さらしな日記
あづまぢの道のはてよりもなをおくつかたにおひ出たる人。いかばかりかはあやしかりけむを。いかに思ひはじめける事にか。世中にものがたりといふもののあんなるを。いかでみばやとおもひつゝ。つれ〴〵なるひるまよゐなど・あねまゝ母などやうの人々の其物語。かのもの語。ひかる源氏のあるやうなど。ところどころかたるをきくに。いとゞゆかしさまされど。わがおもふまゝに。そらにいかでかおぼえかたらむ。いみじく心もとなきまゝに。とうじんにやくし佛をつくりて。手あらひなどして。人まにみそかにいりつゝ。京にとくあげ玉ひて。ものがたりのおほく候なる。あるかぎり見せたまへと身をすてゝぬかをつき祈り申ほどに。十三になるとしのぼらんとて。九月三日かどでして。いまだちといふ所にうつる。年ごろ遊びなれつるところをあらはにこぼちちらして。立さはぎて。日の入きはのいとすごく霧わたりたるに。車にのるとて打みやりたれば。人まにはまいりつゝぬかをつきしやくし佛の立たまへるをみすて奉る。かなしくてひとしれず打なかれぬ。かどでしたる所は。めぐりなどもなくて。かりそめのかややのしとみなどもなし。すだれかけまくなど引たり。南ははるかに野のかたみやらる。ひんがし西は海ちかくて。いとおもしろし。夕霧たちわたりていみじふおかしければ。あさいなどもせす。かたがたみつゝこゝをたちなん事もあはれにかなしきに。おなじ月の十五日雨かきくらし降に。さかひを出て下野の國のいかたといふ所にとまりぬ。家などもうきぬる計に雨ふりなどすれば。おそろしくていもねられず。野中にをりたちたる所に。たゞ木ぞみつたてるところに。其日は雨にぬれたるものどもほし。國にたちをくれたる人々まつとて。そこに日を暮しつ。十七日のつとめてたつ。昔下つさの國にまのの長といふ人住けり。引ぬのも千むら萬むらをらせさらさせけるが家の跡とて。深き川を船にてわたる。むかしの門のはしらのまだ殘りたるとて。おほきなる柱川の中によつたてり。人々歌よむを聞て。心のうちに。
くちもせぬ此川はしら殘らすは昔の跡をいかてしらまし
その夜はくろどの濱といふところにとまる。かたつかたは廣濱なる所のすなごはる〴〵としろきに。松原しげりて。月いみじうあかきに。風の昔もいみじう心ぼそし。人々おかしがりて。歌よみなどするに。
まとろましこよひならてはいつかみんくろとの濱の秋のよの月
そのつとめてそこをたちて下つさのくにとむさしのさかひにて有。ひと井がはといふがかみのせ。まつさとのわたりのつにとまりて。夜ひとよ舟にてかつ〴〵物などわたす。めのとなる人は。おとこなどもなくなして。さかひにて子うみたりしかば。はなれてべちにのぼる。いとこひしければ。いかまほしくおもふに。せうとなる人いだきてゐていきたり。みな人はかりそめのかりやなどいへど。風すさまじくひきわたなどもしなどしたるに。これはおとこなどもそはねばいとてばなちにあら〳〵しげにて。とまといふものをひとへ打ふきたれば。月のこりなくさし入たるに。紅のきぬうへにきて。打なやみてふしたる。つきかげさやうの人には。こよなく過て。いとしろくきよげにて珍らしと思ひて。かきなでつゝうちなくを。いとあはれに見すて難くおもへど急ぎゐてわかるゝ心地。いとあかずわりなし。おもかげにおぼえて悲しければ。月のけうもおぼえずくんじふじぬ。つめとて。舟に車かきすへてわたして。あなたのきしにくるまひきたてゝ。をくりにはへつる人々。これよりみなかへりぬ。のぼるはとまりなどして。いきわかるゝほど。行もとまるもみななきなどす。おさな心地にもあはれに見ゆ。今は武藏の國に成ぬ。ことにおかしき所も見えず。はまもすなごしろくなどもなく。こひぢのやうにて。むらさき生ときく野も。あし荻のみたかくおひて。馬にのりてゆみもたるすゑ見えぬまでたかく生ひしげりて。中をわけ行に。たけしばといふ寺あり。はるかにいゝさらふといふ所のらうのあとのいしずへなど有。いかなる所ぞととへば。是はいにしへたけしばといふさかなり。國の人の有けるを火たきやのひたく衞士にさし奉りたりけるに。御前の庭をはくとて。などやくるしきめを見るらん。わがくにに七三つくりすへたるさかつぼにさしわたしたるひたえのひさごのみなみ風吹ば北になびき。北風ふけば南になびき。西吹ば東になびき。東ふけば西になびくを見で。かくてあるよと。ひとりごちつぶやきけるを。その時帝の御むすめいみじうかしづかれ給ふ。たゞひとりみすのきはに立いでたまひて。柱によりかゝりて。御覽ずるに。此おのこのかく獨ごつをいとあはれに。いかなるひさごのいかになびくらんと。いみじうゆかしくおぼされければ。みすをしあげて。あのをのこ。こちよれとめしければ。かしこまりてかふらんのつらにまいりたりければ。いひつること今ひとかへり我にいひてきかせよとおほせければ。さかつぼの事をいまひとかへり申ければ。我ゐていきてみせよ。さいふやうありとおほせられければ。かしこくおそろしく思ひけれど。さるべきにや有けむ。おひ奉りてくだるに。びんなく人をひてくらんとおもひて。その夜せたのはしのもとに此宮をすへたてまつり。せたのはしをひとまばかりこぼちて。それをとびこして。このみやをかきおひ奉りて。七日七夜といふに。むさしの國にいきつきけり。みかどきさき。みこうせ玉ひぬとおぼしまどひもとめ給に。武藏の國のゑじのをのこなん。いとこうばしきものをくびにひきかけて。とぶやうに迯けると申いでてこのをのこをたづぬるになかりけり。ろんなくもとの國にこそ行らめと。おほやけよりつかひくだりてをふに。せたのはしのこぼれてえゆきやらず。三月といふにむさしの國にいきつきて。このをのこをたづぬるに。此みこおほやけ・つかひをめして。われさるべきにや有けん。このをのこの家ゆかしくて。ゐてゆけといひしかば。ゐて來たり。いみじくこゝありよくおぼゆ。此をのこつみしにうせられば。我はいかであれど。これもさきの世に此國にあとをたるべきすぐせこそありけめ。はや歸りておほやけに此よしをそうせよと仰られければ。いはんかたなくてのぼりて。帝にかくなん有つると奏しければ。いふかひなし。そのをのこをつみしても。いまは此みやをとりかへし。都にかへし奉るべきにもあらず。たけしばのをのこに。いけらん世のかぎり。武藏の國をあづけとらせて。おほやけごともなさせじ。たゞ宮にその國をあづけ奉らせ給ふよしの宣旨下りにければ。此家を內裡のごとくつくりてすませ奉りける家を。宮などうせ玉ひにければ。寺になしたるをたけしば寺といふなり。その宮のうみ給へるこどもは。やがてむさしといふ姓をえてなん有ける。それより後。火たきやに女はゐるなりとかたる。野山あしをぎのなかをわくるよりほかの事なくて。武藏と相摸との中に有てあすだ川といふ。在五中將の。いざこととはむと。よみけるわたり也。中將の集にはすみだ川とあり。舟にてわたりぬれば相摸の國になりぬ。にしとみといふ所の山。ゑよくかきたらん屛風をたてならべたらんやうなり。かたつかたは。海はまのさまも。よせかへる波のけしきも。いみじうおもしろし。もろこしがはらといふ所も。すなごのいみじうしろきを二三日ゆく。夏はやまとなでしこのこくうすく。にしきをひけるやうになん咲たる。これは秋の末なれば。見えぬといふになを所々は打こぼれつゝ。あはれげに咲わたれり。もろこしがはら・。やまとなでしこしも咲けんこそなど。人々おかしがる。あしがら山といふは。四五日かねて。おそろしげにくらがりわたれり。やう〳〵いりたつ。ふもとのほどに。空のけしきはか〴〵しくも見えず。えもいはずしげりわたりて。いとおそろしげなり。麓にやどりたる所に。月もなく。くらき夜のやみに。まどふやう成に。あそび三人いづくよりともなく出來たり。五十ばかりなるひとり。二十ばかり成。十四五なると有。いほのまへに。からかさをさゝせてすへたり。をのこども火をともして見れば。むかしこはだといひけんがまごといふ。かみいとながく。ひたいいとよくかゝりて。色しろくきたなげなくて。さても有ぬべきしもづかへなどにてもありぬべしなど。人々哀がるに。こゑすべてにるものもなく。空にすみのぼりて。めでたくうたをうたふ。人々いみじうあはれがりて。けぢかくて。人々もてけうずるに。こしくにのあそびはえかゝらじなどいふをきゝて。難波わたりにくらぶればと。めでたくうたひたり。みるめのいときたなげなきに。こゑさへにる物なくうたひて。さばかりおそろしげ成山中にたちて行を。人々あかず思ひて。みななくを。おさなき心地には。まして此やどりをたゝん事さへあかずおぼゆ。まだ曉より足柄をこゆ。まいて山のなかのおそろしげなる事いはむかたなし。雲はあしの下にふまる。山のなからばかりの木の下のわづかなるに。