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が可能であることは同鑑定においても指摘しているところであるから、右長さの相違は左程重要ではない。また刃巾についても異議審における証人〔己〕の供述によれば、それ程正確な記憶でないことが窺われるので、この点の相違もそれ程重要なことではない。寧ろ〔己〕方で働いていたことのある〔乙24〕の検察官に対する昭和四八年一〇月二六日付供述調書の記載によれば、〔乙24〕自身ミシン修理に使う長さ約二一センチメートル位のヤスリを素材として暇をみてはこれをグラインダーにかけ、刃渡約一五センチメートルの匕様の刃物を作つていたことが認められるので、〔己〕がヤスリを素材として本件凶器を作つたと述べていることは十分にありうることである。

(ト) 〔己〕が引き戸から出て潜り戸まで着かないうちに犯行現場の離座敷の方から「泥棒」と叫ぶ女の声が聞えたと供述するところは、〔乙2〕が「泥棒」と叫んだとき男の姿は三間(五・四五四メートル)位前方に見えたとする前記証拠と合致するところであり、この点は〔己〕の供述の信憑性を裏付けるに十分である。
6 逃走経路と供述の関係

 〔己〕が〔乙〕方潜り戸から逃走していつた経路について供述するところを検討する。

⑴ 〔乙〕方屋敷内から木村産業研究所前に至る間の各路上血痕が、被害者の血液によるものとみて、なんら矛盾しないことならびに同所前から北方にのびた道路上一帯には血痕が発見されなかつたことは前記第一、一、㈢、2において認定したとおりである。
⑵ 次に〔己〕の供述する井戸について検討するに、棄却審証人〔乙48〕および同〔乙49〕の各供述記