Page:Retrial decision of Hirosaki incident.pdf/9

提供:Wikisource
このページは校正済みです

から出て、侵入した引き戸から庭へ逃げた。子供の泣く声は聞いたが、子供はみなかつた。被害者の母親の姿はみなかつたし、「〔甲〕」と叫ぶ声も聞かなかつた。右凶行の際に自分は血を浴びなかつたと思つた。ただ凶器を握つている右手の手の平から手首にかけてだいぶ血がついた。被害者は声を発しなかつた。

10 引き戸から出て庭伝いに、通つてきた潜り戸のところに向つて走つたところ、その戸まで着かないうちに、犯行現場の座敷の方から「泥棒」と叫ぶ女の声を聞き、被害者のほかにまだ人が居たことが分かつた。「泥棒」という声は何回も叫ばれたわけではない。
11 凶器を手に掴んだまま、潜り戸から出て、別紙㈡のとおり右方(南方)へ曲り、進んでまた右方(西方)へ、さらにその先を右方(北方)へ曲り進んだが、血が垂れていたので、垂れないようにしようとして、木村産業研究所の中に入つた。当時同研究所の二階にはダンスホールがあり、同ホールにはダンスをしにしよつちゆう行つていて、その際研究所の門から入つて約二〇メートル先の北方寄りにある小屋に附属している便所を使用したことがあつたから、その小屋の傍を抜け、便所の裏(東側)の暗いところに行つたところ、そこに井戸があつた。井戸のあることはそこに行つてみて初めて知つた。そこで鞘代りにしていた布を凶器に巻きつけて三〇秒位で同所を出たが、そのときは、警察犬のことを考えて遠回りして行こうと思つた。
12 同所を出るとき、自転車に乗つて北方から近づいて来た人がいたが、それを通過させてから研究所を出て、別紙㈡のとおり右方(北方)へ進み、突き当つて左方(西方)へ折れ、那須方前を通つて茂