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に逃走したとしてその境界附近は勿論それとは別の逃走路を選んだとして〔乙29〕方裏に至るまでの間には、その周辺に必ずや幾滴かの血痕はあつた筈である。それが〔乙10〕方潜り戸の敷居上に人血痕が発見されたのみで周辺の他の箇所からは一切発見されなかつたということは不可解の一語に尽きる。右認定の諸事情を総合すれば前記関連性はこれを否定するのが相当であり合理的であると判断される。してみると被告人方周辺より発見された血痕は被害者の血液に由来するものとは認め難く、右血痕をもつて本件犯罪の証拠に供することはできないといわなければならない。

 なお原二審証人〔丙4〕、同〔丙8〕の各供述記載および原二審検証調書の記載によれば、〔丙8〕は本件発生後警察犬を使つて離座敷東側窓下の草の踏みつけられた跡の臭いを頼りとして二回に亘り犯人の足取りを追跡させたところ、その経路は、東側窓下より北方、次いで西方へ進んで離座敷の南西方向に接続して所在する〔乙〕方母屋の西側裏をひと廻りして東方の表門の附近に出ながら、潜り戸を通らずに、南側隣家の木村産業研究所との境に近い生垣を抜けて右表門前の南北に走る道路に出、前記路上血痕滴下のあとを辿つて同研究所前を北方へ直進し丁字路に突き当る少し手前の西側の〔乙44〕方空地内に入つて同所の井戸の回わりをめぐつて、元の道路に戻り、右丁字路を西方へ折れて、〔乙10〕方に至る手前で追跡を止めていることが認められる。ところが本件の犯人は〔乙〕方表門側に逃走しており警察犬はそれを外れていることが明らかであるから、警察犬の嗅覚は犯人とは別の嗅いを追つた可能性があり、またそれが〔乙10〕方手前に至つて止まつてことは、同家玄関前敷石上に滴下した血痕との結びつきを寧ろ否定することとなるのであるから右警察犬の追跡には全く証拠価