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(一)
算法の擴張及其形式上不易

を擴張するの動因となし得べきを示す,此見地は亦近世數學に於て重要なる地步を占むるものにして,ハンケルは之を算法の形式上不易と名づけたり.

然れども算法の形式上不易の原則を礎として數の範圍を擴張せんとするときは,其擴張の區域に自ら制限あることを忘るべからず.自然數より有理數に到達するは此原則を適用すべき最自然的なる場合なり.又此法則を出來得べき限り利用し盡して所謂「代數的の數」に到達することを得れども,一般の無理數の觀念を定めんと欲せば,旣に此原則以外に或立脚點を求むるの必要に遭遇すべし.そは兎も角もあれ,吾人は今此學說の梗槪を迅速に通觀せんと欲す.

此章に於ける硏究は分析的なり,新なる知識を獲るを主眼とせずして,旣知の事實を新見地より觀察せんとするなり.則ち自然數の觀念は旣に定まれりとなせども,負數及分數は,論理の表面上,吾人の未だ知らざる所の者と見做し,さて新しき方法によりて自然數の觀念より分數及負數のそれを導き出さんと