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  凶器を思い切り刺したところ、止まつてそれ以上刺さらなくなつたし、被害者が首をねじつたとき凶器が全然動かなかつたから、頸部を突き抜けて布団に刺さつたと思う。そして被害者ののどから右の「ゴボゴボ」という音がした瞬間、余りひどいことをしたなと感じ、また同時に子供のかなり大きな泣き声がしたので、隣に子供が居て、被害者の血を浴びて気がついたのかと思つて、一気に凶器を抜いて蚊帳から出て、侵入した引き戸から庭へ逃げた。子供の泣く声は聞いたが、子供はみなかつた(なお、〔己〕は前掲昭和四六年六月二四日付上申書および録音テープでは、被害者を刺す前に同女の左隣りに、性別は判らないが、小さい子供が一人寝ていることが判つた旨述べていて、棄却審における同人の供述(第二回)記載と相違する。)。被害者の母親の姿はみなかつたし、「〔甲〕」と叫ぶ声も聞かなかつた。
  右凶行の際に自分は血を浴びなかつたと思つた。ただ凶器を握つている右手の、手の平から手首にかけてだいぶ血がついた。被害者は声を発しなかつた。
10 引き戸から出て、庭伝いに、通つてきた潜り戸のところに向つて走つたところ、その戸まで着かないうちに犯行現場の座敷の方から「泥棒」と叫ぶ女の声を聞き、被害者のほかにまだ人が居たことが判つた。「泥棒」という声は何回も叫ばれたわけではない。
11 凶器を手に掴んだまま潜り戸から出て、別紙図面㈡のとおり右方(南方)へ曲り、進んでまた右方(西方)へ、さらにその先を右方(北方)へ曲り進んだが、血が垂れていたので、垂れないようにしようとして、木村産業研究所の中に入つた。