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学的領域を逸脱したものというべく、かかる鑑定に証拠価値を認める合理的理由は乏しい。

㈣ 本件発生前後の被告人の言動について

 被告人の司法警察員に対する昭和二四年八月二六日付、同年九月四日付、検察官に対する同月一一日付、同月二七日付各供述調書の記載、原一審証人〔乙4〕、同〔乙5〕、同〔乙6〕、同〔乙22〕、同〔乙8〕、同〔乙7〕の各供述記載によれば、被告人は〔乙6〕、〔乙8〕、〔乙7〕等に対し、犯人の侵入、経路、殺害方法を手真似身振りを交えてしきりに話して聞かせたこと、〔乙4〕方には本件発生前は一、二日おきに訪ね、長居して屡々泊つたりしていたが、本件発生後は泊ることもなく、来ても短時間で帰えり、話題は専ら本件殺人のことであつて、前後に相違がみられるということ、また被告人は紙一枚でも人を殺せるとか、人に気付かれないで部屋に入る方法とか、音を立てないで歩く方法とかを話し、また音を立てずに歩いてみせたり、さらに手の平を刀のようにして咽喉を殴れば倒すことができるとか、泥棒はタンスを下の方から開けるとか述べ、空手や忍術の話にも関心を抱いていたことが認められる。しかし被告人は警察官になることを希望していたのであるから本件殺人事件に強い関心を持つことは自然であり、侵入経路や殺害方法は新聞等で知りうる事柄であるから、それを知人に話して聞かせたからといつて何ら異とする程のことではない。また本件のような衝撃的な事件が発生し、一人被告人のみならず、大多数の市民の目が捜査の推移に集中していた折であつてみれば、〔乙4〕に対する被告人の態度に変化がみられたとしても少しも不思議なことではない。その他の点についても被告人の前記各供述調書によれば、これらは本とか人から聞いたことなどの請け売りで、警察官を希