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は同時にまた〔己〕が「血が垂れていたので垂れないようにしようとして木村産業研究所の中に入つた」(門から入つて)「小屋の傍を抜け、便所の裏(東側)の暗いところに行つたところ、そこに井戸があつた。……そこで鞘代りにしていた布を凶器に巻きつけて……同所を出た」(それから)「右方(北方)へ進み、突き当つて左方(西方)へ折れ、那須方前を通つて茂森町に出た」「木村産業研究所のほかには、途中立ち寄つたところはない」と供述していることが、極めて信憑性の高い供述であることを示しているとみることができる。

8 帰宅後の状況

 〔己〕は、自宅に戻り屋外の水道で手に着いた血を洗つたこと、居間に入つて休んだがそのとき〔乙25〕が店の方に寝ていたこと、また強姦致傷等の事件で警察署内に拘束されたとき、本件犯行の犯人ではないかということでも取調を受けたこと等を供述する。
原審証人〔乙25〕は、本件犯行当夜のことについて、〔己〕の右供述にそうごとく、〔己〕は午後一二時頃に帰宅し、水道で何かを洗つた旨の供述をなし、また〔己〕の父親と共に警察に呼ばれていつたときには、右状況を了知していたが、そのことには触れずに〔己〕は確かに家に居たと述べた旨を供述する。
原審身柄関係報告書、原一審証人〔丙6〕および原審証人〔丙7〕の各供述記載によれば、〔己〕は昭和二四年九月三日に逮捕された後弘前市警察署に留置されて強姦致傷等の事件について取調をうけたが、その際本件殺人事件についても同人が犯人ではないかということで取調をうけたこと、しかし〔己〕は本件殺人については頑強にこれを否認し、係捜査官は、〔己〕の家族や同宿人だけについて〔己〕の