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の改造の点を指示説明したりしているので、〔己〕の右供述には全く他からの影響がなかつたとは即断し難い面がある。」としている。しかし当審における証人〔己〕の供述によれば、同人には右の点について他からの影響は全くなかつたことが明らかであり、他にこれを覆すに足る証拠はないから、この点の供述は寧ろ信憑性を高めるものとみるべきである。

⑸ 本件凶行ならびに被害者の創傷および成因に関しての証拠と〔己〕の供述が微細に符合していることは前記のとおりである。原審は、刃が自分の方に向いていたとする〔己〕の供述に証拠との相違点を指摘するが、この点も供述と刺創の状況との間に矛盾がないことは前述のとおりである。
 潜り戸までの逃走の状況についても、供述と証拠がよく符合していることは前述のとおりである。
 なお原審が服装の点にふれて「〔乙2〕が目撃した犯人のズボンに関してはその頃の新聞においては、『半ズボン』(当審新聞記事中昭和二四年八月八日付東奥日報)『白の半ズボン』(同月八日付陸奥新報)、『黒の半ズボン』(同月一〇日付陸奥新報)などと報道されていて、〔己〕がズホンを黒と供述したのは、右記事等に影響されたともみられる反面『半ズボン』の点において供述を合わせようとすれば極めて容易なところと解せられるにも拘らず、敢えて『長ズボン』と供述する点は、作為のない点を窺わせるものとみられないではない。」と説示していることは、同時に〔己〕の供述全般の信憑性を検討するに当り注目すべき点である。
 更に原審は「本件凶行および潜り戸のところまでの逃走の状況」の項で「軽々に断ずることはできない」としながらも、結局「〔己〕が前記関係証拠の内容を了知する機会がなかつたとすれば、右供