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村鑑定によれば、その方向は左頸に沿い左耳殻およびその後方に向つて流出したことが推定されている。)それが一因となつて〔己〕の供述するごとき「水の流れるようなゴボゴボという音」を発したこと、そして凶器を抜き去るとき上方の創傷をもさらに切り開いて拡大したこと、そして凶行後被害者の屍体検案に際し、被害者の顔が真上に向くように位置せしめたとき、右凶行によつて生じた傷は右輪状軟骨附近において接する方向の異る二条の創管の存在を示すことになつたことが推察でき、この項についての〔己〕の供述は、事件当時鑑定人が被害者の叙上各創傷と成因について考察したところと微妙に合致し、同供述の信憑性は極めて高いということができる。

  そして〔己〕が「被害者が首をねじつたとき凶器が全然動かなかつた」と述べているところは、被害者が首を左に傾けたとき頸部を突き抜けた凶器の刃先が下方の皮膚にあたつたためであり、その際a後段の弁状傷が生じたとみれば、これまた創傷の状況は〔己〕の供述に微妙に符合する。ところで〔己〕は凶器が「頸部を突き抜けて布団に刺さつたと思う」と供述するが、棄却審証人〔丙5〕の供述によれば、前記実況見分調書における見分の際、被害者の敷布団に損傷があつたかどうかについては確認されなかつたことが認められ、同実況見分調書にもその点の記載はなく、他にこの点の状況を判断しうる証拠はない。
(ホ) 〔己〕は凶行によつて手の平から手首にかけて被害者の血がついたが、着衣には気付くほどには附着していなかつたと供述するので、次に被害者の出血状況につき検討する。