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太宰府
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太宰府

太宰府といへば、九州の政治や大陸との外交をつかさどる重要な役所であり、いざといふ場合には、敵を防ぐ第一線でもありました。しかし、このころでは、久しく太平が續き、從つて前ほどの威勢もありません。それに道眞は、ほんの名ばかりの役目で、ここへうつされたのです。はたらきのある道眞にとつえ、十分な奉公のできないのは、どれほどさびしいことだつたでせう。道眞は、每日一室に閉ぢこもつたまま、ただ天皇のおん事ばかり、心におしのび申しあげてゐました。

都の思ひ出
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都の思ひ出

太宰府の秋もふけて、すすきの穗がゆらぐ道眞の住居すまゐにも、菊の節供せつくがおとづれて來ました。ちやうど一年前の今日、道眞は、菊見の御宴ぎよえんに詩をたてまつり、おほめにあづかつて、御衣ぎよいをたまはつたのでした。これを思ふにつけても、今さらのやうに、君恩くんおんのかたじけなさが、ひしひしと身にせまつて、淚がとめどなく流れました。うやうやしく恩賜おんしの御衣をささげ、眞心を詩にのべて、しばし都の思ひ出にふけりました。

大宰府に三年ばかりゐた道眞