Page:Second civil judgement of Hirosaki incident.pdf/15

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  ところで、右の考察は引田鑑定人の見分を基準としているのであるが、甲第一八号証を見るに、同人は原一審において証人尋問を受けた際、最初は本件白シヤツの鑑定をしたと証言し、その後許可をえて鑑定書の控を見てからは、海軍シヤツ(本件白シヤツを指す)は一旦受取つたが警察の人がこれを持ち帰つたため鑑定はしていないと証言を変更するなど、記憶そのものに混乱が見られるので(引用にかかる前認定のとおり、本件白シヤツだけでなく全二一点が一括して持帰られたのである)、その色調についての証言部分に他に優越する価値を認めるのは相当でないと考える。のみならず、乙第三〇一号証中の原一審第一回公判調書に明らかなとおり、本件白シヤツは同公判期日の昭和二四年一〇月三一日裁判所に領置され、検察官の手を離れているのである。仮に、何者かが血痕を付着させたとすると、その血液の出処が問題となるが、乙第三〇九号証中の弁護人三上直吉の弁論要旨三枚目裏によれば、原一審の弁護人は被害者の夫が後日のために保存していたのではないかとの推測をしている。しかし、同人が大学医学部の教授であることを考慮すれば血液保存は可能であるにしても、そのような人為的付着に加担したのであるとすれば、妻の敵かどうか必ずしも明確でない者を犯人に仕立上げることに手を貸したわけであり、その結果本当の敵である他にいるかも知れない真犯人を逃すことになりかねないのであるから、およそ考え難いことである。まして、本件白シヤツが裁判所に領置され古畑鑑定に付されるまでの約八ヵ月の間に、右「保存血液」を付着させることなど、殆ど不可能事に属する。したがつて、再審判決の前記指摘は必ずしも当をえたものではないといわなければならず、他に本件白シヤツに故意に血痕が付けられたとの事実を推認するに足りる証拠なり情況はない。乙第三〇九号証冒頭の論告要旨を見れば、原一審担当の沖中検事も、いかに物資