつらふ也。然りといへども◦達して我身に克ち◦でうす の御奉公に精進になり始むる時は◦以前かたく思ひし事も◦たやすく覚ゆるもの也

○智惠を明らめ給はん爲のおらしよの事

いかに ぜすきりしと 量りなき御光明のくわうようを以て◦わが心を明らめ◦心のやみてらし給へ。妄想の散亂する事を拂ひ給ひ◦我を責むるてんたさんのしやうがいを滅し給へ。我味方となり給ひて◦強く戦ひ給へ。けだものとなるいくやまふを従へ給へ。これ即ちおん力を以て無事を◦尊きでんたくとなり清き心を以て御身を尊み奉る聲をひゞかすべきため也。風波に御下知を爲されよ。又大海に静まれと宣へ。又北風に吹く勿れと御下知なされよ。然らば即ちしづまるべし。御光りとまことを下し給ひて◦じようかがやかし給へ。その故はおん身我を輝かし給はぬ間は◦我はたゞやくなく空虚なり◦土なり。御身のがらさを上より下し給ひ◦我心を强め◦勝れてよき身を生ずべき爲に地上を潤し◦信心を起し給へ。終りなきらくの甘露をめて◦現世の事の思案等を氣苦しく思ふやうに◦つみとがの重荷をせおひたるあにまを引上げ給ひて◦我望みを全く天の事につけ給へ。さくのものより來るほどの過去る喜びを◦我より引離し給へ◦その故が何たる御作のものも◦わが望みを達してくつろげ喜ばする事叶はず。解けがたき御大切の結びを以て◦御身にぐうさせ給へ◦その故は御身御一體のみ思ひ奉る人の爲に◦満足なり給ひ◦御身ましまさずしては◦萬事も味なく益なし

もなき世間の學問に對する心持の事

いかに子◦人間の面白くこびて連ねたる言葉に心をなびくる事勿れ。その故は◦でうす のくには言葉にはなし◦たゞ善徳にあり。人の心を燃立たせ◦あにまを明らめ◦とがを悔い悲ませ◦誠の心の喜びを起す我言葉を観ぜよ。學匠なりと見らるべき爲に物を讀む事なかれ。たゞ悪の根を切るべき道を修行せよ。その故は◦多くのもんなんしりあきらめたるよりも◦これはなほ徳となるべし。多くのことわりを讀誦ししきとくしたらん時◦一ツのこんぽんに立歸る事肝要也。我は人に學問を教へ◦人間の教ゆる事叶はざる明らかなる智慧を◦初心の者になほ與ゆる也。我より語りきかする者は即ち智識となり◦速かに善道に先へ行く也。でうす につかへ奉る道を心懸ずして◦當時面白く消ゆる事をのみ好み◦人より習はんとする者は◦びんなる事哉。諸々の師匠の師匠◦諸々のあんじよの御主にて在ます ぜすきりしと 面々の稽古◦學問の程を聞き給はん爲にまみへ給ふ時節◦到來すべし。それと云ば◦人々のこんしゑんしやとかうせきを糺明し給ひ◦又らうそくをともして◦いゑるされんとなる人の心中を訪ね探り給ふ時◦來るべきもの也。やみに隠れたる事も皆現れ◦諸人の問難皆口を閉づべし。我はへりくだりたる人の智惠を引上げ◦學校にて十年習ひたる學徳よりも◦刹那のうちに終りなきまことの道と學問を◦辨へさする也。我は言葉の音なく◦異説の心々なる亂れもなく◦我慢の規則もなく◦じやうろんの問難もいらずして教ゆる也。我は土の事を卑め◦現世の事を嫌ひ◦終りなき事を尋ね◦終りなき事をあまなひ◦ほまれを逃げ◦妨げを凌ぎ◦全く我に頼みをかけ◦我より外何も望まず◦燃立つ心を以て萬事に越へ◦我を大切に思ふ道を教ゆる也。その故は◦或人は◦我をほつたんより大切に思ふを以て◦妙なる理りを習ひ◦幽玄なる理りを學問するよりも◦萬事を捨つるを以て◦なほ智徳を得さする也。或人には常の事を語り聞かせ◦或人には一かどなる事を言ひ聞かせ◦又人によりてはさうのしるべずいげんを以て面白く現じ◦或人には隠れて深き理りを明かに告知らする也。經には同じ理りを書き顕はすといへども◦人に示す所は同じからず。その故は我は内證のまことのをしへ◦人の心のさぐりしやうねんしり◦所作のうごかし◦面々の功力に相當する分量を正し明らめ◦それに従て配當する者也

○信心を以て尊きゑうかりすちやを申受け
來る道を教へ給へと頼み奉る事

いかに御主◦御身のおんくらゐとわが卑しさを思案いたす時は◦大きにふるひ◦詮方なく赤面し奉る也。近付き申さゞれば命の源を逃げ◦又りきに及ばぬ身として近付き奉れば◦罪に落る也。しかれば御身はわがかうりよくの爲され手◦時に臨んでの御意見者にて在ませば◦何とつかまつりて然るべからんか。すぐなる道を我に教へ給へ。ゑうかりすちやを申受け奉る爲に◦似合の勤めを教へ給へ。その故はわが息災となる様に◦おんのさからめんとを◦信心うやまひを以てとり行ひ奉る爲に◦我心を何とととのへ奉らんかを知ること◦最も肝要也

出典[編集]

吉利支丹文学抄 国立国会図書館 デジタルコレクション
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原文:

この著作物は1925年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。

 
翻訳文:

この著作物は1925年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。