國々からは、勇ましい將兵や多くの軍船が、お召しに應じて、次次に松浦(まつら)の港へ集つて來ます。まことに、細戈千足(くはしほこちたる)の國の力づよさを思はせる光景であります。皇后は、うやうやしく、神々に戰勝をお祈りになり、將兵は、決死の覺悟をちかひました。折からの追風を帆にはらんで、軍船は矢のやうに、海面をすべつて行きました。
おどろきあわてたのは、新羅王です。「音にきく日本の船、神國のつはものにちがひない。」と思つて、王はすぐさま皇后をお出迎へ申しあげ、二心(ふたごころ)のないしるしに、每年かならずみつぎ物をたてまつることを、堅くちかひました。勢こんだ將兵の中には、王を斬らうとするものもありましたが、皇后は、それをとめて降伏(かうふく)をお許しになり、王が眞心こめてたてまつつた金・銀・綾(あや)・錦を、八十艘(さう)の船に積んで、勇ましくめでたくお歸りになりました。