あふひのたゞ・すぢばかりある・世はなれて。かゝる山中にしもおひけんよと人々あはれがる。水はその山に三ところにながれたる。からうじて越はてゝ。關山にとゞまりぬ。是よりは駿河なり。よこはしりの關のかたはらにいはつぼといふところ有。えもいはずおほきなる石のよはうなる中に。あなのあきたる中よりいづる水の。淸くつめたき事かぎりなし。富士の山は此國なり。我生出し國にては。にしおもてにみえし山なり。その山のさま。いと世にみえぬさま也。さまこと成山のすがたの。こんじやうをぬりたるやうなるに。雪の消る世もなくつもりたれば。色こききぬにしろきあこめきたらんやうに見えて。山のいたゞきのすこしたいらぎたるより。烟は立のぼる。夕暮は火のもえたつも見ゆ。淸見が關は。かたつかたは海なるに。關屋どもあまた有て。海までくきぬきしたり。けぶりあふにやあらむ。淸見が關の波もたかくなりぬべし。おもしろき事かぎりなし。田籠の浦は。波たかくて船にて漕めぐる。大井川といふわたりあり。水の世のつねならず。すりこなどをこくてながしたらんやうに白き水はやくながれたり。ふじ川といふは富士の山より落たる水也。その國の人の出てかたるやう。ひとゝせごろ。物にまかりたりしに。いとあつかりしかば。此水のつらにやすみつゝ見れば。川上のかたよりき成ものながれきて。物につきてとゞまりたるをみれば。ほぐなり。とりあげて見れば。きなる紙に。にしてこくうるはしくかゝれたり。あやしくてみれば。らいねんなるべき國どもを。ぢごくのごとみなかきて。此國らいねんあくべき事もかみなして。又そへて二人をなしたり。あやしあさましとおもひて。とり上てほして。おさめたりしを。かへるとしのつかさめしに。この文にかゝれたりしひとつたがはす。此國のかみとありしまゝなるを。三月のうちになくなりて。またなりかはりたるも。このかたはらにかきつけられたりし人也。かゝることなむ有し。らいねんの司めしなどは。ことし此山にそこばくのかみ〴〵あつまりない玉ふなりけりと見給へし。めづらかなる事にさぶらふとかたり。ぬましもと云所もすが〴〵とすぎて。いみじくわづらひ出て。遠江にかゝる。さやの中山など越けんほどもおぼえず。いみじくくるしければ。天りうといふ川のつらにかり屋つくりまうけたりければ。そこにて日ごろすぐるほどにぞ。やう〳〵をこたる。冬深くなりたれば。河風はげしく吹上て。たへがたくおぼえけり。そのわたりしつゝ。はまなの橋についたり。はまなのはしくだりし時は。くろきをわたしたりし。このたびはあとだにみえねば舟にてわたる。入江にわたりし橋也。とのうみはいといみじくあらく。波たかくて。入江のいたづらなるすどもに。こと物もなく。松原のしげれる中より浪のよせかへるも。いろいろの玉のやうにみえ。まことに松の末より波はこゆるやうに見えて。いみじくおもしろし。それよりかみは。井のはなといふさかのえもいはれずわびしきをのぼりぬれば。三河の國の高師の山といふ。八はしはなのみして。橋のかたもなく。なにの見所もなし。二むら山の中にとまりたる夜。大きなるかきの木の下にいほをつくりたれば。夜ひとよいほのうへにかきのおちかゝりたるを。人々ひろひなどす。宮ぢの山といふ所こゆるほど。十月晦日なるに。紅葉してさかりなり。
嵐こそ吹こさりけれ宮路山また紅葉葉のちらて殘れる
三河と尾張となるしかすがのわたり。げにおもひわづらひぬべくおかし。尾張の國なるみの浦を過るに。夕しほたゞみちにみちて。こよひやどからんも。ちうけんにしほみちきなば。こゝをも過じと。あるかぎりはしりまどひすぎぬ。美濃の國なるさかひに。すのまたといふわたりして。野がみといふ所につきぬ。そこにあそびどもいできて。夜ひとようたうたふに。あしがら成し思ひ出られて。哀に戀しき事かぎりなし。雪降あれまどふに。ものゝ興もなくて。不破の關あつみの山などこえて。近江の國おきながといふ人の家にやどりて四五日あり。みつさか・山のふもとに夜ひるしぐれあられ降みだれて。日の光もさやかならず。いみじうものむづかし。そこをたちて。いぬがみかむざきやすくるもとなどいふところ〴〵なにとなくすぎぬ。みづ海のおもてはる〴〵として。なでしま竹生嶋などいふ所・のみえたるいとおもしろし。せたのはしみなくづれてわたりわづらふ。あはづにとどまりて。しはすの二日京にいる。くらくいきつくべしと。さるの時ばかりに立てゆけば。關ちかく成て。山づらにかりそめなるきりかけといふものしたるかみより。丈六のほとけのいままであらづくりにおはするが。かほばかりみやられたり。あはれに人はなれて。いづこともなくておはする佛かなと打見やりてすぎぬ。こゝらの國々を過ぬるに駿河の淸見が關と相坂のせきとばかりはなかりけり。いとくらく成て。三條の宮の西なる所につきぬ。ひろ〴〵とあれたる所の過ぎつる山々にしもおとらず。おほきにおそろしげなるみ山木どものやうにて。」(底本三六九頁上段一五行)はゝなくなりにしめひどもも。むまれしよりひとつにて。よるはひだり右にふしおきするも哀に思ひ出られなどして。心もそらにながめくらさる。たちぎきかいまむ人のけはひして。いといみじくものつゝまし。十日計有てまかでたれば。てゝはゝすびつに火などおこしてまちゐたりけり。くるまよりおりたるを打みておはする時こそひとめもみえさぶらひなども有けれ。この日ごろは人ごゑもせず。まへに人かげもみえず。いと心ぼそくわびしかりつる。かうてのみも。まろが身をばいかゞせむとかするとうちなくを見るもいとかなし。つとめても。けふはかくておはすれば。うちと人おほく。こよなくにぎはゝしくも成たる哉とうちいひてむかひゐたるもいと哀に。なにのにほひの有にかと淚ぐましうきこゆ。ひじりなどすらさきの世のこと夢にみるはいとかたかなるを。いとかうあとはかないやうにはか〴〵しからぬ心ちに夢に見るやう。きよ水のらい堂にゐたれば。別當とおぼしき人いで來て。そこはさきの生に。此みてらの僧にてなんありし。佛師にてほとけをいとおほく作り奉しくどくによりてありしすざうまさりて人と生れたるなり。このみだうの東におはする丈六の佛はそこのつくりたりし也。はくををしさしてなくなりにしぞと。あないみじ。さばあれにはくをしたてまつらむといへば。なくなりにしかば。こと人はくをし奉りて。こと人くやうもしてしとみてのち淸水にねんごろに參りつかうまつらましかば。さきの世にそのみてらに佛ねんじ申けんちからに。をのづからようも」(底本三七〇頁上段一二行)おこがましく見えしかば。われはかくてとぢこもりぬべきぞと。のこりなげに世をおもひいふめるに。心ぼそきたへず。東は野のはる〴〵とあるに。ひんがしの山ぎはは。ひゑの山よりしていなりなどいふ山まであらはに見えわたり。西はならびの岡の松風いとみゝちかう心ぼそく聞えて。內にはいたゞきのもとまで。田といふもののひだひきならす音など。井中のこゝちしていとおかしきに。月のあかき夜などは。いとおもしろきをながめあかしくらすに。しりたりし人さと遠く成ておともせず。便につけて何事かあらんとつたふる人におどろきて。
おもひ出て人社とはね山里の笆の荻に秋風そ吹
といひてやる。十月に成て京にうつろふ。母あまになりて。おなじ家の內なれど。かたことにすみはなれてあり。てゝはたゞ。われをおとなにしすへて。我は世にもいでまじらはず。かげにかくれたらんやうにてゐたるを見るも。たのもしげなく心ぼそくおぼゆるに。きこしめすゆかりあるところに。何となくつれ〴〵に心ぼそくてあらんよりはとめすを。こだいのおやは。宮づかへ・はいとうき事也とおもひてすぐさするを。今の世の人はさのみこそはいでたて。さてもをのづからよきためしもあり。さてもこゝろみよといふ人々有て。しぶ〴〵にいだしたてらる。まづ一夜まいる。きくのこくうすき八ばかりに。こきかいねりをうへにきたり。さこそものがたりにのみこゝろをいれて。それを見るよりほかにゆきかよふるいしぞくなどだにことになく。こだいのおやどものかげばかりにて。月をも花をもみるよりほかの事はなきならひに。たちいづるほどの心地。あれみにもあらずうつゝともおほえで。あかつきにはまかでぬ。さとびたる心地には。中々またまりたらむ。さとずみよりはおかしきことも見きゝて。心もなぐさみやせんと思ふおり〳〵ありしを。いとはしたなくかなしかるべきことにこそあべかめれと思へどいかゞせむ。しはすになりてまたまいる。つぼねして。このたびは日ごろさぶらふ。うへには時々よる〳〵ものぼりて。しらぬ人の中にうちふしてつゆまどろまれず。はづかしうもののつゝましきまゝに。しのびてうちなかれつゝ。あかつき・は夜ふかくおりて。ひくらしてこのおいおとろへて。