Page:Retrial judgement of Hirosaki incident.pdf/12

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ば、動脈よりの血液は同じ場所に出た静脈の血液を伴い「迸出」または「噴出」の形で右の創口に向つて突進する可能性はあるが、凶器が進んで左の創口を作り終えた時は、出血血液の大部分が左の創口から出る可能性がある。次に凶器が抜き去られる経過中に刃先が左総頸動脈や内頸静脈の部を超えて前右へ移つた瞬間を考えると、この瞬間には大部分の血液は左の創口から出ることが考えられ、凶器を抜き去り終つた瞬間には左の創口から大部分の出血があり、右の創口からは大して出血せずにすむことを推定しているので、いずれの場合を考察しても被害者の右側から右頸部を突刺し左頸部に凶器を穿通せしめた犯人の姿勢、体位に鑑み、その犯人の着衣に被害者の血液が「噴出」または「迸出」の状態で飛散附着することはなかつたのではないかと推定される。尤も村上鑑定人は右頸部の創口から少量ながら血液が「噴出」または「送出」する可能性があることを推定しているけれども、原一審証人〔乙2〕の供述記載によると、同人は圧迫されるような夢をみて目を覚まし〔甲〕の方をみた瞬間〔甲〕の枕許に前かがみにしやがみ同女を覗きみるようにしていた白い開襟シヤツらしいものを着た若い男の右手が動き何か凶器をきらめかした様子を目撃し、次の瞬間〔甲〕と叫び起き上ると同時にその男は蚊帳をまくり外に逃げ去つた。布団、敷布、畳は血の海になつていたというのであるから、これによると〔乙2〕は犯人が凶器を引抜いた瞬間右頸部から血液が「噴出」または「迸出」する状況は勿論白開襟シヤツにそれが飛散する状況も認めておらず、出血は専ら左頸部側に向つて流出していたことが窺われることならびに本件白シヤツに認められる前記B、C、F、I、J、Kの六点の斑痕の状況は相互に極めて不規則、不揃いで一見して