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屋の便所を使用した際これを知る機会があつたとみる余地はある。」として〔己〕がそのとき始めて古井戸のあることを知つたという供述の信憑性に疑問を投げているが、〔己〕に若し自分の供述に信憑性を持たせたいと思うならば、警察犬が立ち止つて動かなくなつた古井戸が遠く離れた別の場所にあつたのであるから、その井戸を持ち出せばよかつた筈である。ところが〔己〕にはその供述全体から窺われるようにそのような素振りは全くみられないのであるから、この部分の同人の供述も、当時の記憶をありのままに述べているとみるのが妥当である。
- ⑺ 以上これを要するに、原決定が〔己〕の供述の信憑性を検討し、これに疑問を投げているところはすべて理由がないことに帰する。
㈢ 原二審判決の検討
1 認定事実
原二審判決が認定した「罪となるべき事実」は次のとおりである。
「被告人は精神医学上いわゆる変質状態の基礎状態である生来性神経衰弱症であつて、変質的傾向とみられる性行があつた。かつて深夜熟睡中の友人の枕元に立膝して、その首を締めつけ、君は寝首をかかれても判らないよと言つたり、強て新婚の友人夫婦と同室に寝たり、好んで夫不在中の他人の妻を訪ねて食事をしたりなどした。また音をたてずに戸障子をあけたり、歩いたりする方法や、相手を熟睡させる方法を話したり、証拠を残さずに人を殺せると話したりなどしたこともあつた。
被告人居宅から三町足らずの弘前市大字在府町〔略〕〔乙〕方離座敷に、国立弘前大学医学