われをことくもたのもしからむかげのやうに思ひたのみむかひゐたるに戀しくおぼつかなくのみおぼゆ。」(底本三七一頁下段八行)くちおし。いかによしなかりける心なりと思し見はてゝ。まめ〳〵しくすぐすとならば。さてもありはてず。まいりそめし所にも。かくかきこもりぬるを。まことともおぼしめしたらぬさまに人々もつげ。たえずめしなどする中にも。わざとめして。わかいひとまいらせよと仰らるれば。えさらずいだしたつるにひかされて。又とき〴〵いでたてど。過にし方のやうなるあいなだのみの心をごりをだにすべきやうもなくて。さすがにわかい人にひかれて。おり〳〵さしいづるにも。なれたる人はこよなく何ごとにつけてもありつきがほに。我はいとわかうどに有べきにもあらず。又おとなにせらるべきおぼえもなく。時々のまらうどにさしはな・れてすゞろなるやうなれど。ひとへにそなたひとつをたのむべきならねば。我よりまさる人あるも。うらやましくもあらず。中々心やすくおぼえて。さるべき折ふしまいりて。つれづれなぐさむべき人とものがたりなどして。めでたきこともおかしくおもしろき折々も。我身はかやうにたちまじり。いたく人にも見しられむにも。はゞかりあんべければ。たゞおほかたの事にのみきゝつゝすぐすに。內の御ともにまいりたるおり。有明の月いとあかきに。わがねむじ申す天てる御神は。內にぞおはしますなるかし。かゝるおりにまいりておがみ奉らんとおもひて。四月ばかりの月のあかきに。いとしのびてまいりたれば。はかせの命ぶはしるたよりあれば。とうろの火のいとほのかなるに。あさましくおい神さびて。さすがにいとよう物などいひゐたるが。人ともおぼえず。神のあらはれ玉へるかとおぼゆ。又の夜も月のいとあかきに。ふぢつぼのひんがしのとをしあけて。さべき人々物がたりしつゝ月をながむるに。梅つぼの女御ののぼらせ給なるをとなひ。いみじう心にくゝいうなるにも。故宮のおはします世ならましかば。かやうにのぼらせ給はましなど人々いひいづる。げにいとあはれなりかし。
天のとを雲ゐなからもよそにみて昔の跡をこふる月哉
冬になりて。月なく。雪もふらずながら。月のひかりに空さすがにくまなくさえわたりたる夜のかぎり。殿の御かたにさぶらふ人々とものがたりし明しつゝ。あくればたち」(底本三七三頁上段一行)やあらまし。いといふかひなくまうでつかうまつることなくてやみにき。十二月廿五日宮の御佛名にめしあれば。そのよばかりと思ひて參りぬ。白ききぬどもにこきかいねりをみなきて。四十餘人計出ゐたり。しるべしいでし人のかげにかくれてあるがなかに。うちほのめいて。あかつきにはまかづ。雪うち散て。いみじくはげしくさえこほるあかつき方の。月のほのかに。こきかいねりの袖にうつれるも。げにぬるゝがほなり。みちすがら。
年はくれ夜は明かたの月かけの袖に移れる程そはかなき
かう立出ぬとならば。さても宮づかへのかたにもたちなれ。世にまぎれたるも。ねぢけがましきおぼえもなきほどは。をのづから人のやうにもおぼしもてなさせ玉ふやうもあらまし。おやたちもいと心えず。ほどもなくこめすへつ。さりとてその有さまのたちまちにきらきらしきいきほひなどあんべいやうもなく。いとよしなかりけり。すゞろ心にても。ことのほかにたがひぬる有さまなつかし。
幾千たひ水の田芹をつみしかと思ひしことの露もかなはぬ
とばかりひとりごたれてやみぬ。其後は何となくまぎらはしきに。ものがたりのことも打たえわすられて。物まめやかなるさまに心も成果てぞ。などておほくの年月をいたづらにてふしをきしに。をこなひをも物まうでをもせざりけん。此あらましごととても。思しことどもは。此世にあんべかりけることゞもなりや。ひかる源氏ばかりの人は。此世におはしけりやは。かほる大將の宇治にかくしすへ玉べきもなき世なり。あな物ぐ」(底本三七三頁下段一五行)るをやくにゝて物まうでをわづかにしても。はか〴〵しく人のやうならんともねんぜられず。此ごろの世の人は。十七八よりこそ經よみをこなひもすれ。さることおもひかけられず。からうじて思ひよることは。いみじくやんごとなきかたち有さま。ものがたりにあるひかる源氏などやうにおはせん人を年にひとたびにてもかよはし奉りて。うきふねの女君のやうに山里にかくしすへられて。花紅葉月雪をながめて。いと心ぼそげにて。めでたからん御文などを時々まちみなどこそせめとばかりおもひつゞけ。あらましごとにもおぼえけり。おやとなりなばいみじうやむごとなく我身もなりなんなど。たゞ行衞なきことをうち思ひすぐすに。おやからうじてはるかに遠きあづまになりて。年頃はいつしかおもふやうに。ちかきところになりたらば。まづむねあくばかりかしづきたてゝ。ゐてくだりて。海山のけしきも見せ。それをばさるものにて。わがみよりもたかうもてなしかしづきてみんとこそおもひつれ。我も人もすくせのつたなかけりれば。あり〳〵てかくはるかなる國になりにたり。をさなかりし時。東の國にゐてくだりてだに。こゝちもいさゝかあしければ。是をや此國にみすてゝ。まどはんとすらんと思ふ。人の國のおそろしきにつけても。わが身ひとつならばやすらかならましを。ところせうひきぐして。いはまほしき事もえいはず。せまほしき事もえせずなどあるが。わびしうもあるかなと心をくだきしに。いまはまいておとなになりにたるを。ゐてくだりて。わが命もしらず。京のうちにてさすらへむはれいの事。東のくにいなか人に成て。まどはんはいみじかるべし。京とてもたのもしうむかへとりてんとおもふるいしぞくもなし。さりとてわづかになりたる國をじし申べきにもあらねば。京にとゞめてながきわかれにてやみぬべき也。京にもさるべきさまにもてなして。とゞめんとはおもひよる事にもあらずと。よるひるなげかるゝを聞こゝち。花紅葉のおもひもみなわすれて。悲しくいみじく思ひなげかるれどいかゞはせん。七月十三日にくだる。五日かねては見んも中々成べければ。うちにもまいこず。まひて其日は立さはぎて。時成ぬれば。今はとてすだれを引あげてうちみあはせて。淚をほろ〳〵とおとして。やがていでぬるを見送る心ち。めもくれまどひて。やがてふされぬるに。とまるをのこのをくりしてかへるに。ふところがみに。
思ふ事心にかなふ身成せは秋のわかれを深くしらまし
とばかりかゝれたるを。えみやられず。ことよろしき時こそこしおれかゝりたる事も思ひつづけけれども。かくもいふべきかたもおぼえぬまゝに。
かけて社思はさりしか此世にてしはしも君に別るへしとは
とやかゝれにけん。いとゞひとめも見えず。さびしく心ぼそく。打ながめつゝ。いづこ計と明暮おもひやる。道のほどもしりにしかば。はるかに戀しく心ぼそき事限なし。明るより暮るまで。東の山ぎはをながめてすごす。八月ばかりにうづまさにこもるに。一條よりまうづる道におとこくるまふたつばかりひきたてゝ。物へ行にもろともにくべきひとまつなるべし。過て行にずいじんだつものをおこせて。
花見にゆくと君をみるかな
といはせたれば。かゝるほどの事はいらへぬもびんなしなどあれば。
千くさなるこゝろならひに秋の野の
とばかりいはせていき過ぬ。七日さぶらふほども。たゞ東路のみおもひやられてよしなし。とかくしてはなれて。たいらかにあひみせ玉へと申は。ほとけもあはれときゝいれさせ給ひけむかし。ふゆになりて。日暮し雨ふりくらひたる夜。雲かへる風はげしう打吹て。そら晴て月いみじうあかう成て。軒ちかき荻のいみじう風にふかれて。くだけまどふがいと哀にて。
秋をいかに思ひいつらん冬深みあらしにまとふ荻の枯はは
東より人きたる。神拜といふわざして。國のうちありきしに。水おかしくながれたる野のはるばるとあるに。もりのあるおかしき所かな。見せてとまづ思ひいでて。こゝはいづことかいふととへば。こしのびのもりとなん申とこたへたりしが。身によそへられて。いみじくかなしかりしかば。馬よりおりて。そこにふた時なんながめられし。
とゝめをきて我こと物や思ひけんみるに悲しきこしのひのもり
となむおぼえしとあるを。みる心ちいへばさらなり。返ごとに。
こしのひを聞につけても留をきしちゝふの山のつらき東路
