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和二四年五月六日犯した強盗致傷事件では、屋台店の女性に矢庭に背後から抱きついてねぢ倒し、同女の首をしめたりした上所携の匕首で同女の右頸部および右腰部に切りつけており、同年七月二一日犯した建造物侵入、強姦致傷事件では、弘前医科大学附属病院看護婦宿直室に侵入し、就寝中の看護婦を姦淫しようとして暴行に及んだが騒がれて目的を遂げず、所携の鋭利な刃器で同女の右膝蓋部等に切創を負わせ、更に同年九月二日看護婦を姦淫する目的で再び同病院に侵入しているのであつて、その女性を襲う性癖、犯行の突発性、狂暴性からみて本件犯行の動機の認定に左程不合理な点はないのである。)

㈣ 結語
1 〔己〕の供述には、本件発生以来長期間を経過しているため、忘却或は記憶の不鮮明な点は多少あるとしても、全体としては証拠によつて認められる客観的事実によく符合し、殊に被害者の刺創の状況、逃走途中の血液滴下の状況などは、供述と微妙に合致し、考えられる動機の点も含めその信憑性は極めて高いものがある。
2 これに反し那須に対し有罪を認定した原二審判決の認定事実と証拠とを仔細に検討した結果は、そこに疑問点も存していることが明らかとなり結局同人を有罪とするには証拠上極めて疑わしいの一語に尽きることが判明した。
3 これを冒頭に示した最高裁判所第一小法廷の見解に従い考察すれば、那須に対する原二審判決は