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望していた被告人として、当時定職がなく時間をもて余していたことが認められるのであるから、紙一枚で証拠を残さず人を殺すことができるといつたような話題に耽り或は実演してみせたりすることがあつても、これをもつて特異な言動とみることもできない。

㈤ アリバイの供述について

 原一審公判廷における被告人の供述記載によれば、被告人は一貫して犯行当夜は自宅にいたと述べているところ、被告人の司法警察員に対する供述調書二六通、検察官に対する供述調書一二通中アリバイに関する部分の各供述記載によれば、被告人は捜査の当初の段階では、〔乙20〕方に将棋を差しに行つたと思うと述べた後は将棋を差しに行つていなければ家にいたという供述をなし、それが昭和二四年八月二二日より同月二六日まで続き、その後同月二七日二八日には、にわかに記憶がないということに変り、その後同月二九日から同年九月一〇日にかけて公園とか映画館に行つていたということに変り、それが同月一〇日より同年一〇月二四日までの間の検察官の取調に対しては家にいたという供述に戻つていることが認められる。
他方被告人の家族等が捜査官の取調を受けた際述べたところは、原一審における証言として、被告人の父親である〔丁2〕は、自分は自分の部屋にいて被告人がいたかどうか判らないと述べたと供述し、妹〔丁4〕も被告人がいたかどうか判らないと述べたと供述し、母とみは自分は被告人は〔乙20〕方へ行つたか或は映画へ行つたかもしれないと述べたが、子供等が交番で取調を受けて戻つてきてからきくと、或る者は被告人は家にいないと答え、或る者は寝ていたと答えてまちまちであつたと供述し、妹〔丁〕は自分は