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刑事事件において、無罪の判決が確定したというだけで直ちに検察官の公訴の提起及び追行が国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為となるものではなく、公訴の提起及び追行時の検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、右提起及び追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが当裁判所の判例(最高裁昭和四九年(オ)第四一九号同五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁)であるところ、この理は、上告審で確定した有罪判決が再審で取り消され、無罪判決が確定した場合においても異ならないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の下においては、検察官が上告人那須隆に対する殺人の公訴事実につき有罪の嫌疑があるとして本件公訴の提起をし、その追行をしたことについて、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものと認めることができない。したがって、被上告人の同法一条一項に基づく責任を否定した原判決は、その説示において必ずしも適切でないところがあるが、これを是認することができる。論旨は、採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す