Page:Second civil judgement of Hirosaki incident.pdf/12

提供:Wikisource
このページは校正済みです

方をすべきでないのは右五三年判例自体によつても明らかであるが、裁判官が受動的審判者であるのに対して、検察官は捜査及び公訴の提起追行、本件に即していうと、その一部としての証拠の収集と提出につき強力な権限と広範な裁量権を付与されている能動的当事者であること及び公序良俗に反する民事訴訟の提起が不当訴訟として不法行為類型の中に入れられていることに鑑みれば、当然に裁判官の場合と同内容の理解をなしうるとするのは速断の誹りを免れないというべきである。

  ところで、本件のように再審でいわゆる逆転無罪判決があつたにしても一旦は有罪判決が確定していた場合には、この有罪の確定判決があつたのは起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証、すなわち有罪の嫌疑がそれぞれの時点における相手方当事者の批判に耐え、且つ各種の証拠資料を総合勘案した裁判所の合理的な判断により是認された結果であるから、右の嫌疑が根拠のないものではなかつたとの推定が働くということができる。再審無罪判決により右嫌疑が誤りであつたということになつても、検察官の証拠評価や判断上の過誤は本来審級制度を含む当該刑事事件そのものの場で是正されるべきであり、且つそれで足りるとすべきものであつて、資格のある弁護人が選任されていてなおかつ是正できなかつた以上、国家賠償法上は止むをえないこととしなければならない。このように考えるべきであるから、同法上の違法性判断の質的面では、検察官についても裁判官の場合と実質的な差はなく、検察官の行為につき国の同法上の責任が肯定されるためには、当該検察官が違法又は不当な目的の下に捜査及び公訴の提起追行をしたなど、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認められるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。