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た。履き物は足袋か靴のようであつたが、逃げていくとき足音が全く聞えなかつた。」というものであつた。

⑷ 〔乙2〕は縁側よりすぐに引き返えして、蚊帳の西南隅の吊り手一箇所を外し、被害者の枕許に寄つたが、そのとき同女は頭を枕から外して布団の南側脇の畳の上に乗り出しており、首から血が出ていた。〔乙2〕は被害者を抱き上げたところ、首から血がどんどん出ており、同女は一言「死んでしまうわ」と息たえだえに言つただけで、その後はただハアハア息をするのみであつた。〔乙2〕は被害者の首に手拭を当てたりしたが、すぐさま〔乙〕の居る所へ赴き、同人を呼び起して、病院と警察への連絡を頼み、また被害者の許に戻つたが、同女は凶行を受けてから五分位後に死亡した。
 〔乙〕は警察署等に電話し、また警察官が現場に来る前に表門の所に赴いたところ潜り戸は一尺三寸位(三九センチメートル位)開かれてあつた。
⑸ 警察官により、本件犯行時刻は同日午後一一時一〇分頃と推定された。
⑹ 以上の状況と〔己〕の供述について
(イ) 〔己〕が供述する当時髪をのばしていたこと、犯行時刻が午後一一時過頃であること、被害者の首から腰までの間の右横に、右膝は左膝よりやや同女に近づけてしやがみ、同女の上に屈んでいたこと、凶行時において被害者は首を左側に向けていたこと、他から叫び声がしたときは、まさに凶行に及んでいたところであつたこと、叫び声を聞くや直ちに蚊帳から出て侵入した引き戸から庭へ逃げたこと、引き戸は侵入の際身体が入る位開けていたこと、庭伝いに走り潜り戸まで着