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ものとは直ちに断定し難く、寧ろ笹の葉上のものは血痕であることが否定されたことよりみれば、那須が犯行後生垣をくぐり抜けて自宅に戻つたとする推理は成り立たなくなるので、原二審判決の挙示する(ロ)の条件も否定されなければならない。

⑶ 〔乙2〕の供述について
  原一審証人〔乙2〕は、犯行にみた犯人は那須に間違いなく、面通しでみたときには、同人が犯人と全く同じであり卒倒する様に感じたほどであつたと述べ、同人の検察官に対する供述調書(一、二回)では、犯人の横顔と後姿をみている。今でも犯人の横顔や後姿をみれば、その人が犯人であるかどうかの判断がつくと思うと述べた後、その供述の日と同じ日に中津軽地区警察署写真室の硝子窓から那須を透視し、犯人とそつくりである、右側からみた横顔の輪郭も全然同一である。頭髪が少しもつれて前に出ている格好、また後姿、胴の細さ、肩のさがつているところも全く同じで、犯人と酷似していると述べている。
  しかし同人は本件犯行後間もない頃に作成された司法警察員に対する昭和二四年八月八日付供述調書では、その晩は寝るとき二燭光の小さな電気をつけていたので、娘を殺した犯人の顔は殆どみえなかつたが、服装だけは大体みたと述べているのであつて、これによると、同人は結局犯人の輪郭から受けた印象をもつて那須を観察したに過ぎないことが知られる。それでいながらかくまでに断定的なことを供述するというのは、那須が容疑者として検挙された以後における同人に対する憎しみが強く働き先入感に大きく左右された疑いか極めて濃厚であるといわなければならない。原二