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して「八月六日のことについて、これまで色々嘘を申し上げ誠に申し訳ありません、これから正直に申し上げます。」とある部分に続いて「この時午後八時四五分被疑者は室内から事件発生後一か月犯行当夜の月を眺め全く善に立ち帰つた表情を見せ、今度は謝りますと過去の罪を今此処に自白せんとの態度で本職に申立てた。」と記載されているその後の内容は、右証人が被告人から受けた印象とは全く逆に、八月六日の晩は映画館にいつて午後一〇時過ぎ頃戻つた旨述べて、犯行を否認しているのであつて、右証人の印象は思い違いでしかなかつたことが明らかであるから、同証人の原一審における前記供述部分は問題にならない。

三、まとめ

 これを要するに検察官が被告人の本件犯行を立証するものとして挙示した叙上各直接証拠、状況証拠はいずれも被告人の本件犯罪を立証するに足るものでないことが明白であるといわなければならない。身分帳の記載中被告人が本件犯行を認めたような記載部分があるが、右記載の全体を通覧し、併せて当審における被告人の供述を総合すれば、右は被告人が身辺の差し迫つた事情のため仮出獄をにわかに希望した余りの便法に過ぎなかつたことが明らかであるから本件の証拠とはなりえず、他に記録を精査し、本件一切の証拠を検討しても本件が被告人の犯行であることを認めるに足る証拠は何一つ存在しない。  

第二、次に真犯人を名乗り出た〔己〕こと〔己〕(以下〔己〕と略称する)の供述について検討する。

一、〔己〕の供述
㈠ 〔己〕作成の南出一雄弁護士に宛てた昭和四六年六月二四日付、同年七月九日付および同月一一日付各