かうてつれ〴〵とながむるに。などか物まうでもせざりけん。はゝいみじかりしこだいの人にて。はつせにはあなおそろし。ならざかにて人にとられなばいかゞせん。いし山關山こえて。いとおそろし。くらまはさる山ゐていでん。いとおそろしや。おやのぼりてともかくもと。さしはなちたる人のやうにわづらはしがりて。わづかに淸水にゐてこもりたり。それにもれいのくせはまことしかべいこともおもひ申されす。ひがんのほどにていみじうさはがしうおそろしきまでおぼえて。うちまどろみいりたるに。み帳の方のいぬふせぎのうちに。あをきをりものの衣をきて。にしきをかしらにもかづき。あしにもはいたるそうの別當とおぼしきがよりきて。ゆくさきのあはれならむもしらず。さもよしなしごとをのみとうちむづかりて。み帳の內にいりぬとみても。打おどろきても。かくなん見えつるともかたらず。心にも思ひとゞめでまかでぬ。はゞ一尺の鏡をいさせて。えゐてまいらせぬかはりにとて。そうをいだしたてゝ。はつせにもうでさすめり。三日さぶらひて。此人のあべからんさま。夢にみせ玉へなどいひてまうでさするなめり。そのほどは精進せさす。このそうかへりて。夢をだにみでまかでなんがほいなきこと。いかゞ歸りても申べきと。いみじうぬかづきおこなひてねたりしかば。御帳のかたよりいみじうけだかうきよげにおはする女のうるはしくさうぞき玉へるが。たてまつりしかゞみをひきさげて。此かゞみにはふみやそへたりしととひ給へば。かしこまりて。ふみもさぶらはざりき。此鏡をなんたてまつれと侍しとこたへたてまつれば。あやしかりける事かな。ふみそふべきものをとて。此鏡をこなたにうつれるかげをみよ。これみれば哀にかなしきぞとて。さめ〴〵となき玉ふを見れば。ふしまろびなきなげきたるかげうつれり。此影をみれば。いみじうかなしな。これ見よとて。いまかたつかたにうつれる影をみせたまへば。みすどもあをやかに。木帳をしいでたるしたより。いろ〳〵のきぬこぼれいでて。梅さくら咲たるに。鶯こづたひ鳴たるをみせて。これをみるはうれしなどの玉ふとなむみえしとかたるなり。いかに見えけるぞとだに見もとゞめず。物はかなき心にもつねにあまてる御神をねんじ申せといふ人あり。いづくにおはします神佛にかはなど。さはいへどやう〳〵おもひわかれて人にとへば。神におはします。伊勢におはします。紀伊の國にきのこくさうと申すは此御神なり。さては內侍所にすべら神となんおはしますといふ。伊勢の國まではおもひかくべきにもあらざなり。內侍所にもいかでかはまいりおがみ奉らん。そらの光をねむじ申べきにこそはなどうきておぼゆ。しぞくなる人あまに成て。すがく院に入ぬるに。冬頃。
淚さへふりはへつゝそ思ひやるあらし吹らむふゆの山里
かへし。
わけてとふ心のほとの見ゆる哉木陰をくらき夏のしけりを
あづまにくだりしおや。からうじてのぼりて。西山なる所におちつきたれば。そこにみなわたりて見るに。いみじう嬉しきに。月のあかき夜ひとよものがたりなどして。
かゝる世も有ける物を限りとて君にわかれし秋はいかにそ
といひたれば。いみじくなきて。
思ふ事かなはすなそといとひこし命のほとも今そうれしき
これぞ別れのかどでといひしらせしほどのかなしさよりは。たいらかにまちつけたるうれしさもかぎりなけれど。人のうへにてもみしに。老おとろへて。世にいでまじらひしは。」(底本三七八頁下段三行)みやこのうちとも見えぬ所のさまなり。ありもつかずいみじうものさはがしけれども。いつしかと思ひし事なれば。物語もとめて見せよ見せよとはゝをせむれば。三條殿の宮にしぞくなる人の衞門の命婦とてさぶらひけるたづねて文やりたれば。めづらしがりてよろこびて。御前のをおろしたるとて。わざとめでたきさうしどもすゞりの箱のふたにいれてをこせたり。嬉しくいみじくて。夜ひるこれをみるよりうちはじめ。又々もみまほしきに。ありもつかぬみやこのほとりに。誰かは物がたりもとめ見する人のあらん。まゝ母なりし人は。みやづかへせしがくだりしなれば。思ひしにあらぬことどもなどありて。世中恨めしげにて。外にわたるとて。いつゝばかりなるちごどもなどして。あはれなりつる心のほどなんわすれん世あるまじきなどいひて。梅の木のつまちかくていとおほきなるを。これが華のさかんおりはこんよといひをきてわたりぬるを。心の內に戀しくあはれ也とおもひつゝ。しのびねをのみなきて。その年も歸りぬ。いつしか梅さかなんこむと有しを。さやあるとめをかけてまちわたるに。花もみな咲ぬれどをともせず。おもひわびて。花を折てやる。
たのめしを猶や待へき霜枯し梅をも春はわすれさりけり
といひやりたれば。あはれなることどもかきて。
なをたのめ梅の立枝は契をかぬおもひの外の人もとふ也
その春世中いみじうさはがしうて。まつさとのわたりの月かげ。あはれに見しめのとも三月ついたちになく成ぬ。せんかたなく思ひなげくに。物がたりのゆかしさもおぼえずなりぬ。いみじくなき暮して。みいだしたれば。夕日のいとはなやかにさしたるに。さくらのはなのこりなく散みだる。
散花も又こん春はみもやせんやかてわかれし人そ戀しき
またきけば。侍從の大納言の御むすめなくなり玉ひぬ也。殿の中將おぼしなげくなるさま。わがものの悲しきおりなれば。いみじくあはれ也ときく。のぼりつきたりし時。これ手本にせよとて。此姬君の御てをとらせたりしを。小夜深てねざめざりせばなどかきて。鳥へ山谷に烟のもえたらははかなく見えし我としらなむと。いひしらずをかしげにめでたくかき玉へるを見て。いとゞ淚をそへまさる。かくのみ思ひくんじたるを心もなぐさめんと心ぐるしがりて。はゝ物語などもとめてみせ給ふに。げにをのづからなぐさみゆく。むらさきのゆかりをみて。つゞきのみまほしくおぼゆれど。人かたらひなどもえせず。されどいまだみやこなれぬほどにてえみつけず。いみじく心もとなくゆかしくおぼゆるまゝに。この源氏物がたり一の卷よりしてみなみせ玉へと心のうちにいのる。おやのうづまさにこもり玉へるにも。こと事なく此事を申ていでんまゝに。此物語みはてむとおもへど見えず。いと口おしくおもひなげかるゝに。をばなる人のゐなかよりのぼりたる所にわたいたれば。いとうつくしうおひなりにけりなどあはれがりめづらしがりてかへるに。何をか奉らん。まめ〳〵しきものはまたなかりなむ。ゆかしくし給なるものを奉らんとて源氏の五十餘卷ひつにいりながら。ざい中將。とをぎみ。せり川。しらゝ。あさうづなどいふものがたりども。一ふくろとり入て。えてかへる心地のうれしさぞいみじきや。はしなくわづかに見つゝ。心もえず心もとなく思ふ源氏を。一の卷よりして。人もまじらず木丁のうちに打ふして。ひきいでつゝみる心地。きさきのくらゐもなにかゝはせむ。ひるは暮しよるはめのさめたるかぎり火をちかくともして。是を見るよりほかの事なければ。をのづから名とはそらにおぼえうかぶを。いみじきことに思ふに。夢にいときよげなるそうのきなる地のけさ着たるが來て。法花經五卷をとくならへといふと見れど。人にもかたらず。ならはんともおもひかけず。物がたりのことをのみ心にしめて。我は此ごろわろきぞかし。さかりにならば。かたちもかぎりなくよく。かみもいみじくながくなりなん。ひかる源氏のゆふがほ。宇治の大將のうき舟の女ぎみのやうにこそあらめとおもひける心。まづいとはかなくあさまし。五月ついたち頃。つまちかき花たちばなのいとしろく散たるをながめて。
時ならす降雪かとそなかめまし花たちはなのかほらさりせは
あしがらといひし山の麓にくらがりわたりたりし木のやうにしげれる所なれば。十月ばかりの紅葉よもの山邊よりもげにいみじくおもしろく。にしきをひけるやうなるに。ほかよりきたる人のいま參りつる道に紅葉のいとおもしろき所の有つるといふに。ふと。
いつこにも劣らし物を我やとのよを秋はつる氣色はかりは
ものがたりの事をひるは日暮しおもひつゞけ。よるもめのさめたるかぎりは。是をのみ心にかけたるに。夢に見ゆるやう。此ごろ皇太后宮の一品の宮の御れうに。六角堂にやり水をなんつくるといふ人あるを。そはいかにととへば。あまてる御神をねんじませといふと見て。人にもかたらず。なにともおもはでやみぬる。いといふかひなし。春ごとに此一品宮をながめやりつゝ。
咲とまち散ぬと歎く春はたゝわかやと顏に花をみる哉
三月つごもりがた。つちいみに人のもとにわたりたるに。櫻のさかりにおもしろく。いままでちらぬもあり。かへりて又の日。
あかさりし宿の櫻を春暮て散かたにしも獨見し哉
