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「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則の適用をみるべき事案であり、〔己〕の供述は「もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてされたような事実認定に到達したであろうかという観点」に立ち「当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価し判断」した結果に鑑み「確定判決における事実認定につき、合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」即ち刑事訴訟法四三五条六号にいわゆる「明らかな証拠」に該当するものということができる。

4 しかるに原審が那須を本件〔甲〕殺害の犯人とした原二審判決の認定の正当性は動かし難いとし、他方〔己〕の供述がそれ自体において同人を真犯人となすについて決定的要素に欠けるとして「明らかな証拠」の該当性を排斥するに至つたのは、事実を誤認した結果によるものであつて、取消を免れない。論旨は理由がある。

三 よつて刑事訴訟法四二八条三項、四二六条二項により原決定を取消し、同法四四八条により本件につき再審開始の裁判をなすべきものとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三浦克巳 裁判官 松永 剛 裁判官 小田部米彦)