Page:Retrial judgement of Hirosaki incident.pdf/56

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  前記実況見分調書、前記検視調書の各記載、〔乙2〕の検察官に対する昭和二四年八月三一日付供述調書、原一審証人〔乙2〕および〔乙〕の各供述記載、前記原一、二審検証調書および昭和二五年八月二八日付原一審検証調書の各記載によれば、被害者の鮮血は、同女の頭髪、前胸部、背部、腰部に流れ、その衣類はもとより敷布団、畳に大量に惨みわたり、蚊帳の南側中央下部、座敷南西隅のタンスの下部、その附近の柱(縁側と座敷の間の敷居の西端のもの)の下部等には、明らかに迸出飛散した状況で附着していたこと、被害者のすぐ北隣りに寝ていた長女にも鮮血が飛び散つていたことが認められる。
  しかしながら前記木村鑑定および村上鑑定を総合すれば、左総頸動脈部に損傷を受けた場合に、創口と凶器の密着の度合如何によつて、犯人が凶器を刺したときから、抜き終る瞬間および抜き終つた極く短い時間内に合計して少量の血液が被害者の右側創口から「あふれ出る」可能性(村上鑑定では「迸出」または「噴出」の状態と表現するが、その可能性が少ないことは前記一、㈠に述べたとおりである。)はあり、さらに凶器を抜き終つた後の短時間内(数秒ないし三〇秒位までの間。)に被害者が頭部や顔の姿勢を変化せしめた直後に、せいぜい一〇秒位のところは、なお血液があふれ出る力は残りうるものであつたこと、また左頸部の傷は僅微ながら上正中方から下側方に傾いているため、血液は直線的の噴出ではなくとも、かなり強い力で左頸部に沿い左耳殻およびその後方に向つて流出したものと推定されることが認められる。
  そうすると〔己〕が供述するごとく、凶器を一気に抜いて直ちにその場から立ち去つたとすれ