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ら、これに右血液滴下の状況ならびに前記古畑鑑定において、〔乙〕方屋敷内から木村産業研究所前に至る間の各血痕は、犯人の歩行にしたがつて、犯人自身或は犯人の携行物件から血液が滴下して生じたものであると認めることができる旨述べている点を総合すれば、叙上説示の路上血痕は、被害者〔甲〕の血液に由来するものと認定できると共に犯人の逃走経路を示しているものということができる。

 そして本件全証拠によるも、木村産業研究所前から北方にのびかつそののびた先から東西に走る〔乙10〕方ならびに被告人方(ここまでほぼ二〇〇メートルの距離がある。)家屋の所在する道路上の一帯には、血痕らしきものは何一つ発見されなかつたことが明らかである。
3 そこで被告人方周辺より発見された前記血痕と被害者の血液に由来する前記路上血痕との関連性について考察してみるに、若し関連性があると仮定した場合犯人は〔乙10〕方玄関前敷石上に立つてなお六滴の血液を滴下せしめていることになるのであるから、木村産業研究所前から〔乙10〕方までおよそ二〇〇メートルの道路上に、現場から右研究所前までの場合と同様必ずや幾滴かの血液の滴下があつてしかるべきである。しかるにその間には一滴の血痕も発見されなかつたことは前述のとおりであるから、この事実は右仮定を一応否定するに足るものということができる。或は捜査不十分のためまたは通行人に踏み消されたため血痕を発見できなかつたという疑問も考えられないわけではない。しかしそうなれば犯人は〔乙10〕方に六滴、被告人方裏より通じる〔乙29〕方裏の漬物石上に一滴それぞれ血液を滴下せしめていることになるので、犯人が〔乙10〕方から境界の生垣を抜けて被告人方