Page:Retrial judgement of Hirosaki incident.pdf/17

提供:Wikisource
このページは校正済みです

十分に推察される。

  なお当審において取調べた上野正吉著「犯罪捜査のための法医学」によれば、血痕の色の変化について赤褐色から褐色、帯緑褐色、灰色と変化するが、直射日光に当てないように室内に置くと赤色ないし赤褐色の色は数週ないし月余に亘つて保持され、数年を経て始めて褐色ないし灰褐色となる。ところが弱くても日光に当てると数週で灰色となり、強い日光の照射下では数時間で灰色になると述べられている。これによれば被告人は本件白シヤツを作業用に使用していたのであるから、血痕が附着していたとすれば恐らくその色合いは灰色に変色していた可能性が強い。ところが前記古畑鑑定によれば、本件白シヤツ附着の血痕が「畳の血」と同じ赤褐色であつたというのであるから、本件白シヤツは全く直射日光に当てない室内に終始保存されていたとみなければならず、この点にも解き難い矛盾が感ぜられる。
 これを要するに昭和二四年一〇月一九日付松木・〔丙〕鑑定ならびに三木鑑定および昭和二五年九月二〇日付古畑鑑定の結果本件白シヤツ附着の血痕が被害者の血液型と同じB・M・Q・E型であつたという結論を導き出した当時の斑痕の色合いと、これを押収した昭和二四年八月二二日当時の斑痕の色合いとの間に色合いの相違が瀝然としていることは疑いなく、この点は大きな疑問としなければならない。本件白シヤツが押収された当時弘前市警察署でこれを見分した当審証人三名は、その色合いの印象を色名帖を参考にして次のとおり述べている。即ち証人〔丙4〕は灰色がかつた赤紫(ぼたん色がかつたねずみ色)といい、証人山本正太郎は灰色がかつたピンク