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ば、その極く短時間内においては被害者の右側創口から血液が着衣に容易に認めうるような程度に附着することもなかつたとみる余地があり、その後、前記認定のとおり、〔乙2〕が被害者の許に駆けつけるまでの間に、被害者が動いて右側創口から蚊帳の方向に、或は左側創口から長女の側に血液が迸出し、〔乙2〕が蚊帳の吊手を外した際、或は被害者を抱いたりしたときの同女の体勢によりさらに各創口から血液が周囲に迸出飛散したことも推測できるところであるから、〔己〕が「手の平から手首にかけて被害者の血がついたが、着衣には気付くほどには附着していなかつた」と供述するところは、証拠上首肯できるところであり、不合理な点は認められない。

(ヘ) 凶器について
  次に本件犯行について用いられた凶器について〔己〕の供述するところを検討する。
  前記木村鑑定によれば、本件犯行に使用された刃器が、片刃の鋭利なもので、峰の厚さは、二・三ミリメートル前後、刃巾は一センチメートルから一・五センチメートル、精々二・三センチメートル位まで、刃渡りは七、八センチメートルから一五センチメートル位と推定されたことは前記第一、二、㈡記載のとおりである。そうすると乙の供述する凶器は、右推定の刃器に較べて長さにおいて一二・三センチメートルから五センチメートル位、刃巾において二・五ないし〇・七センチメートル大きいほかは、峰の厚さ、片刃である点において一致する。しかも右推定刃器の長さについては、右鑑定によれば、凶器が輪状軟骨を裁断していないことから、重量の軽い刃器と推定したことによるのであつて、右推定の長さ以上に長い刃器でも本件創傷をもたらすこと