といひにやる。花のさきちるおりごとに。めのとなく成し折ぞかしとのみあはれ成に。おなじおりなく成玉ひし侍從大納言の御むすめの書を見つゝ。すゞろにあはれ成に。五月ばかり。夜ふくるまで物がたをよみておきゐたれば。きつらんかたもみえぬに。ねこのいとながうないたるをおどろきて見れば。いみじうおかしげなる猫あり。いづくよりきつるねこぞと見るに。あねなる人。あなかま人にきかすな。いとおかしげなる猫なり。かはんとあるに。いみじう人なれつゝ。かたはらに打ふしたり。尋ぬる人やはと是をかくしてかふに。すべて下すのあたりにもよらず。つとまへにのみありて。ものもきたなげなるはほかざまにかほをむけてくはず。あねおとゝの中につとまとはれて。おかしがりらうたがるほどに。あねのなやむ事あるに。物さわがしくて。此ねこをきたおもてにのみあらせてよばねば。かしがましくなきのゝしれども。なをさるにてこそはとおもひてあるに。わづらふあねおどろきて。いづら。猫はこちゐてことあるをなどととへば。夢に此ねこのかたはらにきて。おのれはじじうの大納言殿の御むすめのかくなりたる也。さるべきえんのいさゝかありてこの中の君のすゞろにあはれとおもひ出たまへば。ただしばしこゝにあるを。此ごろ下すのなかにありて。いみじうわびしきことといひて。いみじうなくさまは。あてにおかしげなる人と見えて。打おどろきたれば。此ねこの聲にて有つるが。いみじく哀成なりとかたり玉ふを聞に。いみじくあはれ也。そののちは此ねこを北面にもいださずおもひかしづく。たゞひとりゐたる所に此ねこがむかひゐたれば。かいなでつゝ。侍從大納言の姬君のおはするな。大納言殿にしらせ奉らばやといひかくれば。かほをうちまもりつゝ。なかようなくも。心のおもひなし。めのうちつけに。れいのねこにはあらず。きゝしりがほに。あはれや。世中に長恨歌と云文を物がたりにかきてある所あんなりと聞に。いみじくゆかしけれど。えいひよらぬに。さるべき便をたづねて。七月七日いひやる。
契けんむかしのけふのゆかしさに天の川なみ打出つる哉
返し。
立いつる天の河邊のゆかしさに常はゆゝしきことも忘ぬ
その十三日の夜の月。いみじく隈なくあかきに。みな人もねたる夜中ばかりに。えんに出ゐて。あねなる人空をつく〴〵とながめて。たゞ今ゆくゑなくとびうせなばいかゞおもふべきと問に。なまおそろしとおもへるけしきを見て。こと〴〵にいひなして。わらひなどしてきけば。かたはら成所にさきおふくるまとまりて。おぎのは〳〵とよばすれどこたへざなり。よびわづらひて。笛をいとおかしくふきすましてすぎぬ也。
笛の音のたゝ秋風と聞ゆるになと荻のはのそよとこたへぬ
といひたれば。げにとて。
荻の葉のこたふる迄も吹よらてたゝに過ぬる笛の音そうき
かやうにあくるまでながめあひて。夜あけてぞみな人ねぬる。そのかへる年四月の夜中ばかりに。火のことありて。大納言殿の姬君と思かしづきしねこもやけぬ。大納言殿のひめ君とよびしかば。聞しりがほになきて。あゆみきなどせしかば。てゝなりし人も。めづらかに哀なること也。大納言に申さむなどありし程に。いみじうあはれに口おしくおぼゆ。ひろ〴〵とものふかきみ山のやうにはありながら。花紅葉のおりは四方の山邊もなにならぬを。見ならひたるに。たとしへなくせばき所の庭のほどもなく。木などもなきに。いと心うきに。むかひなる所に梅のこうばひなど咲みだれて。風につけてかほりくるにつけても。住なれし古鄕かぎりなく思ひ出らる。
にほひくる隣の風を身にしめてありし軒端の梅そ戀しき
其五月のついたちにあね成人こうみてなくなりぬ。よその事だにおさなくよりいみじくあはれと思ひわたるに。ましていはん方なくあはれかなしとおもひなげかる。はゝなどはみななく成たる方にあるに。かたみにとまりたるおさなき人々を左右にふせたるに。あれたる板屋のひまより月のもりきて。ちごのかほにあたりたるがいとゆゝしくおぼゆれば。袖をうちおほひて。今ひとりをもかきよせて思ふぞいみじきや。其程過てしぞくなる人のもとより。むかしの人のかならずもとめてをこせよとありしかば。もとめしに。その折はえ見いでず成にしを。いましも人のおこせたるが。あはれにかなしき事とて。かばねたづぬる宮といふ物がたりをおこせたり。まことにぞあはれなるや。かへりごとに。
埋もれぬかはねを何に尋ねけん苔の下には身こそ成ぬれ
めのと成し人。今はなににつけてかなど。なく〳〵もと有ける所に歸りわたるに。
故里にかく社人は歸けれあはれいか成わかれなりけん
むかしのかたみにはいかでとなん思ふなどかきて。硯の水のこほれば。みなとぢられて。とどめつといひたるに。
かきなかす跡はつらゝに閉てけり何を忘れぬ形見とか見む
といひやりたるかへりごとに。
なくさむるかたも渚の濱千鳥何かうき世にあともとゝめむ
此めのとはか所見て。なく〳〵歸たりし。
のほりけむ野へは烟もなかり鳬いつこをはかと尋てかみし
是を聞て。まゝ母成し人。
そこはかとしりてゆかねと先に立淚そ道のしるへ成ける
かばね尋ぬる宮。をこせたりし人。
住なれぬ野へのさゝ原跡はかもなく〳〵いかに尋ね侘けん
是を見て。せうとはその夜おくりにいきたりしかば。
見しまゝにもえし烟はつきにしをいかゝ尋し野へのさゝ原
雪の日を經てふるころ。よしの山にすむあま君をおもひやる。
雪降てまれの人めも絕ぬらん吉野の山の峯のかけ道
かへるとしむ月のつかさめしにおやのよろこびすべき事ありしに。かひなきつとめて。おなじ心に思ふべき人のもとより。さりともと思ひつゝ。あくるを待ゐる心もとなさなどいひて。
明るまつ鐘の聲にも夢さめて秋のもゝよの心ちせし哉
といひたる返事に。
あかつきを何に待けむ思事なるともきかぬ鐘の音ゆへ
四月つごもりがた。さるべきゆへありて。東山なる所へうつろふ。道のほど。田のなはしろ。水まかせたるも植たるも何となく靑み。おかしく見えわたりたる山の陰くらう。まへちかく見えて。心ぼそくぞあはれなる。夕暮水鷄いみじく鳴。
たゝくとも誰か水鷄のくれぬるに山路を深く尋ねてはこん
靈山ちかき處なれば。まうでておがみ奉るに。いとくるしければ。山寺なる石井によりて。手に結びつゝのみて。此水のあかずおぼゆるかなといふ人のあるに。
おく山のいしまの水を結ひ上てあかぬ物とは今のみやしる
といひたれば。水のむ人。
山の井の雫に濁る水よりもこはなをあかぬ心ちこそすれ
かへりて。夕日けざやかにさしたるに。宮古の方ものこりなくみやらるゝに。此しづくに濁る人は。京に歸るとて心ぐるしげに思ひて。またつとめて。
山のはに入日の影はいりはてゝ心ほそくそなかめやらまし
念佛する僧のあかつきにぬかづく音のたうとく聞ゆれば。とををしあけたれば。ほの〴〵と明行山ぎは。こぐらき梢ども霧わたりて。花紅葉のさかりよりも何となくしげりわたれば。そらのけしきくもらはしくおかしきに。郭公さへいと近き梢にあまたゝびないたり。
誰に見せ誰に聞せん山里の此曉もおちかへるねも
此つごもりの日。谷のかたなる木の上に郭公かしがましくないたり。
宮古には待らんものを時鳥けふひねもすに啼暮す哉
などのみながめつゝ。もろともにある人。ただいま京にもきゝたらん人あらんや。かくてながむらんと思おこする人あらんやなどいひて。
山深く誰か思ひはおこすへき月見る人はおほからめとも
といへば。
深き夜に月みのおりはしらねとも先山里そ思ひやらるゝ
あかつきに成やしぬらんと思ふほどに。山の方より人あまたくる音す。おどろきて見やりたれば。しかのえんのもとまできてうちないたる。ちかうてはなつかしからぬものゝ聲也。
秋の夜の妻こひかぬる鹿のねは遠山にこそ聞へかりけれ
しりたる人のちかきほどにきて歸リぬときくに。
またひとめしらぬ山邊の松風もおとしてかへる物と社きけ
八月に成て。廿餘日のあかつきがたの月いみじくあはれに。山の方はこぐらく。瀧の昔ども似る物なくのみながめられて。
思ひしる人にみせはや山里の秋のよふかき在明の月
京に歸出るに。わたりし時は水ばかりみえし田どもゝみなかりはてけり。
苗代の水かけはかりみえし田の苅はつる迄なかゐしにけり
十月つごもりがたに。あからさまにきて見れば。こぐらうしげれりし木の葉ども殘なく散みだれて。いみじく哀げにみえわたりて。心地よげにさゞらぎながれし水も。木の葉にうづもれてあとばかり見ゆ。
水さへにすみたえにけり木葉散あらしの山の心ほそさに
そこなる尼に。春まで命あらばかならずこむ。花ざかりはまちつけよなどいひてかへりにしを。年歸りて三月十餘日になるまでおともせねば。
契をきし花の盛をつけぬ哉春やまたこぬ花や匂はぬ
たびなる所にきて。月の頃。たけのもとちかくて。風の昔にめのみさめて。うちとけてねられぬ頃。
竹の葉のそよく夜每にねさめして何ともなきに物そ悲しき
秋のころそこを立てほかへうつろひて。そのあるじに。
いつことも露の哀はわかれしをあさちか原の秋そ戀しき
まゝ母成し人。くだりし國のなをみやにもいはるゝに。こと人かよはして後もなを其名をいはると聞て。おやの今はあいなきよしいひにやらんと有に。
あさくらや今は雲井に聞物を猶きのまろか名のりをはする
かやうにそこはかとなき事を思ひつゞく」(底本三八七頁上段一四行)わかれ〳〵しつゝまかでしを。おもひいでければ。
月もなく花もみさりし冬の夜の心にしみて戀しきやなそ
