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 右の「明らかな証拠」であるかどうかは「もし当の証拠が、確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてされたような事実認定に到達したであろうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべき」であり、
 この判断に際しても「再審開始のためには、確定判決における事実認定につき、合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用される」ものと解すべきである。(括弧は当裁判所で付したものである)

二 弁護人の法令解釈の誤り、経験則違背、審理不尽による事実誤認の主張について。

 所論は要するに、原決定が、〔己〕の供述を真犯人のそれとしての信憑性を損わしめるというほどの矛盾はなく、かつ原二審判決の有罪認定の根拠となつた証拠の大部分につき、その証拠価値に疑問があることを判示しながら、結局丙の着用していた海軍用開襟白シヤツ(以下本件白シヤツという)に附着していた血痕が被害者の血液と一致する確率が高いから、これが本件凶行により附着したものと認めることができるとし、確定判決の正当性は動かし難いとして、再審請求を棄却したのは、経験則を無視し、尽くすべき審理を尽くさず事実を誤認したもので取消しを免れないというのである。
これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

㈠ 〔己〕の本件殺人事件に関する供述

 この点につき原審がその挙示する証拠により認定したところは、当審においてもこれを是認できるところであり、その記載によれば概要次のとおりである。(当審事実認定の証拠は挙示するもの以外は原