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附錄

量とは增減し得べき者なりといふ通俗の解釋は,量を數學的觀念となすには餘に粗笨なり.(一)に於て凡そ人の感覺に其度を異にする印象を與へ得べき者を量なりといへる亦然り.美醜,苦痛,快樂,問題の難易,說明の巧拙等は數學に所謂量となすこと難し.要するに數學に於て量と稱するものは(二)に述べたる諸性質を具へたる者に限れり.

又こゝに量と稱するは連續的の量に限れり.此故に物の數などは之を量の圈外に排斥せり.

又量の大小加合等は本來一定の意義を有するにあらず.(二)の諸原則に牴觸せざる範圍內に於て如何やうにも之を定めて可なり.(二)にいへる如くにして加合といふことの成され得べきことは必要なり.然れどもそは幾通りにもなされ得べきか知るべからず.例へば二つの長さの和をば之をつぎ足せる長さとなすは通常の意義なり.然れども又甲の長さの一端に乙の長さを直角に立てゝ作れる直角三角形の弦を以て甲乙の和なりといふとも,よく(二)の諸原則に適ふべし.此意義にて なる數値を有する長さは,通常の意義にて なる數値を有する長さなり.量の數値は單位と共に定まるとは計り方の定まれる上のことなり.實は量の數値は計り方と單位とにて定まるなり.

八(二) アルキメデス(Archimedes)紀元前三世紀シラキユースの人,古代にて最有名なる理學者.

八(三) 「有理區域」の語は亦假設なり.著者は他の處にて此語を他の意義に,卽 Rationalitätsbereich の和譯として用ゐたり.こゝに所謂「有理區域」は其意義之と異なり.該當の語外國にもなきが如し.Commensurabilitätsbereich,domain of commensurability ともいふべき語を造らば便利なるべし.「公度ある區域」又不可なし.

八(七) ユークリツドの比例論は量の論(Grössenlehre)の基礎なりといふべし.其內容は必しも幾何學に專屬せず.長さを以て抽象的の量の一種の表顯と考ふることを得ればなり.