われもさおもふ事なるを。おなじ心なるもおかしうて。
さえし夜の氷は袖にまたとけて冬の夜なからねを社はなけ
御前にふしてきけば。池の鳥どもの夜もすがら。こゑ〴〵はぶきさはぐ音のするにめもさめて。
わかことそ水の浮ねにあかしつゝ上毛の霜を拂ひわふなる
とひとりごちたるを。かたはらにふしたまへる人きゝつけて。
まして思へ水のかりねの程たにそうは毛の霜を拂ひ侘ける
かたらふ人どち。つぼねのへだてなるやりどをあけあはせて。物語などしくらす日。又かたらふ人のうへにものしたまふをたび〳〵よびおろすに。せちにことあらばいかむとあるに。かれたるすゝきのあるにつけて。
冬枯のしのゝを薄袖たゆみまねきもよせし風にまかせん
上達部殿上人などに對面する人はさだまりたるやうなれば。うゐ〳〵しきさと人はありなしをだにしらるべきにもあらぬに。十月ついたちごろのいとくらき夜。ふだん經にこゑよき人々よむほどなりとて。そなたちかきとぐちにふたりばかりたち出て聞つゝ物がたりしてよりふしてあるに。まいりたる人のあるを。にげ入てつぼねなる人々よびあげなどせんもみぐるし。さはれたゞおりからこそかくてだにといふ今ひとりのあれば。かたはらにてききゐたるに。おとなしくしづやかなるけはひにて物などいふ。くちおしからざなり。いまひとりはなどとひて。世のつねのうちつけのけさうびてなどもいひなさず。世中のあはれ成ことどもなどこまやかにいひ出て。さすがにきびしうひきいるかたはふし〴〵有て。我も人もこたへなどするを。まだしらぬ人のありけるなどめづらしがりて。とみにたつべくもあらぬほどほしのひかりだに見えずくらきに。うち時雨つゝ木の葉にかゝるおとのおかしきを。中々にえんにおかしき夜かな。月の隈なくあかからんも。はしたなくまばゆかりぬべかりけり。春秋の事などいひて。時にしたがひ見ることには。春がすみおもしろく。空も長閑にかすみ。月のおもてもいとあかうもあらず。とをうながるゝやうにみえたるに。琵琶のふがうてうゆるらかにひきならしたるいといみじく聞ゆるに。また秋に成て。月いみじうあかきに空は霧わたりたれど。手にとるばかりさやかにすみわたりたるに。風の音。蟲のこゑ。とりあつめたる心ちするに。箏のことかきならされたる。ひやうじやうのふきすまされたるは。何の春とおぼゆかし。又さかとおもへば。冬の夜の空さへさえわたりいみじきに。雪の降つもりひかりあひたるに。ひちりきのわなゝきいでたるは。春秋もみなわすれぬかしといひつゞけて。いづれにか御心とどまるととふに。秋の夜に心をよせてこたへ給を。さのみおなじさまにはいはじとて。
あさ綠花もひとつにかすみつゝおほろにみゆる春の夜の月
とこたへたれば。返す〴〵うちずんじて。さは秋の夜はおぼしすてつるなゝりな。
今宵より後の命のもしもあらはさは春の夜を形見と思はん
といふに。秋にこゝろよせたる人。
人はみな春に心なよせつめりわれのみやみん秋の夜の月
とあるに。いみじうけうじおもひわづらひけるけしきにて。もろこしなどにもむかしより春秋のさだめはえし侍らざなるを。このかうおぼしわかせ給ひけん御心ども。おもふにゆへ侍らんかし。わが心のなびき。そのおりのあはれともおかしともおもふ事の有時。やがてその折の空のけしきも月も花も。心にそめらるゝにこそあべかめれ。春秋をしらせたまひけんことのふしなむいみじううけたまはらまほしき。ふゆの夜の月はむかしよりすさまじきもののためしにひかれて侍けるに。またいとさむくなどして。ことにみられざりしを。齋宮の御もぎのちよくしにてくだりしに。あかつきにのぼらむとて。ひごろ降つみたる雪に月のいとあかきに。旅の空とさへおもへば心ぼそくおぼゆるに。まかり申にまいりたれば。よの所にもにず。おもひなしさへけおそろしきに。さべきところにめして。圓融院の御世よりまいりたりける人のいといみじく神さびふるめいたるけはひのいとよしふかく。昔・ふるごともいひいで。うちなきなどして。ようしらべたるびはの御ことをさしいでられたりしは。この世のことともおぼへず。夜のあけなんもおしう。京のことも思ひたえぬばかりおぼえ侍しよりなむ。冬の夜の雪ふれるよは思ひしられて。火をけなどをいだきても。かならずいでゐてなんみられ侍る。おまへたちもかならずさおぼすゆへ侍るむかし。さらば今宵よりはくらきやみのよのしぐれうちせんは。又心にしみ侍なんかし。齋宮の雪のよにおとるべき心ちもせずなどいひて。わかれにしのちは誰としられじとおもふしを。又の年の八月に內へいらせ給に。夜もすがら殿上にて御あそびありけるに。この人のさぶらひけるもしらず。そのよはしもにあかして。ほそ殿のやりどをおしあけてみいだしたれば。あかつきがたの月のあるかなきかにおかしきを見るに。くつのこゑきこえて。ど經などする人も有。ど經の人はこのやりどぐちに立とまりて。ものなどいふにこたへ。これはふとおもひ出て。時雨のよこそかた時わすれずこひしく侍れと云に。ことながうこふべきほどならねば。
何さまて思ひ出けん等閑の木の葉にかけし時雨はかりを
ともいひやらぬを。人々又きあへば。やがてすべりいりて。そのよさりまかでにしかば。もろともなりし人尋てかへししたりしなども後にぞきく。ありししぐれのやうならんに。いかでびはのねのおぼゆるかぎりひきてきかせんとなんあるときくにゆかしくて。我もさるべき折をまつにさらになし。はるごろのどやかなるゆふつかた。まいりたなりときゝて。その夜もろともなりし人といざりいづるに。とに人々參り。うちにもれいのひと〴〵あれば。いでさいていりぬ。あの人もさや思ひけん。しめやかなる夕暮をおしはかりて參りたりけるに。さはがしかりければ。まかづめり。
かしまみてなるとの浦にこかれ出る心はえきや磯のあま人
とばかりにてやみにけり。あの人がらもいとすくよかに。世のつねならぬ人にて。その人はかの人はなどもたづねとはで過ぬ。いまはむかしのよしなし心もくやしかりけりとのみ思ひしりはて。おやのものへゐてまいりなどせでやみにしも。もてかしく思ひいでらるれば。今はひとへにゆたかなるいきほひになりて。ふたばの人をもおもふさまにかしづきおほしたて。わが身もみくらの山につみあまるばかりにて。後の世までの事をもおもはんと思ひはげみて。霜月の廿よ日いしやまにまいる。雪うち降つゝみちのほどさへおかしきに。あふ坂の關を見るにも。むかし越しも冬ぞかしと思ひいでらるゝに。そのほどしもいとあらうふいたり。
あふ坂の關の山風吹聲は昔聞しにかはらさりけり
關寺のいかめしうつくられたるをみるにも。その折あらづくりの御かほばかりみられし折思出られて。年月の過にけるもいとあはれなり。打出の濱のほどなど。見しにもかはらず。暮かゝるほどにまうでつき。ゆやにおりてみだうにのぼるに人聲もせす。山風おそろしうおぼえて。おこなひさして打まどろみたる夢に。中堂より御かう給はりぬ。とくかしこへつげよといふ人あるに。うちおどろきたれば。夢なりけりと思ふに。よきことならんかしと思ひておこなひあかす。またの日もいみじく雪降あれて。宮にかたらひ聞ゆる人のぐし給へると物がたりして。心ぼそさをなぐさむ。三日さぶらひてまかでぬ。そのかへる年の十月廿五日大嘗會御禊とのゝしるに。はつせの精進はじめて。その日京を出るに。さるべき人々一代に一度の見物にて。ゐ中せかいの人だにみるものを。月日おほかり。その日しも京をふり出ていかむと。いとことのくるおしく。ながれての物語ともなりぬべき事やなど。はらからなる人はいひはらたてど。ちごどものおやなる人は。いかにも〳〵心にこそあらめとて。いふに思たがひていだしたつ・心ばへも哀なり。ともにゆく人々もいといみじく物ゆかしげなるはいとおしけれど。ものみて何にかはせん。かゝる折にまうでん心ざしを。さりともおぼしなん。かならず佛の御しるしを見んと思ひ立て。その曉京をいづるに。二條のおほぢををしわたりていくに。さきにみあかしもたせ。ともの人々上ゑすがたなるを。そこらさじきどもにうつるとて。いきちがふ馬も車もかち人も。あれはなぞことやすからずいひおどろき。あざみわらひあざけるものどももあり。良賴の兵衞のかみと申し人の家のまへをすぐれば。それさじきへわたり給なるべし。門ひろうをしあけて。ひと〴〵たてるが。あれは物まうで人なめりな。月日しもこそ世におほかれとわらふなかに。いかなる心ある人にか。一時がめをこやしてなににかはせん。いみじくおぼしたちて。佛の御とくかならずみ給べき人にこそあめれ。よしなしかし。物見でかうこそ思ひたつべかりけれと。まめやかにいふ人ひとりぞある。みちけんぞうならぬ御きにと。夜ふかう出しかば。立をくれたる人々もまち。いとおそろしう深き霧をもすこしはるけんとて。