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(ロ) 先づ同鑑定三枚目裏に「内心に残忍性、短気な傾向を包蔵し、その傾向を抑圧する結果反動として極端に柔和な猫のような態度が表面にあらわれるに至つているものと察せられる。」と断ずる。
  しかしその資料は、〔乙20〕、〔乙36〕の供述などに「ねちねちしている」「ねつちりした尻の長い人だ」とか「現実的でない事を考えている人だと考えられる」とか、同鑑定人が僅か一回一五分位那須に面接して得た印象として「表面的には猫の様におとなしく、態度行動が一般に女性的である」ということや、転職、犯行時無職であつたことなどが挙げられるのであるが、そこからどうして「残忍性」があり、また表面的におとなしくみえるのはその「反動」であるといえるのかについては「精神分析学が教える処」からというだけでは首肯できない。
(ハ) 同鑑定四枚目表に「精神内界に残虐性の潜んでいる事を察せしめる」とする資料は、〔乙3〕の「被疑者は奇抜な思想の持主であるらしく特に女の話などに就いては『強姦』とか『殺す』とかいう言葉が出たりした」という供述であるが、右言葉の出た状況も、具対的内容も明らかでないし、また何故に右言葉から直ちに残虐性があると推察できるのか疑問である。
(ニ) 同鑑定四枚目表に「他人の死とか不幸を問題にし、これに無意識的に興味を持つ傾向があり、而かも意識的にはその反動としての偽善的、博愛主義的傾向を示した事が窺われる」と判断している資料は、〔乙37〕の「友人が死亡すると那須は誰よりも早くそれを知り、花をあげなけれ