Page:Retrial decision of Hirosaki incident.pdf/42

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されなかつた』(同月一〇日付陸奥新報)、『在府町空地古井戸(警察犬がぐるぐる廻つて動かず)』(同月一二日付陸奥新報)等の新聞記事がみられるのである。したがつて〔己〕の供述する逃走経路(木村産業研究所内に入つた点を除く)については、一応新聞記事によつても判明していたところであり、また血痕の滴下についても殆んどが〔乙9〕宅前までであることによりみると、木村産業研究所前の滴下をもつて最後とし、以後発見しうるような滴下は生じ得なかつたと解することができるとすれば、必ずしも〔己〕の供述するごとく、木村産業研究所附近で凶器の後始末をしなければ、附近の状況に比べて不合理とも云い難い。したがつて〔己〕の逃走経路に関する供述(木村産業研究所に入つた点を除く)は、必ずしも真犯人でなければなし得ないというものではない。」としている。しかし〔己〕が新聞記事に由来する知識で供述を作り上げたものでないことは、ズボンの記事に照らしても、また〔己〕のいう井戸と当時捜査された古井戸とは遠く離れて全く場所を異にしており、〔乙26〕の調査してきた井戸とも相違していたことからも明らかなことであり、血痕の滴下は木村産業研究所前を最後としていたことは前記のとおりであるから、〔己〕が木村産業研究所の井戸で血が垂れないように凶器に布を巻いたと述べていることも証拠の上で矛盾はないのである。したがつて〔己〕がこの点について架空の事実を作り上げたとするような疑いは証拠上全くない。また原審は「〔己〕のいう井戸が、当時存在していたことは明らかであるが、しかし同人は木村産業研究所階上のダンスホールには本件犯行の二、三か月前から『しよつちゆう』行つていて、その際右便所を使用したことのあることを供述しているところである……から、同人において本件犯行前右小