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那須もその晩夜中に長坂町に火事があつて明け方〔乙6〕から大変うなつていたと云われたことを認めており、また真実犯人であれば、自分から進んで犯行を認めるような恐れのある夢を人に話すこともないと思われるので、若し〔乙6〕のいうとおりの夢の話があつたとすれば、それは却つて那須が犯人でないことを裏書きするものともいえるのである。

⑸ 丸井鑑定は、以上検討の経過とはおよそ著しく相違する結果を示しているので、次にこの鑑定を検討する。
(イ) 原二審判決は同鑑定中
a 「表面柔和に見えながら内心即ち無意識界には残忍性、サデイスムス的傾向を包蔵しており、相反性の性格的特徴を顕著に示す」
b 「精神の深層即ち無意識界には婦人に対する強い興味が鬱積していたものとみることができる」
c 「本件犯行の起つた日時及びその直後における被疑者那須の行動、被害者に対する関係その他被疑者丙の警察官及び検察官に対する供述を検討してみると、精神医学者、精神分析学者としての鑑定人は、凡ての事実を各方面から又あらゆる角度から考察し、被疑者那須は少くとも心理学的にみて、本件の真犯人であるとの確信に到達するに至つた」
 との記載を挙示する。しかしそこには色々と疑問の点があり、直ちに信用することのできないものがある。