法性寺の大門にたちとまりたるに。ゐなかよりものみにのぼるものども・。水のながるゝやうにぞみゆるや。すべて道もさりあへず。物の心しりげもなきあやしのわらはべまで。ひきよぎて行過るを。車をおどろきあざみたることかぎりなし。是等をみるに。げにいかに出たちし道なりともおぼゆれど。ひたぶるにほとけをねんじ奉りて。うぢの渡りにいきつきぬ。そこにも猶しもこなたざまにわたりするものども立こみたれば。船のかぢとりたるおのこども。舟をまつ人のかずしらぬに心おごりしたるけしきにて。袖をかひまくりて。かほにあてゝ。さほにおしかゝりて。とみに舟もよせず。うそぶいてみまはし。いといみじうすみたるさま也。むごにえわたらでつく〴〵とみるに。むらさきのものがたりにうぢの宮のむすめどもの事あるを。いかなる所なれば。そこにしもすませたるならむとゆかしく思ひし所ぞかし。げにおかしき所哉と思ひつゝ。からうじて渡りて。殿のさぶらう所のうぢ殿をいりて見るにも。うき舟の女ぎみのかゝる所にや有けんなどまづ思ひ出らる。夜ふかく出しかば。人々こうじて。やひろうちと云ところにとゞまりてものくひなどするほどにしもともなるものども。かうみやうのくりこま山にはあらずや。日もくれがたになりぬめり。ぬしたちてうどとりおはさうぜよやといふをいと物おそろしうきく。その山越はてゝ。にへのの池のほとりへいきつきたるほど日は山の端にかゝりにたり。今はやどとれとて。人々あかれてやどもとむる所。はしたにて。いとあやしげなる下すのこいへなんあるといふに。いかゞはせんとてそこにやどりぬ。みな人々京にまかりぬとて。あやしのおのこふたりぞゐたる。その夜もいもねず。此おのこいでいりしありくを。おくの方なる女ども。などかくしありかるゝぞととふなれば。いなや。心もしらぬ人をやどしたてまつりて。かまはしもひきぬかれなば。いかにすべきぞとおもひて。えねでまはりありくぞかしと。ねたると思ひていふ。きくにいとむく〳〵しくおかし。つとめてそこをたちて。東大寺によりておがみ奉つる。いそのかみもまことにふりにける事おもひやられて。むげにあれはてにけり。そのよ山のべといふ所の寺にやどりて。いとくるしけれど。經すこしよみ奉りて打やすみたる夢に。いみじくやむごとなくきよらなる女のおはするに。まいりたれば風いみじうふく。みつけてうちゑみて。なにしにおはしつるぞととひ給へば。いかでかはまいらざらんと申せば。そこはうちにこそあらんとすれ。はかせの命婦をこそよくかたはらめとのたまふと思ひて。うれしく賴もしくて。いよ〳〵ねんじたてまつりて。初瀨川などうち過て。その夜みてらにまうでつきぬ。はらへなどしてのぼる。三日さぶらひて。あかつきにまかでむとてうちねぶりたるによさりみだうの方より。すはいなりよりたまはるしるしのすぎよとて。物をなげいづるやうにするに。うちおどろきたれば夢なりけり。曉よふかく出て。えとまらねば。ならざかのこなたなる家をたづねてやどりぬ。是もいみじげなるこいへなり。爰はけしきある所なめり。ゆかいぬな。れうかいのことあらんに。あなかしこ。をびえさはがせ給な。いきもせでふさせ玉へと云をきくにも。いといみじうわびしくおそろしうて。夜をあかすほど。ちとせをすぐす心ちす。からうじて明たつほどに。すれはぬす人の家也。あるじの女けしきあることをしてなむありけるといふ。いみじう風の吹日。宇治のわたりをするに。あじろいとちかう漕よりたり。
音にのみきゝ渡りこし宇治川の網代の浪も今日そかそふる
二三年四五年へだてたることを。しだいもなくかきつゞくれば。やがてつゞきだちたるす行者めきたれど。さにはあらず。年月へだたれる事也。春ごろくらまにこもりたり。山ぎは霞わたりのどやかなるに。山のかたよりわづかにところなどほりもてくるもおかし。いづる道は花もみなちりはてにければ。なにともなきを。十月ばかりにまうづるに。道のほど山のけしき。此頃はいみじうぞまさる物なりける。山のはにしきをひろげたるやうなり。たぎりてながれ行水。すいしやうをちらすやうにわきかへるなど。いづれにもすぐれたり。まうでつきて。そうぼうにいきつきたるほど。かきしぐれたる紅葉のたぐひなくぞみゆるや。
おく山の紅葉のにしき外よりもいかに時雨て深くそめけむ
とぞみやらるゝ。二年ばかりありて。又石山にこもりたれば。夜もすがらあめぞいみじくふる。たびゐは雨いとむづかしきものときゝて。しとみをしあげてみれば。在明の月の。たにのそこさへ曇りなくすみわたり。雨と聞えつるは。木のねより水のながるゝ音なり。
谷川のなかれは雨と聞ゆれとほかよりけなる在明の月
また初瀨にまうづれば。はじめにこよなくものたのもし。處々にまうけなどして。いきもやらず。山城の國はゝその杜などに。紅葉いとおかしきほどなり。初瀨川わたるに。
初瀨川立歸りつゝ尋ぬれは杉のしるしもこのたひやみむ
とおもふもいとたのもし。三日さぶらひてまかでぬれば。れいのならざかのこなたに。小家なとに。このたびはいとるいひろければ。えやどるまじうて。野中にかりそめにいほつくりてすへたれば。人はたゞ野にゐて夜をあかす。草のうへにむかばきなどを打しきて。うへにむしろをしきて。いとはかなくて夜をあかす。かしらもしとゞに露をく。曉がたの月。いといみじくすみわたりて。よにしらずおかし。
行衞なき旅の空にもをくれぬは都にてみし有明の月
なに事も心にかなはぬ事もなきまゝに。かやうにたちはなれたる物まうでをしても。道のほどをおかしともくるしともみるに。をのづから心もなぐさめ。さりともたのもしう。さしあたりて。なげかしなどおぼゆることどもないまゝに。たゞおさなき人々をいつしか思さまにしたてゝ見んとおもふに。年月の過行を心もとなく。たのむ人だに。ひとのやうなるよろこびしてはとのみ思ひわたす心ちたのもしかし。いにしへいみじうかたらひ。よるひる歌などよみかはしゝ人のあり〳〵ても。いとむかしのやうにこそあらね。たえずいひわたる・越前守のよめにてくだりしが。かきたえをともせぬに。からうじてたよりたづねて。これより。
たえさりし思ひも今はたえにけりこしの渡の雪のふかさに
といひたる返ごとに。
白山の雪の下なるさゝれ石の中の思ひは消んものかは
やよひのつゐたち頃に。西山のおくなる所にいきたる。人目もみえずのど〳〵と霞わたりたるに。哀に心ぼそく花ばかり吹みだれたり。
里遠みあまり奧なる山ちには花みにとても人こさりけり
世中むづかしうおぼゆるころ。うづまさにこもりたるに。宮にかたらひ聞ゆる人の御もとよりふみある。返ごとと聞ゆるほどに。鐘の音の聞ゆれば。
しけかりし浮世のこともわすられす入相の鐘の心ほそさに
とかきてやりつ。うら〳〵と長閑なる宮にて。おなじ心なる人三人ばかり。物語などしてまかでて。又の日つれ〴〵なるまゝに。戀しうおもひ出らるれば。ふたりの中に。
袖ぬるゝあら磯浪としりなから共にかつきをせしそ戀しき
ときこえたれば。
あら磯はあされと何のかひなくてうしほにぬるゝ蜑の袖哉
いま一人。
みるめおふる浦にあらすは荒磯の浪ま數ふる蜑もあらしを
おなじ心にかやうにいひかはし。世中のうきもつらきもおかしきも。かたみにいひかたらふ人。ちくぜんにくだりて後。月のいみじうあかきに。かやう成し夜。宮にまいりて。あひてはつゆまどろまず。ながめあかいしものを。こひしく思ひつゝねいりにけり。宮にまいりあひて。うつゝにありしやうにて有とみて。打おどろきたれば夢成けり。月も山のはちかうなりにけり。さめざらましをといとゞながめられて。
夢さめてねさめの床のうくはかりこひきとつけよ西へ行月
さるべきやう有て。秋頃和泉にくだるに。よどといふよりして。道のほどのおかしうあはれなる事いひつくすべうもあらす。たかはまといふ處にとゞまりたるよ。いとくらきに。夜いたうふけて。舟のかぢのおと聞ゆ。とふなれば遊びのきたるなりけり。人々けうじて。舟にさしつけさせたり。遠き火のひかりに。ひとへのそでながやかに。あふぎさしかくして歌うたひたる。いとあはれに見ゆ。又の日。山の端に日のかるほど。すみよしの浦をすぐ。そらもひとつに霧わたれる松のこずゑも海のおもても。なみのよせくるなぎさのほども。ゑにかきてもおよぶべきかたなうおもしろし。
いかにいひ何にたとへてかたらまし秋のゆふへの住吉の浦
