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 とあるのみである。しかしこの人血判定の時点は前記のとおり、鑑定嘱託をした昭和二四年一〇月一五日頃のことと解するほかはないのであるから前同様の理由で色合いの相違する事実を左右するものではない。他には本件白シヤツの斑痕について色合いの違いにかかわりのある証拠はない。
  原一審弁護人は、第二七回公判で引田一雄を証人として申請し、同証人のみた本件白シヤツの斑痕の色彩と古畑教授のみた色彩が相違している点ならびに何故に同証人の許から本件白シヤツを引揚げたかの点を立証しようとしたが、同証人の申請は却下された。
  何故に引田一雄の許から本件白シヤツを引揚げたのか、この点について述べているのは原一審証人〔丙〕の供述として「引田一雄がシヤツのルミノール反応を検査したがはつきりしないというので、科学研究所に念のため鑑定を依頼した」とあるのみである。当審証人引田一雄は、そのようなことをされたのは未だ嘗てない経験であつたので非常な侮辱を感じたという。引田教授は本件発生以来路上血痕など嘱託されて数々の鑑定をしてきていたことは前記のとおりであるから、結果はどうあれ、本件白シヤツについても鑑定報告をして貰つて何ら差支えなかつた筈である。それを中止させたのは「念のため」というだけでは理由にならない。
  尚検察官は、引田教授の鑑定能力を疑問視して、同人の証言よりは法医学の世界的権威者である古畑教授の意見の方が高く評価できるし、証拠としては、こちらを採用すべきであると主張する(最終意見書参照)。しかし引田教授が本件白シヤツについて鑑定を完了しておれば、これを学問的に批判し、評価することは許されるが、その事実がないのに、いたずらにその能力を評価すること