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められる。⑷本件発生以後被告人の友人に接する態度に変化が現われ、犯人でなければ判らないようなことをよく知つており、また和術を心得紙一枚で証拠を残さず人を殺すことができると友人に話している。⑸被告人のアリバイに関し被告人自身およびその家族の供述は全く支離滅裂である。⑹本件発生後満一か月目の昭和二四年九月六日被告人は巡査部長〔丙2〕に対し悲愴な顔をして今晩だけは何も聞いてくれるなといつている。以上のように直接証拠、状況証拠が揃つており、本件が被告人の犯行であることは証拠上明白であるにも拘らず、原判決が単に「公訴事実中殺人の点については、その証明十分ならず結局犯罪の証明なきに帰するを以て」という理由のみで無罪の言渡しをしたのは、明らかに事実を誤認したものであり、かつ判決に理由を附さない違法を犯したものというべく、また真犯人を名乗り出た〔己〕こと〔己〕の供述は信用できないのであるから被告人の有罪は動かし難く原判決は破棄を免れないというのである。
 よつて所論に鑑み、本件一切の証拠を総合して検討考察するに、関係証拠によれば、被害者〔甲〕が昭和二四年八月六日午後一一時過ぎ頃弘前市在府町〔略〕〔乙〕方離座敷の階下八畳間に実母〔乙2〕等と枕を並べて就寝熟睡中何者かによつて頸部を鋭利な刃物で一突きに突き刺され死亡するに至つたことは明らかで、本件が殺人事件であることは所論指摘のとおりである。そこで

第一 先づ被告人が右事件の犯人であると主張する検察官のこれを裏付けるものとして挙示する前記各証拠について検討する。

一、直接証拠についての考察
㈠ 海軍用開襟白シヤツ(以下本件白シヤツと略称する。)附着の血痕について。