と見つゝ。つなで引すぐるほど。かへりみのみせられてあかずおぼゆ。冬になりてのぼるに。おほえと云うらに舟にのりたるに。その夜雨風いはもうごくばかりふりふゞきて。神さへなりてとゞろくに。浪の立くるをとなひ。風の吹まどひたるさま。おそろしげなること。いのちかぎりつと思ひまどはる。をかのうへに舟をひきあげて夜をあかす。雨はやみたれど。風なをふきて船いださず。ゆくゑもなきをかのうへに五六日をすぐす。からうじて風いさゝかやみたるほど。舟のすだれまきあげて見渡せば。夕しほたゞみちにみちくるさま。とりもあへず。入江の田鶴の聲おしまぬもおかしくみゆ。くにの人々あつまりきて。その夜この浦をいでさせたまひて。いし津につかせ給へらましかば。やがて此御舟なごりなくなりなましなどいふ。心ぼそうきこゆ。
あるゝ海に風より先に船出していし津の波と消なましかは
世中にとにかくに心のみつくすに。宮づかへとても。ことはひとすぢにつかうまつりつゞかばや。いかゞあらん。時々立いでばなになるべくもなかめり。としはやくはた過行に。わかわかしきやうなるもつきなうおぼえなげかるるうちに。身のやまひいとおもくなりて。心にまかせて物まうでなどせし事もえせずなりたればわくらはの立出もたえて。ながらふべき心ちもせぬまゝに。おさなき人々を。いかにもいかにも,わがあらん世にみをく事もがなと。ふしおき思ひなげきたのむ人のよろこびのほどを心もとなくまちなげかるゝに。秋に成て待いでたるやうなれど。おもひしにはあらず。いとほいなくくちおし。おやのおりより立歸つゝみしあづまぢよりはちかきやうに聞ゆれば。いかゞはせんにて。ほどもなくくだるべき事共いそぐに。かどでは。むすめなる人のあたらしくわたりたる所に。八月十よ日にす。のちのことはしらず。そのほどのありさまは。物さはがしきまでひとおほくいきほひたり。廿七日にくだるに。おとこなるはそひてくだる。紅のうちたるに。荻のあを。しをんのおりもののさしぬききて。たちはきて。しりにたちてあゆみいづるを。それもをり物のあを。にびいろのさしぬきかりぎぬきて。らうのほどにて馬にのりぬ。のゝしりみちてくだりぬる後。こよなうつれ〴〵なれど。いといたうとをきほどならずときけば。さき〴〵のやうに心ぼそくなどは。おぼえであるに。おくりのひと〴〵又の日かへりて。いみじうきら〳〵しうてくだりぬなどいひて。此曉にいみじくおほきなる人だまのたちて。京ざまへなむきぬるとかたれど。ともの人などのにこそはと思ひ。ゆゝしきさまにおもひだによらむやは。いまはいかで此わかき人々おとなびさせんと思ふよりほかの事なきに。歸る年の四月にのぼりきて。夏秋も過ぬ。九月廿五日よりわづらひいでて。十月五日に夢のやうにみないておもふ心ち世中に又たぐひある事ともおぼえず。はつせにかがみ奉りしに。ふしまろびなきたるかげの見えけんは。是にこそは有けれ。うれしげなりけんかげはきしかたもなかりき。今行末はあべいやうもなし。廿三日はかなくも煙になす夜。去年の秋いみじくしたてかしづかれて。うちそひてくだりしをみやりしを。いと黑ききぬのうへにゆゝしげなる物をきて。車のともになく〳〵あゆみ出て行をみいだして思ひいづるこゝち。すべてたとへむかたなきまゝに。やがて夢路にまどひてぞ思ふに。その人やみにけんかし。むかしよりよしなきもの語。うたの事をのみ心にしめて。よるひる思ひて。おこなひをせましかば。いとかゝる夢の世をばみずもやあらまし。はつせにてまへのたびは。いなりよりたまふしるしの杉よとてなげ出られしをいでしまゝに。いなりにまうでたらましかば。かゝらずやあらまし。年ごろ天照御神をねんじ奉つれとみゆる夢は。人の御めのとして內わたりにあり。みかどきさきの御影にかゝるべきさまをのみゆめときもあはせしかども。その事はひとつかなはでやみぬ。たゞかなしげ也とみし鏡のかげのみたがはぬ。哀に心うし。かうのみ心にもののかなふ方なうてやみぬる人なれば。くどくもつくらずなどしてたゞよふ。さすがにいのちは憂にもたえずながらふめれど。後の世もおもふにかなはずぞあらんかしとぞうしろめたきに。たのむ事ひとつぞ有ける。天喜三年十月十三日の夜の夢に。ゐたる所のやのつまのにはに阿彌陀佛たち玉へり。さだかには見えたまはず。霧ひとへへだたれるやうにすきて見え玉ふを。せめてたえまに見奉つれば。蓮花の座のつちをあがりたるたかさ三四尺。ほとけの御たけ六尺ばかりにて。金色にひかりかゞやき玉ひて。御手かたつかたをばひろげたるやうに。いまかたつかたにはゐんをつくり玉ひたるを。こと人のめにはみつけ奉つらず。我一人見たてまつりて。さすがにいみじくけおそろしければ。すだれのもとちかくよりてもえ見奉つらねば。佛さはこのたびは。歸て後むかへにこんとの給ふ聲。わがみゝひとつにきゝいて。人はえきゝつけずとみるに。うちおどろきたれば。十四日なり。この夢ばかりぞ後のたのみとしけるを。ひともなどひと所にて朝夕見るに。かう哀にかなしきことの後は。所々になりなどして。誰もみゆることかたうあるに。いとくらい夜。六はらにあなるをいのきたるに。めづらしうおぼえて。
月も出てやみにくれたるをはすてに何とて今宵尋きつらん
とぞいはれにける。ねむごろにかたらふ人のかうて後音づれぬに。
今は世にあらし物とや思ふらん哀なく〳〵なをこそはふれ
十月ばかり。月のいみじうあかきをなく〳〵ながめて。
ひまもなき泪に曇る心にもあかしとみゆる月の影哉
年月はすぎかはりゆけど。夢のやうなりしほどを思ひいづれば。心ちもまどひ。めもかきくらすやうなれば。其ほどの事はまたさだかにもおぼえず。人々はみなほかにすみあかれて。古鄕にひとりいみじう心ぼそくかなしくて。ながめあかしわびて。ひさしう音づれぬ人に。
しけり行蓬か露にそほちつゝ人にとはれぬ音をのみそなく
あまなる人也。
世の常の宿のよもきに思ひやれそむきはてたる庭の草むら
ひたちのかみすがはらのたかすゑのむすめの日記也。母倫寧朝臣女。傅のとののはゝうへのめいなり。よはのねざめ。みづのはままつ。みづからくゆる。あさくらなどは。この日記の人のつくられたるとぞ。
長保二年正月廿七日補㆓藏人㆒。〈元春宮藏人右衞門大尉使。〉三年正月廿四日叙爵。寬仁元年正月廿四日任㆓上總介㆒。〈四十五。〉五年正月得替。〈四十九。〉長元五年二月八日任㆓常陸介㆒。七月赴任。正五下。〈六十。〉
治安三年四月廿日昇殿左衞門尉。〈元帶刀長。〉萬壽四年三月三日使宣旨。長元四年十一月廿一日補㆓藏人㆒。五年正月七日叙爵。〈卅一。〉長久二年正月廿五日下野守藏人使巡。〈四十。〉天喜五年七月卅曰任㆓信濃守㆒。〈從五位下。任中。〉康平元年十月五日卒。〈五十七。〉
參議從二位勘解由長官源朝臣資通。〈贈從三位正四位上修理大夫濟政一男。〉
長和五年正月十二日大膳亮。〈祖父大納言二合。〉寬仁四年正月九日藏人。〈十六。〉正月廿四日左衞門尉。治安二年正月卅日式部丞。二月廿九日從五位下。九月廿三日侍從。三年正月十二日藏人。十二月十二日左馬權助。〈依㆓御賀舞人㆒任㆓衞府㆒。〉四年十二月十五日左兵衞佐。萬壽二年正月七日從五位上。〈中宮御給。〉十月廿六日民部少輔。四年正月七日正五位下。〈上東門院御給。〉長元元年二月十九日左小弁。三年十一月五日右中弁。四年三月和泉守。〈藏人巡。〉十一月廿九日從四位下。七年正月七日從四位上。〈行幸上東門院。〉八年十月十六日權左中弁。九年二月廿七日兼右京大夫。十月十四日攝津守。〈止㆓大夫㆒。〉長曆元年八月十一日正四位下。〈岩淸水行幸。〉二年六月廿五日左中弁。三年十二月五日右大弁。長久二年止守。四年九月十九日藏人頭。〈卅九。〉五年正月七日正四位上。寬德元年十二月十四日參議。兼。二年十月左大弁。永承元年十一月從三位。五年九月大貳。〈止㆓大弁㆒。〉十一月十一日正三位。天喜二年讓㆓大貳㆒入洛。五年正月從二位。康平元年正月兼兵部卿。十一月勘解由長官。三年八月十一月依㆑病出家。廿二日薨。〈五十六。〉
萬壽二年十一月廿日〈戊戌〉伊勢齋宮御裝束。織物唐衣一領。五主。白綾裳一腰。織物。紅重袴一具。綾褁入帷等也。予有㆑仰調㆑之奉㆓大內㆒。是來五日着裳給㆑之。仍差㆓藏人左兵衞佐源資通㆒爲㆓勅使㆒。遣㆓件御裝束㆒。兼仰㆓作物所㆒令㆑作㆓花莒一合㆒。入㆓此御裝束㆒。又令㆑作㆓銀小莒一合㆒。入㆓合燒物㆒副㆓御裝束使㆒。明日進發。
十二月三日。差㆓藏人㆒令㆑取㆓初雪見參㆒。給㆑祿。
長保二年十一月。
來七日伊勢齋王着裳。〈年十七。〉左兵衞佐能通爲㆓勅使㆒參㆓齊宮㆒。奉遣御裝束使也。明日憲定賴定朝臣又參㆓齋宮㆒。中將來借㆓‐取厩馬雑具等㆒。
長久三年六月廿三日。藏人少將隆俊爲㆓勅使㆒參㆓齋宮御着裳㆒。先朝之御時。右大弁資通爲㆓兵衞佐㆒時爲㆓勅使㆒參㆓彼宮㆒云々。
先年傳㆓‐得此草子㆒。件本爲㆑人被㆓借失㆒。仍以㆓件本書寫人本㆒更寫㆑之。傳々之間。字誤甚多。不審事等付㆑朱。若得㆓證本㆒者可㆑見㆓合之㆒。爲㆓見合㆒時代。勘㆓‐付舊記等㆒。
右さらしなの日記以古本書寫以屋代弘賢藏本及扶桑拾葉集挍合畢
[以玉井氏校訂本補挍畢]