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は、〔乙37〕や元の雇主の供述等である「一種の性格破綻者」とか「人によつて都合のよいように云う」とか「極めて陰険且つ狡猾で図太い」とかいうところを引用したものであるが、これを同鑑定人自身が正しいものとして把握できたとするその検討の過程は見当らない。また同鑑定人は那須や同家族らの捜査官に対するアリバイに関する供述を検討し、「被疑者に著しき虚言癖あることを認めざるを得ない」(同鑑定一四枚目表)とし「今仮りに百歩を譲つて被疑者の主張する忘却、記憶欠損、追想不能、記憶の空白が真実の事実なりとすれば、これは即ち精神分析学上の所謂『抑圧による忘却』の現われと説明する他なき事となり、八月六日の夜の被疑者の経験はこれを追想する事が被疑者の非常に苦痛となり、彼に堪え難き良心軋轢を惹起する事実を包含する事を推論せしむるものというべきである」(同鑑定一四枚目裏)としているが、那須の供述の変遷を右のように解釈するほかないとすることには賛同し難い。

(チ) 原二審判決が挙示した前記(イ)、cの部分(同鑑定二一枚目)について、同鑑定人が検討したところは「被疑者が松永夫人を見た事実があつたであろう事が明らかに察せられる」とし、しかるに被疑者が実際はみていないと云うのは「必要以上の否定が却つて肯定を意味するという原則を適用すべく、被疑者が松永夫人に大なる関心を持つた事延いては被疑者が真犯人ではないかと云う事を察せしめる有力な根拠が吾人に与えられることになる」となし、また那須が大型ジヤツクナイフを持つていることを否定していることにつき「真犯人でないならば平然として右ナイフ所