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か、おそらく良心の呵責から何もきかないでくれと云つたと考えている」と供述しているのである。しかし「本件発生後満一月目」というのは、同証人の供述によれば、那須の供述を同証人が録取した昭和二四年九月六日付供述調書作成以前のことであることが窺われるところ、同調書をみると、那須の供述として「八月六日のことについて、これまで色々嘘を申し上げ誠に申し訳けありません、これから正直に申上げます」とある部分に続いて「この時午後八時四五分被疑者は室内から事件発生後一か月犯行当夜の月を眺め全く善に立帰つた表情を見せ、今度は謝りますと過去の罪悪を今此処に自白せんとの態度で本職に申立した」と記載されているところは、前記(イ)、cの供述記載部分とよく符合しているのであるが、同調書の右記載部分のあとの内容は、右証人が那須から受けた印象とは全く逆に、八月六日の晩は映画館えいつて午後一〇時過頃戻つた旨述べて、犯行を否認していることに変りはないのであり、これよりみても同証人が那須について印象を語るところは、単に同証人の思い違いとしか思われない。那須は原審公判で「今夜だけは取調をしないでくれと云つた記憶はないが、休ませてくれといつたことはある。悲愴な顔をしたことはない」と述べており、原一審証人〔丙2〕も前記(イ)、cの供述記載部分の証言後、同公判で前記のように一応取調をしようとしたところ、「那須が気持が悪いから」また「健康を害しているということであつたから取調べなかつた」と証言し、これは那須の右供述に符合するのであつて、同人が右証人のみるところの「悲愴な顔」をした原因というのは、那須の健康状態にあつたものと解する余地が十分にある。したがつて右(イ)、cの供述記