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持の事実を認め且つそのナイフのその後の行衛を明らかにし得る筈である」と断じ、また関係者の供述から那須が捜査に協力したことや、アリバイ工作をしたこと、また本件犯行の頃以降同人の態度に落着きがないことなどが認められるとして、同人には「精神分析学上の所謂懺悔強迫」の表われが看取されると判定した諸点である。しかし同鑑定の右諸点には同鑑定人の独断、先入感に左右された推論がきわだち、首肯できないものが多い。

  以上のとおり同鑑定は全体を通じて、基礎資料蒐集の方法、同資料に対する評価、推論の過程等において疑問の点が多く、原二審判決が動機として説示したところに対する証拠としては適正な価値を認め難い。
(リ) これに対し那須につき精神鑑定をした原二審鑑定人石橋俊実の鑑定書の記載によれば「顕耀慾的誇張的性向をもつ人間であることは否定出来ないにしても、それが正常域を著しく超えているとは断定し難い」「精神病質者(性格異常者)であるとの結論には達し得ない」「変態性慾者であるという断定は下し得ない」というのであつて、先に認定したような那須に対する周囲の人々の評価即ちその性格、日頃の行状、生活態度等を考慮すれば、右鑑定結果に寧ろより多くの適正妥当な価値を認めることができる。原二審判決は、右鑑定は「目下の段階では、被告人が変態性慾者であると確実に断定は下し得ない」というに過ぎないとして排斥しているが、右にいう「目下の段階」にはそれ程重要な意味はない。これを「過ぎない」として一蹴することは検討不十分