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アリバイの調査を進め、その結果同事件の嫌疑はないものと判断したことが認められる。
これらのことから考えれば、証人〔乙25〕の前記証言には、原審が指摘するような前後矛盾する部分が認められないわけではないが、同人においても取調をうけた際〔己〕のアリバイについて不審を抱かせるような供述をしなかつたことが窺われるので、〔己〕帰宅の事実を同人が隠していた当時の記憶は残つていたとみても不自然ではなく、したがつて同証人の証言に暖味な部分があるからといつて、その全部について信用性が乏しいとすることはできず、また〔己〕のこの点の供述に信憑性がないということもできない。

9 その他の状況
⑴ 〔己〕の供述中「本件犯行の一〇日か二週間位前に〔乙〕方二階でミシンを修理したことがあり、その折二二、三才位の娘が二人いた」ということについては、原審取調の〔乙30〕(〔乙〕の五女)の検察官に対する供述調書の記載によりほぼこれを認めることができる。
⑵ 〔乙〕方表門の正面(西方)に同人方勝手口があつたことは、原一審検証調書㈠により明らかである。
⑶ 犯行の翌日「百石町にある映画館大和館に行き、その二階のスクリーンに向つて左側の便所内に右凶器を捨てた」と供述するところは、〔乙31〕の検察官に対する供述調書によれば、百石町にあつた松竹大和館は昭和二四、五年頃解体されていることが認められるので、今となつてはこれを発見するすべもないが、人夫頭としてこの作業に従事した〔乙31〕は、その際便壷(二階の便所のそ