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の乏しかつた当時とはいえ“犯人”が血痕の付いたシヤツを処分せずに置いたこととなる不自然さなどに思いを致したのか、併せて、誤つた起訴をすれば真犯人を逸する結果になることを十分考慮しつつ、起訴に踏み切るまでの間それなりに相当の苦心と吟味をしたことが窺われる。

四 前段で検討したところからすると、検察官において、本件白シヤツの押収後捜査官がこれに血痕を付着させたことを知りながら、違法又は不当な目的をもつて起訴及び訴訟追行をしたなど、検察官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認めうるような特別の事情があるということは困難である。一方、本件白靴については、これに人血が付着していたか否かの真偽、この点の積極証拠が証拠として十全なものかどうか、及びこのことについての検察官の知不知は、本件白シヤツ及びこれに付着していた血痕の鑑定結果と対比しての証拠としての重要性に鑑みれば、右特別事情の存在推認に結びつく事情に当たらないのは明らかであり、一審原告らの前記主張要旨部分以外のその余の主張にもこれに該当するものはない。
  したがつて、また、原二審及び上告審の各裁判官に前記特別の事情があつたとなしえないのは当然の帰結である。
  そして、原二審判決挙示の証拠その他本件国家賠償請求訴訟に顕われた原一、二審当時の証拠資料を総合勘案して合理的に判断すれば、担当検察官が前記殺人の公訴事実につき有罪の嫌疑ありとした判断はこれを是認することができる。
  また、原二審判決挙示の証拠及びその説示によれば、原二審が本件殺人の点につき有罪としたことは、当時の判断としては是認しえないわけではない。したがつて、上告審の判断が正当であることはいうまでもな