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対する昭和二四年八月三一日付供述調書において、犯人の横顔と後姿をみている。今でも犯人の横顔や後姿をみればその人が犯人であるかどうかの判断がつくと思うと述べた後、その供述の日と同じ日に中津軽地区警察署写真室の硝子窓から被告人を透視し、犯人とそつくりである、右側からみた横顔の輪郭も全然同一である、頭髪が少しもつれて前に出ている恰好、また後姿、胴の細さ、肩の下つているところも全く同じで、犯人と酷似している、と述べているのである。

3 しかしながら同人は本件犯行後間もない頃に作成された司法警察員に対する昭和二四年八月八日付供述調書では、その晩は寝るとき二燭光の小さな電気をつけていたので、娘を殺した犯人の顔は殆んどみなかつたが、服装だけは大体みえたと述べているのであつて、これによると同人は結局犯人の輪郭から受けた印象をもつて被告人を観察したに過ぎないことが認められる。それでいながらかくまでに断定的なことを供述するというのは、被告人が容疑者として検挙された以後における同人に対する憎しみが強く働き、先入感に大きく左右された疑いが極めて濃厚であるといわなければならない。したがつて右証人の証言をもつて本件犯罪の証拠に供することは合理性に乏しく、かつ危険である。
㈤ 〔乙11〕の証言について

 弘前市在府町〔略〕に居住する原二審証人〔乙11〕が、犯行のあつた昭和二四年八月六日夜一一時過ぎ頃同人方居宅において、白シヤツを着、半ズボンをはいた男が同人方前道路上を木村産業研究所の方から〔乙10〕方の方へ駈けてゆくのを目撃した旨述べていることは所論のとおりであるが、このことは前記路上血痕より推認される犯人の逃走経路からも推察されることであつて、右経路が被告人方周辺の血痕