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がら狂い、また被害者において刃尖の刺つた瞬間から無意識、反射的に頸を廻わしたことがあれば、これらが複雑に関連することにより、頸部内部の二条の創管(前左方に僅かに彎出した弓状の創管)が生ずるものと考察された。

f a後段の弁状傷は、犯人の手許が少し狂つて、例えば一度左に突き抜けた刃尖がさらに下方の皮膚に軽く刺さつて直ちに外づれたために生じたものとも考察された。
g 〔己〕が被害者の右横に坐して被害者の咽喉部を垂直に刺したとすれば、まず凶器は逆手にもたなければ、体勢としては極めて不自然であるから、「逆手に持つて」刺したとの供述は首肯できる。また刃が自分の方に向いていたとする供述部分は、左右の横向きは除いて、その角度は一六〇度から一七〇度の巾のある範囲内のことであるから、右横に近い内側の刃向きであれば、柄の握りにぐつと力を入れて一気に突き刺せば刺創の方向と必ずしも矛盾しない。
  次に被害者が凶行時に上を向いていたとする点も同女が真上より約二〇度顔を左方に傾けていたことをも「上を向いて」と表現できるのであるから、その場合上方より垂直に突刺して本件創傷を生起せしめうるので、〔己〕の供述と刺突の状況との間に矛盾はないこととなる。
  被害者が真上より約二〇度顔を左方に傾けていたときに、〔己〕がその供述のとおり一気に刺突したところ被害者がさらに首を僅かに左方に傾けたとするならば、凶器の峰が輪状軟骨の上縁の附近にあたつていて、これが起点をなして刃先の方でさらに下方の創傷を拡大したこと、そしてその際左総頸動脈の創口と密着していた刃が少し離れて、該動脈から血液が逆出し(木