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(ロ) 原審および当審証人〔乙26〕の供述によれば、〔己〕が服役中の昭和四六年二月頃宮城刑務所内病舎に入所していた折、同じ病室内にいた〔乙26〕らに対し、本件犯行の真犯人が自分であることを告白したことが明らかである。
(ハ) 〔己〕が告白までの経過として、自分に代つて那須が無実の罪で服役していることに悩み、これを解決しようとしてキリスト教に救いを求め、修道女と文通を重ねていたと述べていることは、証拠によつて裏付けられるのであり、告白の動機に必ずしも不自然な点は認められない。
⑹ 〔乙2〕の検察官に対する昭和二四年八月三一日付供述調書、原一審取調の実況見分調書、検証調書の各記載によれば、本件犯行によつて被害者の下着が乱された形跡は全くなく、また家の中を物色された形跡もなかつたことが明らかであるから、この点は〔己〕の供述に符合する。
10 まとめ

 以上〔己〕の供述の信憑性について、該供述と関係の全証拠とを対比しつつ検討してきたが、その結果は、本件発生以来長期間を経過しているため、忘却或は記憶の不鮮明な点は多少あるとしても、全体としては証拠によつて認められる客観的事実とよく符合し、殊に被害者の刺創の状況、逃走経路、血液滴下の状況などは、供述と微妙に合致し、その信憑性は極めて高いものであることが認められるのである。

11 原決定の検討に対する考察

 原審が〔己〕の供述を検討するに当り「注意を要することは、当審証人〔乙26〕の供述記載によつて