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二の一、二及び第三について
裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるものではなく、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合にはじめて右責任が肯定されると解するのが当裁判所の判例(最高裁昭和五三年(オ)第六九号同五七年三月一二日第二小法廷判決・民集三六巻三号三二九頁、昭和五五年(オ)第七九二号同五七年三月一八日第一小法廷判決・裁判集民事一三五号四〇五頁)であるところ、この理は、刑事事件において、上告審で確定した有罪判決が再審で取り消され、無罪判決が確定した場合においても異ならないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の下においては、刑事第二審裁判所が上告人那須隆に対する殺人の公訴事実につき有罪の判決をし、同事件の上告審裁判所がこれを維持した点について国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものと認めることができない。したがって、被上告人の同法一条一項に基づく責任を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。所論は、違憲をも主張するが、その実質は単なる法令違背の主張にすぎず、原判決に右違法のないことは前示のとおりである。また、所論引用の判例は、前記判断と異なる解釈をとるものではない。論旨は、独自の見解をもって原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第二の三ないし五及び第三について